独自システムがもたらした小型軽量・低価格化
エプソンなら4K相当/HDRの大画面が手に届く。液晶プロジェクター「EH-TW8300W」を徹底レビュー
■設置はスマート、ワイヤレス伝送の完成度は高い
まずは設置。本体重量は約11.2kgで4Kモデルとしては非常に軽量。フルHDの「EH-TW8200W」と比べてもプラス約30%程度増に収まっている。軽くはないが、大人なら1人で移動や設置できる範囲と言え、視聴時のみ移動設置するようなカジュアルシアターも視野に入る。
HDMI接続は同梱のWirelessHDトランスミッターを利用。入力は4系統と豊富で、音声をトランスミッター内で分離し、HDMIおよび光デジタル端子から出力可能なので、4Kパススルーができない古いAVアンプを組み合わせることもできる。
ワイヤレスの利点は、有線ケーブルの引き回しが不要で、室内もスッキリ見せられることにあるが、他にも、高価になりがちな4K対応の長尺HDMIケーブルを用意しなくて済むのはありがたい。トランスミッターには、テレビの接続を前提としたHDMI映像音声出力を備え、スクリーンとテレビの2ウェイシアターを想定しているのも親切かつ実用的だ。加えて、3Dメガネの充電用USB端子を備えるなど、隅々まで心配りが感じられる。
ワイヤレス接続を利用すれば、本体の端子部を付属のフタで覆い隠せるので、天吊りでも実にスマート。白いボディは内装に馴染み、違和感を最小限にしてくれる。ほか、リモコンはアンバーのバックライトを備え、消灯時、徐々にディミングする演出も憎い。
映像の位置や投写サイズ、ピントの調整は、電動仕様なのでリモコンで操作が可能。特にピント合わせは、スクリーン間近に迫って厳密に行いたいので、「電動」が威力を発揮する。この価格帯では非常に高機能と言えるだろう。
レンズのシフト幅が大きいのがエプソンプロジェクターの特徴だが、レンズの端を使うと、どうしても映像の角や端部にケラレのような輝度落ちが発生してしまう。しかしながら、本機ではユニフォーミティー調整機能が備わり、画面を縦横三行三列、つまり9分割して、中央以外の明るさを個別に補正することができる。コアなプロジェクターファンなら、じっくり調整してみるのも面白いはずだ。
ワイヤレス伝送では映像の途切れが心配で、4Kにもなるとなおさらだ。そこで今回は実際に実験してみた。トランスミッターとプロジェクターの間を人が横切るようなシチュエーションでは問題は確認できなかった。徐々にトランスミッターに近づいてみると、最終的に5cm程度の至近距離に手をかざすと映像がフリーズ。WirelessHD採用の1号機では映像のフリーズが散見された記憶があるだけに、4Kの高密度伝送ではさらに厳しさを増すものと想像していたが、良い方に裏切られた。画質面でのエクスキューズは無く、完成度の高いワイヤレス伝送と言える。
■HDR対応の恩恵を享受できる映像美
まずはリファレンスとしている4K/HDR収録の『4K夜景』で確認。映像モードは、エプソンがHDR映像で推奨する「ブライトシネマ」だ。明るい映像に慣れると、視覚の色に対する感度が高まるせいか、色の乗りや透明感もアップしたように感じる。
日中の町中を捉えたシーンは120インチの大画面でも明るく力強い。日差しの眩しさを感じることで、臨場感が高まり、最大2,500lmの光出力は伊達でないことが分かる。一部の超ハイエンドモデルを除けば無敵と言えるレベルで、明かりの残るリビングでも鮮明な映像が得られるのはもちろん、ダイナミックレンジの広いHDR映像を引き立ててくれる。
HDR映像は最大nit数の設定に加え、制作者の意図した明暗の表現にバラツキがあり、視聴者側での調整が不可欠だが、本機には「ダイナミックレンジ」として、「オート」「SDR」「HDR Mode1」「HDR Mode2」「HDR Mode3」「HDR Mode4」から選択できる。「オート」は、SDR信号入力時には「SDR」、HDR信号入力時は「HDR Mode2」を自動的に選択する仕様。今回、高ゲインのスクリーンに120インチサイズで『4K夜景』を投写した場合、「HDR Mode1」が最も制作者の意図したであろう、暗部の諧調再現が得られ、奥行きも見通せる自然な映像が得られた。
フルオートが望ましいが、現時点では制作者による設定の違い、プロジェクターの場合は視聴環境の違いがあるので難しい注文と言え、簡単に選択できる機能こそが重要かつ実用的と言えるだろう。その点本機は、「HDR Mode1」「HDR Mode2」「HDR Mode3」を選ぶだけとシンプルで、エントリーユーザーにもフレンドリーと言える。また、夜景のシーンへと暗転すると、光源の煌めきが心に沁みる。ポートタワーのライトアップシーンは記憶に近く、黒の締りも十分でコントラストが高い。液晶テレビでは到達し得ない、映像美の世界が広がる。
映画作品は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で確認。チャプター5の、砂漠で個性豊かな改造車が疾走するシーン。期待通り、メタリックのボディや部品の光沢がHDR効果でピーク輝度を増し、悪夢のように異様な雰囲気がさらに増す。映画館のスクリーンでは体感できない、ワンランク上の表現力と言える。表情に照り付ける強い日差しも、ピークから明部にかけて粘りがあり、色乗りを失わない。階調の維持による立体感もHDRならでは効果をしっかり享受できる。
そのほか、4000nits収録作品として『LEGOムービー』を鑑賞。「オート(HDR mode2)」では、平均輝度も明部の階調表現も適切だ。一方、作風を考えると、明るくヴィヴィドな色調も楽しみたい。「HDR mode1」では、明部が少し白飛びして情報が欠落するものの、原色のピュアな発色を楽しめた。視聴環境や好みに応じて調整すると良いだろう。
本機は2K映像の4K超解像アップスケーリング機能も有している。ホームシアターファンが蓄積してきたブルーレイディスク資産を考えれば、その画質は大いに気になるところだ。
実際に2K映画『オブリビオン』で確認した。4Kエンハンスメントを強めると、スクリーン間近ではディテールが塗りつぶされたかのような変化が起こるのだが、適正視聴距離から観察すると、甘かったピントがシャープになったように映るから不思議だ。エンハンスメント機能の乱用は避けるべきだが、視聴距離や視力に応じて、4K収録映像とギャップなく快適に観賞できるよう調整を追い込むと良いだろう。
「4Kは未だ先」と思っているホームシアターファンも多いだろうが、本機の値頃感、サイズ、設置性を考えれば、2Kモデルに極めて近く、買い替えなら本機を選ばない理由はないだろう。
4K/HDR時代のパワフルな光源、明るく解像度に優れたレンズは、従来のHD映像も今まで以上の高画質で楽しめる。EH-TW8300Wは身近な4Kモデルとして、2K映像が主流のユーザーにもお薦めしたい高品位モデルだ。
(鴻池賢三)