HOME > レビュー > 【第206回】凄いデスクトップオーディオが現れた。Astell&Kern「ACRO」は “覇権獲り” 級

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第206回】凄いデスクトップオーディオが現れた。Astell&Kern「ACRO」は “覇権獲り” 級

公開日 2018/04/23 08:00 高橋 敦
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

スピーカーアンプとしての実力、そしてS1000の魅力は?

次にL1000のスピーカーアンプとしての実力、S1000との組み合わせの魅力を見ていこう。

コンパクトだがアルミ筐体で頑強&重厚。ガンメタルカラーの仕上げも渋い

トゥイーター部と一体化したデザイン処理の背面バスレフポート

L1000のスペック値としてのパワーは4Ω時で最大15W×2。S1000の公称インピーダンスは6.5Ω。実際に音を出してみた感覚としては、「最大音量にしても大音量にはならないけれど、マンションの一室では気が引ける程度の大きさ」といったところ。大音量側の余裕はないが、スピーカーがほとんど目の前にあるデスクトップ用途を想定したシステムとしては必要十分だろう。

デザイン、形状での注目ポイントは、ツイーターをスピーカー中央ではなく、左右非対称で外に振った配置にしてあること。狭いデスク上への設置でも左右ツイーターの間隔を少し稼げる。

トップで凸になっているトゥイーターの配置が左右非対称であるところもポイント

スピーカーユニットはトゥイーター、ウーファー共に、定評あるドライバーメーカーScanSpeak製

イヤホンでもヘッドホンでもなく、スピーカーで音楽を聴く動機の大きな一つは音場表現。デスクトップという限られた条件でも、そこはできるだけ豊かに楽しみたいし楽しんでほしい、そういう意図からだろう。もちろん設置条件次第では、トゥイーター間隔が広がりすぎないように左右を入れ替えて狭めることもできる。

実際に聴いてみての印象としては、まず低音再生については「ポップスやロックのエレクトリックベースのラインは十分に追える」という程度。逆に言えば「ラインはクリアに描き出すがボディの太さやズンとくる響きまでは……」ということだ。

しかし、このコンパクトさにしてはそれで十分に見事。このサイズでこれを超えるレベルに低音を稼ごうとすると、その無理によって音像がブレたり緩んだりしてしまうだろう。そこに行かずに踏みとどまった判断には賛成したい。

それに極端な話、デスクトップオーディオ、特にこのシステムの場合は、「低音まで含めたワイドレンジさならイヤホンやヘッドホン」「スピーカーでは空間表現!」と割り切っての使い分けを前提とするのも、考え方としてアリだ。小型スピーカーで無理に低音を出す必要はない。

そしてその空間表現だが、組み合わせてみると期待を超えて良好だった。左右はもちろん、奥行きの描写は特に秀逸。バンドアンサンブルやボーカルのコーラス、それらの前後左右の配置がこれまた見事なフォーカスで決まる。ベースとバスドラムなど配置が重なって欲しくない楽器は重ならないし、コーラスなど折り重なって欲しいところは綺麗に重なる。空間に描き出されるその様子に満足させられた。

声やギターの質感なども、イヤホンやヘッドホンでの感触と同じく良好。アンプもスピーカーも同じシリーズで合わせての好感触ということは、これがこのシリーズの狙い通りの音と受け取って良いだろう。

総じて、なかなかに高価なスピーカーであるので諸手を挙げておすすめ!とまでは言わないが、このサイズとデザインの統一感も考えると十分に魅力的な選択肢だ。

もちろんL1000とS1000は絶対専用の組み合わせというわけではないので、予算が足りなければもっと安価なスピーカー、設置スペースに余裕があればもっと大きなスピーカーというように、そこはフレキシブルに選んでも良い。

このスピーカーの場合、高さ5 - 10cm程度の土台と角度を少し稼げるスペーサーを用意できればベストに近づけそうだが……

用意が左右分には足りなかったので試聴はブロックなし、ゴム半球で角度だけ稼いだ状態で頭の位置を下げて実施……

なおこの製品に限らず、デスクトップスピーカーの課題は設置面積の他に設置の高さと角度の確保。何かしらの工夫は必要だ。



一通りチェック完了!特にアンプ、L1000の提案性と完成度は実に高いと唸らされた。据え置きながらもヘッドホンだけではなくイヤホンとの組み合わせでも大きな力を発揮する点は、ポータブルで地位を築いたブランドならではの目の付け所。イヤホンユーザーという幅広い層にアピールできる製品だからこそスピーカー再生の裾野も広げられる。そのような狙いや願いがあるのだろう。

ヘッドホンアンプとしてのみ使うにしても、音も機能性も設置性もハイコストパフォーマンスな製品なので、導入価値は十分。それでその後に何となく気が向いたとき、適当なスピーカーでもつないでみてくれれば……メーカーとしても嬉しいはずだ。

高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。

前へ 1 2 3

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
MAGAZINE
音元出版の雑誌
オーディオアクセサリー193号
季刊・オーディオアクセサリー
最新号
Vol.195
オーディオアクセサリー大全2025~2026
別冊・ケーブル大全
別冊・オーディオアクセサリー大全
最新号
2025~2026
プレミアムヘッドホンガイドマガジン vol.22 2024冬
別冊・プレミアムヘッドホンガイドマガジン
最新号
Vol.22
プレミアムヘッドホンガイド Vol.32 2024 AUTUMN
プレミアムヘッドホンガイド
(フリーマガジン)
最新号
Vol.32(電子版)
VGP受賞製品お買い物ガイド 2025年冬版
VGP受賞製品お買い物ガイド
(フリーマガジン)
最新号
2025年冬版(電子版)
DGPイメージングアワード2024受賞製品お買い物ガイド(2024年冬版)
DGPイメージングアワード受賞製品お買い物ガイド
(フリーマガジン)
最新号
2024年冬版(電子版)
音元出版の雑誌 電子版 読み放題サービス
「マガジンプレミアム」お試し無料!

雑誌販売に関するお問合せ

WEB
  • PHILE WEB
  • PHILE WEB AUDIO
  • PHILE WEB BUSINESS
  • ホームシアターCHANNEL
  • デジカメCHANNEL
AWARD
  • VGP
  • DGPイメージングアワード
  • DGPモバイルアワード
  • AEX
  • AA AWARD
  • ANALOG GPX

本ページからアフィリエイトプログラムによる収益を得ることがあります