バランス対応、小型・高機能で約4万円
ついに出たミニDAP! オンキヨー“rubato”「DP-S1」&パイオニア“private”「XDP-30R」最速ハンドリング
■両モデルの音質をチェックする
では最後に、肝心の音質だ。まず結論から言うと、イヤホンや音源との相性、そして好みに合わせてサウンドカスタマイズを行うと、「この小ささ、この価格でこの音に仕上げてくれたとは見事なものだ」と強く納得させられた。
サウンドカスタマイズの使いこなし次第で印象が少なからず変わり、それがうまくハマれば十分な力を発揮してくれる。エントリーユーザーにとっても、どの項目をいじるとどう音が変わるかを知るきっかけになるのではないだろうか。
ここからはサウンドカスタマイズを行った上での評価だ。まずはシングルエンド駆動での試聴。
「XDP-30R」は声のシャープさやギターのエッジ感など、音の輪郭や鋭さを少し強調する。その硬質さや精密さによって音の本体を聴き取りやすく明快に描き出す。
細かな音もかっちりと届けてくるこのタイプの音作りは、「いままでは埋もれて聴こえにくかった音もはっきり聴こえる」など、音の良さを実感しやすい。「わかりやすく音が良い」というのは、エントリーモデルでは特に大切なポイントで、そこをきっちり押さえている。
一方の「DP-S1」は、音それ自体も十分に描き出しつつ、音の周りの響きや空気感の再現により気を遣った音作りという印象。そしてその空気は、XDP-30Rよりはややウェット。しっとりとした湿度感を備えている。
スタジオやホールの響きを生かしたアコースティック作品にはもちろん合う。またそうでなくとも「ひとつひとつの音のくっきりさよりも音楽全体のなじみがほしい」というタイプのリスナーにフィットしそうだ。
ざっくりまとめると「伝え方がはっきりしていてストレートなXDP-30R」「伝え方にニュアンスや雰囲気のあるDP-S1」というのがそれぞれの個性だ。その個性は両モデルが備える2種類のいわゆるバランス駆動、「BTL駆動」「ACG駆動」を利用した際にも変わらない。
だが個性ではなくクオリティの話になると、「バランス駆動を使う・使わない」という選択は大きなポイントになる。
どちらもシングルエンドからバランス駆動に切り替えると、音質が明らかに向上する。だがその伸び幅はXDP-30Rの方が大きく、両モデルの差は縮まる印象だ。こうなると「どっちを選ぶかは好み次第」という感がさらに強まる。
だから、特にXDP-30Rについては、今後試聴して「XDP-30Rの方が音の傾向は好みなんだけど、あと一歩足りないんだよなあ…」と感じたとしたら、バランス駆動メインでの運用も検討し、可能であればその試聴をおすすめしたい。
特にOPI独自のACG駆動は、一般的なバランス駆動と比べ、シングルエンド駆動と比較した際の違和感が少ない。これはOPIのDAPを選ぶ理由にもなり得る。
サンプル機を短時間試した印象ではあるが、小型・快速・低価格、そして音質を優先条件として、そのために割り切った設計を行ったモデルと感じた。おそらく割り切ったであろう部分はディスプレイ解像度で、譲れなかった部分はサイズ感やバランス接続、サクサク動作、サウンドカスタマイズ機能だ。
二兎を追う者は一兎をも得ず。潔い設計であり、その潔さこそが両モデルを、ほかのDAPとは異なる存在にしている。
(高橋敦)