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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第122回】ハイレゾ全曲レビュー:TM NETWORKの名盤「CAROL」の聴きどころ徹底解剖

公開日 2015/04/13 11:54 高橋敦
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▼06: Beyond The Time (Expanded Version)

アムロとシャアの物語を(当時)締め括った映画「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の主題歌。積み重ねられた物語の重みを表現しつつ、それがひとつの終わりあるいは解放を迎えることも感じさせ、そして宇宙(そら)の広さも思い起こさせるような、そんな展開や空間性を持った曲だ。ミディアムテンポのやはりソリッドなドライブ感も気持ちを高めてくれる。

この曲については後ほどより詳細に述べるが、このアルバム全体の大きな魅力である空間表現の豊かさを、このアルバムの中でもさらに最も強く備えている曲と感じる。シンプル&ソリッドでいて躍動するリズムというのもこのアルバム全体の魅力を凝縮したものだ。全ての曲が魅力的なのでそこは人それぞれだろうが今回は僕の好みでということで、この曲をこのアルバムの代表として後ほどピックアップさせてもらう。


▼07: Seven Days War (Four Pieces Band Mix)

こちらも映画「ぼくらの七日間戦争」主題歌。カセット・CD・ハイレゾ版は、中盤にシングルヒットを集めた曲順になっている。こちらもシングル版とはミックスというかアレンジというかが異なり、同じく映画主題歌でありテンポ感も近い「Beyond The Time」と並んだときの対照性を生み出すようなシンプルな仕上げと感じる。

他の曲でも同じように印象的な場面があるが、音場の中央、ボーカルの真後ろという重要な定位に置かれているギターのフレージングとミックス処理が見事だ。ボーカルに対する裏メロあるいはリズムアクセントとして、ボーカルを邪魔せずに巧く絡んで補強するフレージング。そしてその役割に合わせてボーカルの後ろで目立ちすぎずしかし控えめすぎずの存在感になる音量やリバーブで仕上げられたミックス。ボーカルとギターのそのバランスの見え方によって、再生システムの音色や音量に対しての再生バランス、響きの出し方の適当さ等を推し量れるだろう。それが巧くできている環境でこの曲を聴けば、「これが巧いミュージシャン巧いエンジニアの職人っぷりか!」というのを実感できると思う。


▼08: You're The Best

TM NETWORKの曲としてはベーシックなものと思える。十分に凝ってはいるのだが、メロディもアレンジもある程度削ぎ落として焦点を絞ったような印象だ。ミックスとしては控えめだが、ギターのカッティングがポイントにも思える。アルバムの流れとしては中盤のシングルゾーンから終盤へのつなぎの役割か。

TMベーシック的な曲であるので、このアルバムにおいてはこの曲で特に目立つ要素であるホーンとコーラスに注目してみるのがよいだろうか。様々な音を広い空間に明瞭に配置してあることがこのアルバム全体の特徴だが、それと同時に全体のなじみも適当に確保されている。そのことがわかりやすいのがここのホーンとコーラスだ。ぼやけているわけではないのだが、音場全体から浮き出してしまわずに自然になじむような厚みと広がり方をしている。分離や解像感がほしい音色や場面ではそのように、なじみがほしい音色や場面ではそのように、その使い分けや両立も見事な作品だ。


▼09: Winter Comes Around (冬の一日)

歌とピアノとストリングスによる、これぞバラード。このアルバムで唯一の、リズムセクション(ドラムスとベース)を入れていない曲でもある。これがここに入ることで中盤のシングルヒット曲とビート感の印象を終盤に向けて一旦区切る役割でもあるだろうか。

この曲は何はさておきやはりボーカル。その柔らかな豊かさをたっぷり堪能してほしい。深く考える必要はないだろう。


▼10: In The Forest (君の声が聞こえる)

冒頭に印象的なシンセのフレーズ、リフを配するのは、それこそまさに「Get Wild」でも用いられている、TMとしても典型な手法。ハードロックにおけるギターリフと同じく、効果的だからこそ典型になったのであり、ここでもやはり効果的だ。

この曲ではギターに注目してみよう。コンプを効かせたクリーントーンでのカッティングとエッジを出したディストーションでのパワーコードで曲全体の細かなリズムやダイナミクスをリード。オーディオ再生環境がこのギターをどう聴かせてくれるかの曲の印象への影響は小さくはないだろう。特にサビの裏でのギターは、フレーズやミックスのバランスとしては目立ちはしないが、しかしやはり重要な役割を果たしている。ここを悪目立ちさせずしかし埋もれさせない、解像度の高い再生システムで楽しみたい。カッティングに重ねて薄く挿入されるディストーションギターもさりげないアクセントだ。


▼11: Carol (Carol's Theme II)

「Carol (Carol's Theme I)」のリフレインから始まるが、中盤には少しトリックを効かせたシーケンスフレーズに導かれるプログレ的なパートが挿入され、それを挟んでリフレインに戻る。アルバム終盤で少し考え込ませるような、引っかかりのある展開だ。

そういう曲であるのでアルバムをここまで通して聴いてきたオーディオファンとしてもまずは、ここまでに確認したようなこのアルバムの聴きどころやオーディオシステム側にほしい要素を、この曲の前半で改めて確認してみるとよいだろう。その上で中盤の展開は素直に楽しんで気分をリフレッシュし、エンディングに備える。


▼12: Just One Victory (たったひとつの勝利)

基本的にはストレートな曲なのだが、中間部にアルバム序盤で聴いた「Chase In Labyrinth」がローファイ処理されて挿入される。それが「回想シーン」のような雰囲気を出すことで、アルバムの中での展開、物語における時の流れを強く意識させる仕掛けとも感じられるところだ。ローファイ処理のイメージとしてはモノラル化、ぼんやりとさせるリバーブ、ハイカットローカットみたいな感じ。また最後は曲を一度終えた後にピアノソロで静かにテーマ(サビ)をなぞりそれをフェードアウトさせ、エンディング感を強めている。

オーディオ的なポイントも、このアルバムのここまでで基本はおおよそ確認し終えているので、この曲ならではの部分としては中間部の「Chase In Labyrinth」挿入部になるだろうか。「ローファイな部分の高音質とかハイレゾって何?」と思われた方もいらっしゃるかもしれないが、ローファイの質感や滲みとかをデジタルフォーマットでしっかり再現しようというのは、まあまあ大変だ。この曲の場合は曲と音質が同時に切り替わる瞬間での新鮮でありつつも違和感が大きすぎないところや、モノラルローファイからステレオハイファイ本編に戻る際のローファイ空間にハイファイの音色がフェードインしてきてすぅ〜っと自然に復帰する感じ、そこが気持ちとてもよくつながっているところに注目してみてほしい。


▼13: Still Love Her (失われた風景)

前の曲の終わり方がアルバム全体のエンディングであってもおかしくない雰囲気なのだが、そこからさらにクライマックスとなるのがこの曲。アニメ「シティハンター2」のEDテーマだ。シンプルなブロックの繰り返しを中心に構成されており、ベースとギターは一定の音とリズムを刻み、それを繰り返しに繰り返しまくることで盛り上げていく。あとこれもまたイントロ等でのシンセによるリフというかモチーフも印象的だ。

オーディオ的に音楽的にも注目したいのは、その見事なまでに刻み続けるリズムだ。特にギターは右手のミュート(掌底で弦の根元を軽く押さえて音を伸ばさず音色も変える奏法)を効かせてのダウンピッキングをひたすら延々と(00分16秒から曲の終わりまで)続けているが、ミュートしつつのキレのよさ、音色とリズムの揺らぎの小ささは実に見事。アナログテープでの録音であるから、コピー&ペーストではなく実際にこれを少なくとも各ブロックごとに弾いてのこの安定感であり、だからこそその安定を基盤にしつつの絶妙のニュアンス表現も盛り込まれている。その絶妙なニュアンスをしっかり届けてくれるオーディオシステムで聴けば他の楽器のニュアンスも当然生かされ、シンプルな展開と演奏のこの曲がどうしてこれほどの魅力を持つのか、その理由がより明確に伝わってくるのではないだろうか。

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