ワイド化した精悍な外観と濃密で力強い音を実現
進化する伝統 ー ラックスマンの真空管セパレートアンプ「CL-38uC/MQ-88uC」を聴く
■FOCAL「SOPRA N゜1」と組み合わせ試聴
FOCALのブックシェルフ型スピーカー「SOPRA N゜1」と組み合わせて聴いたCL-38uCとMQ-88uCの再生音は、高密度かつ重心の低い音調が基本で、オーケストラのトゥッティにダイナミックレンジの余裕とスケールの大きさが備わるのは、セパレート型の真空管アンプならではのアドバンテージと感じた。
ブニアティシヴィリが独奏を弾くラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、ピアノが隅々まで鳴り切って、ホールの空気全体をダイナミックに揺るがす描写に凄みがある。オリジナルのMQ-88uも出力には十分な余裕が感じられたが、MQ-88uCは駆動力と低音の制動力にさらに磨きがかかったように思う。
第一楽章冒頭でオーケストラがエモーショナルな旋律を力強く奏でるフレーズでは、コントラバスのピチカートがハーモニーを下から支えているのだが、その支えが厚く音に芯があるため、和音の変化が曖昧にならずに推進力を最後までキープする。チェロをはじめとする弦楽器が歌い込むフレーズでは、音色の艶やかさと濃密な表情が聴きどころで、弱音でも乾いた音調になったり響きが痩せることがない。
ショスタコーヴィチの第8番では熱のこもったヴィオラの音色に加え、切れ込みの鋭さとリズムの躍動感に感嘆させられた。ティンパニの打撃は思わずハラハラするほど強靭でインパクトがあり、ここぞというときに発揮する底力の深さを実感した。
ジャズはガラッティのピアノトリオとムジカヌーダのヴォーカルをCDで聴いた。トリオのピアノは高音域まで神経質な音色にならず、弱音でも芯があり、輪郭がにじむことがない。3つの楽器の関係は音量のバランスが自然で、ベースも音域ごとの凹凸がなく、テンポが緩む気配は微塵も感じられなかった。低音の質感や力感はパワーアンプの出力トランスの性能がものを言うのだが、さすがにラックスマンの設計陣はそこを心得ていて、ムジカヌーダのベースの質感の高さにも感心させられた。ヴォーカルは豊かなボディ感と歯切れ良い発音が両立し、声のイメージにぶれがない。
声のなめらかなタッチはコロラトゥーラ・ソプラノのアリアからも聴き取ることができた。オーケストラの厚い響きのなかから澄んだ高音がスーッと伸びてくるのだが、ジャズヴォーカルと同様に細身になりすぎず、むしろほどよい丸みを帯びているのがいい。
CL-38uCの購入を検討しているなら、ぜひレコードの再生音にも耳を傾けていただきたい。前作もそうだったが、本機のフォノイコライザーアンプは音質の吟味が行き届いていて、特に音色のきめ細かい描写にかけては他では置き換えられない価値を有しているのだ。今回からMCポジションのゲイン切り替えがフロントパネルのスイッチで行えるようになり、利便性も向上している。
次ページ最新モデルの濃密で力強い音を聴きながら不変の価値に思いを馳せる