<山本敦のAV進化論 第150回>
Alexa連携など革新 “フル盛り” の完全ワイヤレスイヤホン、Bragi「The Dash PRO」レポート
音楽再生に深く関わるスペックもお伝えしよう。ドライバーの仕様はノウルズ製のシングルBA。スマホとつながるオーディオコーデックはAACとSBCに対応する。イヤホン左右間の接続にはMiGLO(NFMI:近距離磁界誘導)の技術を採用しているので音切れによるノイズが少ない。
イヤーチップはイヤホン本体にまるごと薄いシリコンのマスクを被せるような「FitSleeves」と、ノズルの先端に装着する低反発フォームチップの「FitTips Pro」の2種類がある。それぞれ前者が外耳のくぼみに引っかかりを良くする効果もあるため“アクティビティ用”とされていて、後者は“オーディオ用”をうたっている。
サイズは共通でS/M/Lの3種類と、FitSleevesの方にだけノズルの先端に装着するXSがある。FitTips Proは遮音性が高く、音楽リスニングに集中できるので確かにオーディオ志向だ。FitSleevesは装着した状態でも適度な音抜けが確保される不思議なチップだ。イヤホンを着けて外を歩きながら音楽を聴くときにも安心できる。
イヤホン使用時の安全性を高める機能には、ほかにも内蔵マイクで外音を取り込む「オーディオトランスパレンシー機能」を搭載する。機能のオン・オフは左側イヤホンのタッチセンサーを左右にスワイプして素速く切り替えることができる。機能をオンにした状態ではさらに、風切り音も効果的に抑制する「WindShield」を2段階で用意する。
オーディオトランスパレンシー機能の効果は、外音をマイクで劇的に集音するものではないため、オンにしても音楽再生のバランスが崩れることなく、近くにいる人の話し声が聞こえやすくなる穏やかなレベルだった。機能はオンにしたままにもできるので、アウトドアで使う時には安全性を考えて常時オンで使ってもいいと思う。
本当に機能が盛りだくさんのイヤホンだが、このほかにも音声入力により自動で外国語を翻訳できるアプリ「iTranslate」にも連携できる。こちらはアプリの性能に深く依存する話なので今回は詳細なチェックは割愛したいと思うが、グーグルが発表した「Pixel Buds」のようにイヤホンが外国語の壁を打ち破るヒアラブルツールとしてこれから新しい道に向かって成長して行く可能性についてはまたあらためて注目したい。
■革新性と発展性に期待の高まる仕上がり
Alexa連携の機能については、Bragiアプリの中にアマゾンのアカウントへログインするメニューがある。ログインを済ませると本体右側のタッチセンサーを長押しして、ペアリングしているスマホの通信機能を借りてAlexaを呼び出せる。リモコンを長押しすると起動音が鳴って、天気を聞いたり、音楽再生のリクエストなどもできるが、Echoシリーズのスマートスピーカーに比べると反応は一歩・二歩遅れる感じだ。何より英語による音声入力にしか対応していない。
Alexaの日本対応は先日Echoシリーズのスマートスピーカーの日本導入が始まったばかりなので、少し待てばサードパーティーの製品もフォローしてくるのかもしれない。使い勝手がよりスムーズになれば、ランニングをしながら、キッチンで料理をしながら手が離せない状態で音楽を選曲したり、あるいはスマートホーム機能も動かせるようになると便利に使えそうだ。
なお、Alexaの機能はスマホアプリから簡単にオン・オフを切り替えることができる。オフにして右側のタッチセンサーを長押しすると、iPhoneではSiriが、AndroidスマホではGoogleアシスタントが起動する。
The Dash PROの音質は「FitTips Pro」の方のイヤーチップを着けて、iPhone 8とペアリングしてApple Musicの音源を中心に聴いた。中島美嘉のアルバム『TOUGH』から「恋をする」ではリズムの切れ味がいい。低反発フォームチップでありながら音のこもりが少なく、クリアで自然なボーカルが楽しめる。
音のバランスもフラットにチューニングされているので、J-POP系の楽曲はアレンジの細かな部分にも自然と耳が行くので楽しく聴ける。低音は量感がほどよく、音像がタイトに引き締まっている。ジョギングしながらアップテンポの曲を聴くと心地よいペースを作ることができた。
ライ・クーダのアルバム『Jazz』から「Big Bad Bill Is Sweet William Now」ではスライド奏法を交えたアコースティックギターの乾いたメロディが軽快にうたい、ライ・クーダーの甘いボーカルの余韻に重なって溶け合う。ビッグバンドの楽器も一つ一つの音色が艶やかに引き出される。特にトロンボーンなど管楽器の音色は彩度が高く柔らかな質感が楽しめる。
アリス=紗良・オットの『ショパン:ワルツ全集』から「ワルツ第9番変イ長調 作品69-1」ではピアノの音の実体感が非常に鮮明だ。繊細なニュアンスもむやみに飾りを付けることなく自然と浮かび上がってくる。開発者はややモニター調のニュートラルバランスを狙ってチューニングをしているのかもしれない。だからこそ楽器が本来持っている音のエッセンスが上手に引き出せるのだろう。色んなジャンルの音楽リスニングにフィットしてくれそうだ。
最初にも触れたが、これほどありったけのイノベーションを詰め込んでいるのに、イヤホンの本体がコンパクトなので装着感はとても良い。曲線を活かしたハウジング形状なので、長時間耳に着けていても不快さもなくリスニングを楽しめた。
AIアシスタント連携や本体だけで完結できる多彩なリモコン操作など、ワイヤレスイヤホンの革新に挑戦したThe Dash PROが登場したことで、来年は本機に追随するハイテクイヤホンが続々と現れるのだろうか。いずれにせよ、Bragiはこれからも要注目のブランドだ。
(山本 敦)