ワイド化した精悍な外観と濃密で力強い音を実現
進化する伝統 ー ラックスマンの真空管セパレートアンプ「CL-38uC/MQ-88uC」を聴く
デュトワ指揮モントリオール交響楽団のR.コルサコフ《シェエラザード》は独奏ヴァイオリンの艶やかで潤いのある音色が最大の聴きどころだが、デッカレーベルならではの管弦楽の鮮やかな描写もストレートに引き出していて、繊細さと鮮烈な描写が見事に両立している。独奏ヴァイオリンが幅広い音域の中で大きく跳躍しても一貫した音色を保ち、定位がぶれないことも特筆すべき点だ。フォノイコライザーアンプの性能に大きく左右されるポイントだ。ライン入力と同様にフォノ入力も基本的な周波数バランスは重心が低く、厚みがある。
真空管アンプにウォームな感触を求めるならレコードでヴォーカルを聴くべきだ。《エラ&ルイ》をCL-38uCとMQ-88uCのペアで再生すると、力みがなく温かみのある声の感触がダイレクトに伝わり、デジタルディスクではなくあえてレコードで聴く価値をあらためて気付かせてくれた。
CL-38uCとMQ-88uCは前作から世代交代を果たした最新のモデルだが、その源流は1970年前後にまで遡る。筆者自身も当時の音を記憶しているし、それ以前から自作アンプにはLUXブランドの出力トランスを選んでいた。それから半世紀近くの時を経てオーディオ環境は激変し、真空管アンプも現代化が進んでいるが、たとえばMQ-88uCに復刻したOY15型出力トランスを載せるなど、往年のノウハウと技術が活用されている部分はたくさんある。最新モデルの濃密で力強い音を聴きながら不変の価値に思いを馳せるのもいいものだ。
(山之内正)