B&O PLAY「H8」レビュー:NC/Bluetoothを搭載した理想の“全部入り”ヘッドホン
バング・アンド・オルフセンは音質だけでなく、利便性も磨き抜かれた沢山のオーディオ製品を世に送り出してきたブランドだ。先端のオーディオ技術にも貪欲にチャレンジする開拓精神は、兄弟ブランドのB&O PLAYにもう受け継がれている。そのことを最も強く意識できるヘッドホンがこの「H8」ではないだろうか。
本機はブランド初のBluetoothヘッドホンでありながら、ただワイヤレスで音楽再生が楽しめるだけでなく、アルミ製のイヤーカップにタッチセンサー・コントローラーを内蔵し、身に着けたまま音楽再生やハンズフリー通話の操作ができる。ほかにも密閉型ハウジングによる遮音効果にとどまらず、高精度なアクティブ・ノイズキャンセリング機能まで乗せてしまった、理想の“全部入り”ヘッドホンだ。
デザインはフラグシップモデルの「H6」を担当したデンマークのインダストリアルデザイナー、ヤコブ・ワグナー氏によるものだ。アラウンドイヤーの「H6」に対して、本機はイヤーカップを耳に乗せて身に着けるオンイヤースタイル。ヘッドバンドには仔牛の革を使い、内側に配置されたメモリーフォームが柔らかく頭を包み込む。イヤーパッドの外皮にもラムスキンを使うなど、最高品質のマテリアルにこだわり抜く。
革素材をふんだんに使う理由は、見た目に高級感を持たせるためだけではない。レザー素材の特徴として、使い込むほどに表面がしなやかになり、ルックスに味わいが増してくる。それは「H8」とともに日々音楽を楽しんできた証にもなるのだ。「味わい」でなく「経年劣化」になってしまわないよう、例えば天日に長い時間さらした時の色合いの変化や、汗の付着が素材にもたらす影響などを徹底的にリサーチして作り上げているという。
φ40mmドライバー搭載。多機能ながら軽量設計もキープ
アラウンドイヤーの「H6」と同じ40mm口径のダイナミックドライバーを搭載。再生周波数帯域も同じ「20Hz〜22kHz」とした。ノイズキャンセリングやBluetoothワイヤレス機能などを搭載しながら、本体の質量は255gと軽量設計もキープしている。先に触れた上質なマテリアルによる効果と合わせて、長時間の音楽再生時にも快適な着け心地を実現している点も大きな特徴だ。
両側ハウジングの内・外に高感度なマイクユニットを内蔵し、独自に開発したアクティブ・ノイズキャンセリングのアルゴリズムによって周囲の環境ノイズを効果的に打ち消す。ノイズキャンセリング機能のオン/オフは右側のハウジング側面に設けたスイッチで切り替える。本体に付属するヘッドホンケーブルをつないで有線リスニングもできるので、有線と無線の選択に、ノイズキャンセリング機能のオン/オフを掛け合わせた4つのリスニングスタイルを選ぶことができる。
BluetoothによるワイヤレスリスニングはaptXとAACの高音質オーディオコーデックをサポートする。本体から取り外して交換もできる容量800mAhのバッテリーパックは3時間でフル充電になり、Bluetoothとノイズキャンセリング機能を両方オンにした状態で最長14時間、ノイズキャンセリング機能だけをオンにして有線接続で聴いた場合は最長35時間の連続リスニングができる。飛行機での長旅にもよいパートナーになるだろう。
ハウジングに触れて操作するというスマートな選択。
NC効果も非常に高い
画期的なタッチセンサー式のコントローラーは、アルマイト処理で上質な質感を持たせた本体右側のアルミハウジングに組み込まれている。
サークル形状のハウジングの表面に触れて、左右にスワイプすると曲送り、上下でノイズキャンセリング機能のオン/オフが切り替わる。また円を描くようになぞるとボリュームのアップダウンになる。シングルタップは再生・一時停止、通話の操作に割り当てられている。iPhone、Androidスマホのどちらにつないでも確実なリモコン操作ができた。
ノイズキャンセリング機能の効果は非常に高かった。もともとオンイヤースタイルなので、頭に装着するだけである程度高い遮音性が得られるが、さらにアクティブ・ノイズキャンセリング機能をオンにした瞬間に、周囲のノイズがふっと消える。音楽を再生すると、カフェや雑踏の中でもピュアに音楽だけに集中できる環境ができてしまう。Bluetoothとノイズキャンセリング機能は、ヘッドホンを使い終わったらスイッチを切り替えて両方をいっぺんにオフにできるので、気が付いたら電源を切り忘れてバッテリーが消耗していたということも少ないだろう。なおイヤーカップを回転させて本体を平らな形状にして、付属するキャリングポーチに入れればコンパクトに持ち運べる。
ストレートで力強く、一体感に溢れる音楽を再現
本機のワイヤレスサウンドを、aptX対応の「Xperia Z2」につないでチェックした。先にサウンドの特徴をひと言でまとめてしまうと、非常にストレートで力強く、一体感に溢れる音楽を再現する。無駄な色づけもなく、ニュートラルなバランスを保ちながら音楽の持つ生命感を引き出すのが上手なヘッドホンだ。
ボーカルは声の芯がしなやかで強い。肉厚なボリューム感と、息づかいまで色濃く感じ取れるほど輪郭も緻密に描き込む。ロックの楽曲では、中低域のアタックがどっしりと強く厚みがある。ビートが腹の底を突いてくる。スピードと安定感も申し分ない。エレキギターが奏でるメロディも太くて煌びやかだ。
クラシックギターの音は柔らかく、しっとりとした潤いが感じられた。弦を爪が弾くタッチが繊細に浮かび上がって、メロディラインがとてもグラマラスだ。トレモロの旋律が心地良く躍動する。
ピアノ協奏曲では、ダイナミックレンジを十分に広く描けるパフォーマンスも確かめることができた。ピアニストの指が描き分ける微妙な強弱を正確にフォローしながら、音楽が生まれた瞬間の情景を鮮やかに蘇らせる。弦楽器の低音はとても滑らかで官能的な質感。しなやかで豊満な余韻がやさしく包み込んでくる。金管楽器の高域は抜け味も爽快。聴き込むほどに音楽の一体感が増してくるようだ。
上質なサウンドにデザイン、選び抜かれたマテリアルはまさにハイエンド機の貫禄。今年は多くのブランドから“全部入り”のヘッドホンが発売されて賑わった。その中でもタッチセンサー式のコントローラーや高精度なアクティブ・ノイズキャンセリングなど、いまのヘッドホン技術の最先端を一気に盛り込んだヘッドホンはまだ数少ない。B&O PLAYの「H8」は、おそらくヘッドホンの進化の歴史に名を残す“全部入り”の理想的なモデルになるだろう。一度体験すれば、これはぜひコレクションに加えてみたくなるに違いない。