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新旧の技術を融合させた創立90周年記念モデル

【製品批評】ELAC「Miracord 90」 ー 現代の技術で蘇ったアナログプレーヤー

公開日 2017/07/18 14:50 井上千岳
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製品批評


アナログ・プレーヤー
ELAC
Miracord 90
¥360,000(税抜)



エラック(ElectroAcoustic)の歴史は古く、創立は1926年に遡る。当時は潜水艦用のソナーなどを開発していたようだが、戦後はオーディオに転じ、米国シュア社とともにMM型カートリッジの特許を保有して高い人気を誇った。

また1980年代からはスピーカーを主要な製品としてきたが、オーディオでの最初のヒット作はレコードプレーヤーであった。それがミラコード・シリーズで、1950年代のドイツで非常に高いシェアを得たという。ちなみにカートリッジの発売は1957年のことである。

本機「Miracord 90」は昨年創立90周年を迎えた同社がその記念として復活させた、いわば原点とも言うべきモデルで、型番の90はそのことを表している。リタイアした当時のエンジニアを呼び戻し、すべてのパーツを本社のあるキールで生産するという厳しい姿勢に、その意気込みが感じられるというものである。

背面から見たところ。ノイトリック社製の金メッキ仕様の出力端子と独立したアース接続端子、ルンベルグ社製のDC電源コネクターが配置されている

もっともそれは復刻というわけではない。往時の基本構造を残しながら現代の技術との融合を図ったもので、随所に新しいテクノロジーを採り入れながら質実剛健なスタイルを貫いているのが、エラックらしさの表れと言えそうだ。

堅牢なシャーシに負うところも大きいのだろうが、構造や各パートの精度も効いているのに違いない。非常に静かで背景ノイズを感じさせない鳴り方である。弱音部のディテールだけでなく、空間の響きも確実に拾い上げることができるのはそのためだ。

上部から見たところ。サブプラッターにある青色のものが、ラバーダンパー。それに加えモーターのプーリー部を囲むウォーヴンスパイダー材とも組み合わせ振動抑制効果を得ている。また、光センサーを搭載しており、マイクロコントローラーがDCモーターの回転速度を厳密に調整する

また遠近が分かりやすく、音場の広がりも自然に出てくる。バロックではヴァイオリンやオーボエの質感がごく当たり前にさりげなく描き出され、無理をしているという感触がない。伸びやかと言ってもいいが、もっとストレスのないイメージである。特に独奏楽器であるオーボエのニュアンスが精緻で、こうした再現はなかなか得られないものである。また弦楽合奏や通奏低音の分解能が高く、音楽全体がほぐれて多彩な表情が豊かに引き出されている。

コーラスはオーケストラの伴奏があるため、一層混濁することが多い。しかしその面倒なソースを、表情豊かに再現しているのが目覚ましい。男声が出て女声が入り、そこにオーケストラが加わるとかなりの音数になるわけだが、それを整然と描き分ける安定感と解像度の高さは、高級機でも得難いものといっていい。実に信頼感を掻き立てる再現力である。

エラックの原点とも言えるアナログ・プレーヤーは、こうして見事に復活した。ただそうは言っても、意外なところから思いがけない優秀機が飛び出してきたという驚きもないではない。またそう感じる読者もおそらく多いことであろう。そこがエラックというメーカーの凄さなのかもしれない。その技術力と感性にあらためて敬意を表さずにいられない。

(井上千岳)

Specifications
●端子:トリック製RCA端子(金メッキアース端子)●電源部:18V、18W(ルンベルグ製端子)●カラー:ハイグロス・ブラック(HGBK)/ハイグロス・ウォールナット(HGWN)●サイズ:470W×360D×170Ho●質量:17.1kg●カートリッジ:オーディオテクニカ製専用MMカートリッジ付属●周波数特性:20Hz〜25kHz●針圧:1.4g ±0.4g、14±4mN●直流抵抗:800Ω ±20%●コイルインピーダンス:3.2kΩ ±20% at 1kHz●推奨抵抗値:47kΩ●出力電圧:2.2〜4.9mV●チャンネルセパレーション:>25dB●付属品:フォノケーブル、取扱説明書●取り扱い:(株)ユキム



※本記事は「季刊analog」55号所収記事の一部を抜粋したものです。くわしいレビューは雑誌でご覧頂けます。購入はこちらから

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