<山本敦のAV進化論 第149回>
“未来すぎる” ヘッドホン登場! 先進機能&謎仕様満載の「スマートヘッドホン」自腹購入レビュー
音楽配信サービスはSpotifyのほか、SoundCloudとAmazon Music Unlimitedに対応しているようだ。Spotifyのアカウントに接続すると、お気に入りのソングとプレイリストのリストが読み込まれた。タッチパネルから楽曲を探して再生することもできるが、毎度選曲するたびにヘッドホンを着脱する手間がとても面倒なので、PCやスマホアプリからよく聴く楽曲をあらかじめプレイリストに放り込んでおいた方がよい。タッチパネルは上下のスワイプでボリュームのアップダウン、左右のスワイプが曲送り、シングルタップが一時停止・再生になっている。
画面の長押し、または“Hi Vinci”のウェイクワードでVinci Assistantが起動すると取説には記載されているのだが、ウェイクワードについてはマイクの感度があまり良くないのか、滅多に受け付けてくれないので、長押しタッチ操作が基本となってしまった。画面にタップしてホールドしたまま、「ポロン」と音が鳴ったら声でコマンドを入力する。
GoogleアシスタントやAmazonのAlexaに比べるとかなり反応はスローだが、「Play Tom Waits's songs.」といった具合にアーティストの名前でリクエストすると、打率5割ぐらいの確率でヒットする。曲名によるリクエストは筆者の発音が悪いためか、かなりスカしてしまうのでほぼ使い物にならなかった。コマンドはしっかり大きめに発声しないと「Sorry, I didn't hear you, please try again.」とハネられてしまう。外出先で使うのはかなり勇気が要る。
そして日本人アーティストはSpotifyのアーカイブに存在していたとしても、まずまともにヒットしない。仕方ないので、聴きたい曲はいったんヘッドホンを外してから液晶で検索し、再生するという空しい操作方法に妥協するほかなかった。
よく聴く楽曲をファイルで持っていれば、ヘッドホンの内蔵ストレージに転送しておいたほうがストレスが少ないだろうと考えた。そこでPCとUSBケーブルでつないでファイルの転送を試みたところ、ヘッドホンがマウントされない。あれこれ試行錯誤を繰り返したところ、ホーム画面の「ライブラリ」から「My Imported」のメニューを掘っていくと「WiFi Import」という機能が見つかった。どうやらVinci Proへの楽曲転送はネットワーク経由でブラウザアプリを使う方法が基本らしい。
ブラウザの管理画面をみると、WAV/FLAC/AACなど様々なファイル形式をサポートしていると書かれているのだが、実際にはFLACとWAV、MP3のファイルしか再生が転送できなかった。さらにAKMの最大384kHzのPCM入力をサポートするDACチップ「AK4376」を搭載しているはずなのに、再生できるファイル形式は48kHz/24bitが限界だった。
これ以上のサンプリングレートのハイレゾファイルは、転送はできても再生速度がおかしくなり、まともに聴けない。そもそも本機が搭載するドライバーは再生帯域の上限が20kHzなので、ハイレゾ対応を意識してつくったヘッドホンというわけではなさそうだ。
音質は極めて平坦で起伏がなく、ファイルをただデコードしている感が否めない。音楽を再生していない状態では、アクティブNC回路によるものと思われるノイズが聞こえる。消音効果もひと昔前のANCヘッドホンのレベルで、耳穴の中が不自然な圧迫感でふさがれる感じがする。イヤーパッドによるパッシブな消音効果がある程度得られるので、いつの間にかANC機能はオフにして使っていた。
外出先でWi-Fiにつながずにオフライン環境でテストをはじめようとしたところ、まず「AI機能を使うならインターネットにつなげ」と音声ガイドに指示された。Vinci Assistantはクラウド経由でのみ使用できる音声アシスタントサービスなのだ。音楽のストリーミング再生ができなくなるのは仕方ないとして、音声コントロールによる曲送りや本体に保存した音楽ファイルの検索再生、バッテリー残量の確認など、本体設定のメニュー操作も含め、音声インターフェース全般が封じられてしまうのは痛い。
付属のケーブルをつないでの有線ケーブル接続や、Bluetooth接続によるリスニングも試したが、あまり面白みを感じないサウンドであることに変わりがなかった。そしてさらに残念なことに、有線接続、Bluetooth接続時には本体メニューが一つも操作できなくなってしまう。タッチパネルによる操作も、ボリュームのアップダウン以外受付けなくなる。
アクティブNC機能のON/OFF設定などは、有線ケーブル、Bluetooth接続によるリスニングをはじめる前のステータスが維持されるようだ。また本体の電源を入れていない状態ではワイヤードリスニングができなかった。これらの問題は、もしソフトウェアのアップデートで対応できるものであれば、ぜひ改善を望みたい。
正直、期待外れのところばかりが気になるヘッドホンだが、アップデートによる機能改善の便りを待ちながら、もう少し気長に使い込んでみたいと思う。不完全なかたちではあるが、ネットワーク接続と音声アシスタントを組み込んだポータブルオーディオ機器としては本機が先駆け的な存在と言える。
来年は間違いなくヘッドホンやイヤホンにも、音声アシスタント対応というトレンドの波が押し寄せてくるだろう。そこにいち早く目を付けたVinci Proの開発スタッフには素直に敬意を表したい。ぜひ今後に続くラインナップ展開も成功させて欲しいと思う。
(山本 敦)