ギターアンプのディテールを継承
FenderのBluetoothスピーカー「MONTEREY」「NEWPORT」をギター好きライターがレビュー
ツイードアンプの雰囲気も素晴らしいが、オーディオアイテムとしては少しカントリー要素も強く、基本をブラック&シルバーフェイスとしたのは納得だ。しかし電源スイッチはスライド式やシーソー式よりも、やはりピン式だろう。パチンと倒すとジュエルランプが点灯する、その音と手応え、灯り…電源を入れただけで気分が高まる。
スイッチといえば、Bluetoothのペアリングを行うための専用ボタンも用意されている。何とかボタンを長押しして…といったような面倒な操作はFenderには不似合いだ。ペアリングをしたければペアリングボタンを押す、この分かりやすさもFenderらしい。
さらにどちらのスピーカーも共通した仕様で、電源オンの時にはGコードに沿ったカントリーライクなフレーズ、ペアリングの開始では同じくGメジャーをストローク一発といったギターサウンドが流れる。Fenderスピーカーに「ペアリングが 完了しました」といった丁寧なアナウンスなど必要ない。弾けるクランチトーン、ピックが弦にタッチするカチッという感触。ユーザー、いやギタリストとスピーカーとのコミュニケーションはそれだけで成立する。
Fenderアンプらしいデザインとオーディオとしての使いやすさが特に素晴らしく融合しているのは、トーンコントロールだ。近年のオーディオアンプは、トーンコントロールをディスプレイで見ながら操作することも多い。Bluetoothスピーカーだとスマートフォンアプリで操作、という製品も増えている。それらにも豊富なプリセットなどの便利さはある。
しかし「スピーカー本体のノブに手を伸ばしてつまんで回すだけ」という、このシンプルさに敵う使いやすさは無いだろう。「リズムの迫力が欲しいな」と思えばBASS、「全体に少し明るめに」ならTREBLEを、ちょいと捻るだけで良いのだ。またこれはMONTEREYのみだが、背面に「SHAPE」というスイッチも用意されている。こちらはスイッチ一発で低域と高域のどちらもが明快に強調される。
トーンは両方とも「6」、ボリュームは「5」といったあたりで曲を聴き始めてみる。まずは相対性理論とペトロールズ。レコーディング時の機材は分からないが、ライブではフェンダーのギターとアンプ、ベースを使用するイメージが強いバンドだ。
このスピーカーで聴くと、最初に全体の印象として楽器の前後の配置、立体感が素晴らしい。ドラムスなど後ろの方に配置される楽器の音は、オーディオ的な透明感に偏らず、あえて若干くすんだ味わいになっている。ステージ後方が熱気やスモークで少し霞む様子を思い起こさせるような、体感的なリアリティだ。
ボーカルの声の手触りも抜群だ。やくしまるえつこさんの、ふわっとしているような鋭いような不思議な声も、長岡亮介さんのしゃべりかけるようにナチュラルな発声も、どちらもスッと心地よく、それでいて強くしっかりと届けてくれる。
ギターの音はどうだろうか?もちろん、良いに決まっている。クリーンから軽く歪んだクランチトーンあたりの音色、その芯の通ったパキッと感、アルデンテの感触は特に絶品だ。まさに“Fenderトーン”と言える。それをさらに堪能したいなら問答無用、ジミ・ヘンドリックス氏「Live At Monterey」を聴けば良い。
■スピーカーの個性を生かした「トーンコントロール」
一方のNEWPORTは、ジミ・ヘンドリックス氏の手のひらであれば余裕で収まるであろうミニスピーカーだ。つまり、一般的なサイズの手のひらには少し大きめで、外出時に持ち歩くタイプというより、家の中で気軽に移動できるポータブルスピーカーと考えるのが良いだろう。こちらはバッテリーも搭載されており、コンセント探しの心配もない。
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