ホラー嫌いが体当たりで挑戦
オーディオ機器でホラーはどれだけ怖くなる? 傑作ホラーゲーム『零 〜紅い蝶〜』で実践!
●ホラーゲーム嫌いの記者、本気で怯える
― いつの間にか随分と暑い日が続くようになった。夏が近い。開放的な季節の訪れに心躍る反面、あるジャンルが跋扈するようになることが恐ろしい……そう、ホラーである。記者にとって、ホラーとはずっと避け続けてきた存在なのだ。だって、怖いから。それに尽きる。テレビでホラー映画を放送していれば電源を落とすし、“怖い動画集めました"特集が始まっても、CMが流れた時ですら電源を落とす。万が一にもチャンネルが変わってしまい、しかも何故かそこで固定されてしまい、何か怪現象が起きてしまったらどうする!!!
けれど、ホラーで音が良くなったら、その恐怖たるや計り知れないであろうことは、苦手だからこそはっきりと想像できる。きっと、なまじのジャンルや作品による体験レポートよりも、その差をお伝えできるだろう。幸いにも、このレポートにあたり名作をプレイさせてもらえることになった。あとは勇気だけだ。
『零 〜紅い蝶〜』。和風ホラーの傑作として、世界的に評価されるタイトルだ。さまざまなメディアミックスで展開される『零』シリーズの2作目となり、そのキャッチコピーは「どれほどの絆があれば この悲劇から逃れられるのだろう…」。物語の詳細な情報は公式サイトをご覧になっていただいた方が良いので、ここでは簡単にあらすじを紹介したい。
霊感を持った双子の姉妹、天倉 澪と姉の繭。ふたりは幼い頃の数年間を過ごした故郷を訪ね、秘密の場所である山中の沢にやってきた。そこで澪が過去の記憶を思い出しているうち、ふと気づくと繭がいなくなっている。あたりを見回すと、ぼんやりと光る紅い蝶に導かれるようにして森の奥に入っていく繭の姿があった。澪はそんな繭を追いかけるが、どんどんと山奥に入っていってしまう。澪が繭に追い付いたのは、鬱蒼とした森を抜けた先のひらけた場所。そこからは、霧に包まれた廃村が見えた。 |
この廃村、“地図から消えた村"を舞台として、ふたりは様々な体験をしていくことになる。怨霊がはびこる村から脱出するために、霊を封印するカメラ“射影機"を使って危機を乗り越えながら、村の謎に迫っていくのだ。ホラーを避ける記者ですらその名を知っているほどに有名な作品であり、今回の企画には申し分ない。
そして、気温が30度を越えたある日の夜。音元出版試聴室にて、30歳前後の男性記者ふたりによる実践はスタートした。役割分担は、プレイするのが記者A(ホラー嫌い)、その様子をカメラに収めるのが記者Bとなる。
普段は特に会話に詰まることはないにも関わらず「最近どうですか、仕事の方は」などと不器用な父と息子のようなアプローチを試みて、ゲームを始めようとしない記者A。記者Bが雰囲気を盛り上げるために、部屋を暗くしようと提案してきたが、それにも必死で抗う。
だが、無情にも記者Bにより部屋の電気を消されてしまった。窓もなく防音の効いた部屋は暗闇に包まれる。ここから先、お見苦しい写真が続くがご了承いただきたい。高性能なカメラをもってしても、しっかり撮影できないほどに暗いのだ。そんな中で覚悟を決めたのか、もしくは何かを悟ったのか、記者Aが自らゲーム機の電源を入れた。いよいよスタート。ゲームは部屋を明るくして、画面から離れて楽しんで下さい。
映画の予告編ばりに作り込まれたデモ画面を見る。記者Aは立ち上がった。
「これは、あかん」。何故かエセ関西弁で呟いた記者Aは、記者Bを見た。首が横に振られ、そして縦に振られる。記者Bもホラーが得意というわけではない。このままではダメだ→援軍を呼ぼうの流れである。同時刻、デスクで真面目に仕事に取り組んでいた記者Cを捕まえて、参加してもらうことにした。
3人体勢で再スタート。部屋を暗くして、ゲームを進めていく。人が増えたことで、ようやく内容に目を向けることができるようになってきた。明けない夜に囚われた村、廃墟となった日本家屋、仄かな灯りにより色を濃くする影。流石は和風ホラー、その雰囲気は所謂パニックものとは一線を画している。ワッと驚かされるのではなく、じんわりと背中に冷たい汗が流れるような恐怖がある。
物語が進むに連れ、いよいよ霊と射影機を使って対峙することになった。この射影機というシステムがまたニクい。普段は俯瞰的な映像でキャラクターを操作するのだが、射影機を構えるとファインダー越しの主観的な視点に切り換わる。狭まった視界で霊を捉え、シャッターを切る必要があるのだ。霊との距離が近いほどに、相手に与えるダメージが大きくなるというおまけ付きである。恐ろしい霊が迫ってくるのを待ち構え、ちょっと油断すると霊に襲われるシーンをアップで拝むことになる。ちなみにその瞬間、記者AとBは笑ってしまった。あまりにも怖すぎて。
けれど、恐ろしいだけではない。2003年初出とは思えないグラフィック、そしてどこか憂いをたたえるような音楽により、幽玄とも言える世界が描き出されている。美しいからこそ、妖しさが際立っている。SEも素晴らしい。夜の村を流れる小川のせせらぎであったり、森に踏み入った時のカサカサとした葉音であったり、ギイィという扉を開く際のきしみ音であったり。素晴らしくリアルで、怖い。
テレビからの再生と、アンプ&スピーカーを用いた再生を比較してみると、最も違うのはその“リアルさ"だ。折角の音が、テレビからだと何だか遠いのだ。自分が現実の風景の中で耳にする音とは、聴こえ方が違う。廃屋の中を一歩一歩進むごとに、ギシッギシッという音がする。それは実際にそんな音を録音したのだろうから生々しくはあるのだが、しかし、それが遠くから聴こえると違和感が生じ、現実感が希薄になる。
それに対し、アンプ&スピーカーでは本当に身近な音として感じられる。先述のように、音のみがテレビを飛び出して部屋全体に空間を構成するため、音の出処(と感じるところ)が現実に近い。砂利道や老朽化の進んだ廊下は歩みを進めるごとに下の方から音が聴こえるようだし、ごぅと吹く風は生ぬるさを伴って前から後ろへ抜けていく、ように聴こえる。2chでもこれだけのサラウンド感が得られるのか、と感じるほど、生々しい感触が喚起される音だ。
そんな効果のおかげだろう。ある時、部屋の隅から人の声がした。記者AとBはそちらを振り向くが、もちろん誰もいない。「何か声したよね」、「しましたね」。……その先は、続かなかった。追求すべきではないことってあるものだ。記者Aは会社に泊まり込む時にはこの部屋で寝ているが、2回に1回は部屋の中に誰かが立っている悪夢を見ることは言えなかった……なお、ゲームは記者Cが続けた。
後半のシーンはネタバレになるのでお見せできないものの、進めていくうちにどんどん先が気になってしまうストーリーが展開されていった。怖いもの見たさというより、物語に引き込まれてしまった。そしてエンディングに至っては、感動すらした。“ホラーが好きになりました"、というほどの意識改革は起きていないが、“悪いものではないな"、と考え直させられるだけの力のある作品だ。決してひとりではプレイできないけれど。
今回の実験では、オーディオアンプ&スピーカーを組み合わせることで音のリアルさが増し、ホラーの恐怖が限りなくアップすることが実感できた。ゲームだけでなく、映画などの映像作品でも同様の効果が得られるはずだ。
テレビ=AVアンプやシアターバーと思っている方も多いと思うが、オーディオシステムもこんな風に活用できるのだ。みなさんにもぜひ試していただき、音楽を聴くだけでなく、テレビやゲームや映画まで幅広く楽しんでみてほしい。
(C)2003 コーエーテクモゲームス All rights reserved.