同社技術を結集した最上位機の実力を検証
オーディオテクニカの旗艦ヘッドホン「ATH-ADX5000」レビュー。ハイエンドアンプ5機種と組み合わせテスト
スティーリー・ダン「バビロン・シスターズ」(FLAC 96kHz/24bit)はパーカッションのアタックが爽快で、ハイレゾ音源らしい抜けの良さと反応の良さを堪能した。一音一音の立ち上がりが鋭いとはいっても濁音系の付帯音が一切乗らないので、ギターもベースも音色が濁らないし、ボーカルがこもらずクリアに定位、コーラスも聴き慣れた位置より少し前に出てくる。
以上はバランス接続での印象だが、アンバランス接続で聴いても反応の良さを確保。オルガン伴奏の合唱曲での足鍵盤の音域のエアー感など、超低音のリアリティはバランス接続が有利だが、アンバランス接続の質感の高さにも特筆すべきものがある。
<組み合わせ2>OJI Special「BDI-DC44B G-Tuned」
■ヘッドホンの歪みの少なさとアンプの優れた位相特性が両立。柔らく自然な響きを生む
2台目のヘッドホンアンプはOJI Specialの「BDI-DC44B G-Tuned」である。電源部から左右独立させたフルバランス構成のハイエンドモデルで、本機も4pinのXLR端子に別売ケーブルを接続して試聴した。ブラック仕上げのアルミ製筐体は横幅430mmのフルサイズだが、大きさの割に精悍な印象を受けるのは、精度と剛性を追い込んだ質感の高さによるものだろう。
アン・サリーが歌う武満徹の「めぐり逢い」(DSD2.8MHz)を聴くと、ヴォーカルはもちろんのこと、シンプルな音形でサポートするアコースティックギターの音色も澄み切った透明感をたたえている。声はホログラフィーのように立体的なイメージが浮かぶが、浮遊感というよりリアルな実在感に感心させられた。
そう感じる理由の一つは、声が頭のなかに張り付かず、自然な距離感をおいて定位すること。余韻が壁にぶつかって止まるのではなく、伸びやかに広がっていく開放感があり、もちろん密閉型ヘッドホンのような共鳴は微塵も感じさせない。
スコットランド室内管弦楽団が演奏したウェーバーのクラリネット協奏曲(FLAC 192kHz/24bit)を聴くと、このアンプのもう一つの長所である音色のなめらかさに耳が惹き付けられる。独奏クラリネットは低音から高音まで音色に統一感があり、弦楽器と溶け合うハーモニーもひときわ柔らかい。
クラリネットと弦楽器どちらも、基音だけでなく倍音の音域まで忠実に再現することで、両者が自然に共鳴するのだろう。広い帯域にわたってアンプの位相特性が優れていることと、ヘッドホンの高音域に歪みが少ないこと。その2つの条件が両立しない限り、ここまで柔らかい響きは生まれないはずだ。
<組み合わせ3>Questyle「CMA800R-G/LTD」
■楽器ごとの音像や音色の違いを忠実に再現する精度の高さを聴かせてくれる
次にQuestyle「CMA800R-G/LTD」をATH-ADX5000につないで試聴。ディスクリートで構成したクラスAアンプを採用し、本機を2台組み合わせることで、完全バランスのモノラルアンプ×2という贅沢な構成が可能になる。今回はあえてそのスタイルでATH-ADX5000を駆動した。本体も伝送損失が少ないセラミック基板を採用した限定仕様で、質感の高いゴールド仕上げが美しい。
DAVEのアナログ出力を2台のCMA800R-G/LTDに直接つないで聴いたため、音量は左右バランスを合わせた状態でほぼ固定。モノラルアンプならではの究極のセパレーションが再生音にどんなメリットをもたらすのだろうか。
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