密閉型/オープン型の姉妹フラグシップ
外観は似ていても音は対照的。AKG「K872」と「K812」を比較レビュー
ヘッドホンアンプをP-700uからTA-ZH1ESに変えると、音調の違いはさらにはっきりと浮かび上がってくる。P-700uではオーケストラの低音楽器やピアノの低音部にゆったりとした感触が残っていたが、TA-ZH1ESで鳴らすと低音も含めて一気に解像度指向が強まり、ディテールの粒立ちがいっそう際立つ。シンバルの硬質な感触やヴォーカルの子音が気になる人にはP-700uがお薦めだが、一音一音の粒立ちや実在感たっぷりの生々しい音が好みなら、TA-ZH1ES+K872の反応の速いサウンドを聴いてみることをお薦めしたい。
高いディテール再現力。モニター用としても能力を発揮
密閉型ヘッドホンを選ぶ重要な理由の一つとして、ノイズも含めてすべての音を聴き取れる情報量の余裕を挙げる人は少なくない。K872もその点では期待通りの性能を確保している。楽器の音自体が生々しいことに加え、ギターの弦に爪が触れる音や木管楽器のキーが発するノイズ、そしてマウスピースから漏れる息の音まで、音源に入っている音はすべて漏らさず再現する。一方、マイクを近めにセッティングしたヴァイオリンの録音では、弦の近くで鳴っているチリチリとした高い音まで聞こえてくるので、普段スピーカーで聴いている人はびっくりするかもしれない。
強めのレベルで暗騒音が入っているオルガン伴奏の合唱録音を聴くと、ノイズの周波数分布がK812とは明らかに異なり、高域寄りのノイズまではっきり聞こえてくる。オープンエア型のヘッドホンでは存在に気付きにくいような高域のノイズも含めて、容赦なく耳に届いてしまうので、そこは好みが分かれるかもしれないが、原音に忠実な再現を要求するスタジオのモニター用途では、K872のディテール再現力の高さを歓迎するエンジニアが多いはずだ。
ワイドレンジでスケール感豊かな再生音という共通項はあるものの、K812とK872の音の差は予想以上に大きかった。用途の違いを視野に入れてチューニングを変えた結果とは言え、同じドライバーユニットからここまで異なる音調を引き出すのは興味深い。個人的には立体的な空間再現が得意なK812の方が自宅でのリスニング用途に向いていると思うが、録音時のモニター用途ではK872を選ぶことになるだろう。微妙な違いにとどめるのではなく、明確にターゲットを分けることにこそ、フラグシップに2つの製品を揃える意味がある。経験豊富なAKGらしいコンセプトだ。