[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第206回】凄いデスクトップオーディオが現れた。Astell&Kern「ACRO」は “覇権獲り” 級
■スピーカーアンプとしての実力、そしてS1000の魅力は?
次にL1000のスピーカーアンプとしての実力、S1000との組み合わせの魅力を見ていこう。
L1000のスペック値としてのパワーは4Ω時で最大15W×2。S1000の公称インピーダンスは6.5Ω。実際に音を出してみた感覚としては、「最大音量にしても大音量にはならないけれど、マンションの一室では気が引ける程度の大きさ」といったところ。大音量側の余裕はないが、スピーカーがほとんど目の前にあるデスクトップ用途を想定したシステムとしては必要十分だろう。
デザイン、形状での注目ポイントは、ツイーターをスピーカー中央ではなく、左右非対称で外に振った配置にしてあること。狭いデスク上への設置でも左右ツイーターの間隔を少し稼げる。
イヤホンでもヘッドホンでもなく、スピーカーで音楽を聴く動機の大きな一つは音場表現。デスクトップという限られた条件でも、そこはできるだけ豊かに楽しみたいし楽しんでほしい、そういう意図からだろう。もちろん設置条件次第では、トゥイーター間隔が広がりすぎないように左右を入れ替えて狭めることもできる。
実際に聴いてみての印象としては、まず低音再生については「ポップスやロックのエレクトリックベースのラインは十分に追える」という程度。逆に言えば「ラインはクリアに描き出すがボディの太さやズンとくる響きまでは……」ということだ。
しかし、このコンパクトさにしてはそれで十分に見事。このサイズでこれを超えるレベルに低音を稼ごうとすると、その無理によって音像がブレたり緩んだりしてしまうだろう。そこに行かずに踏みとどまった判断には賛成したい。
それに極端な話、デスクトップオーディオ、特にこのシステムの場合は、「低音まで含めたワイドレンジさならイヤホンやヘッドホン」「スピーカーでは空間表現!」と割り切っての使い分けを前提とするのも、考え方としてアリだ。小型スピーカーで無理に低音を出す必要はない。
そしてその空間表現だが、組み合わせてみると期待を超えて良好だった。左右はもちろん、奥行きの描写は特に秀逸。バンドアンサンブルやボーカルのコーラス、それらの前後左右の配置がこれまた見事なフォーカスで決まる。ベースとバスドラムなど配置が重なって欲しくない楽器は重ならないし、コーラスなど折り重なって欲しいところは綺麗に重なる。空間に描き出されるその様子に満足させられた。
声やギターの質感なども、イヤホンやヘッドホンでの感触と同じく良好。アンプもスピーカーも同じシリーズで合わせての好感触ということは、これがこのシリーズの狙い通りの音と受け取って良いだろう。
総じて、なかなかに高価なスピーカーであるので諸手を挙げておすすめ!とまでは言わないが、このサイズとデザインの統一感も考えると十分に魅力的な選択肢だ。
もちろんL1000とS1000は絶対専用の組み合わせというわけではないので、予算が足りなければもっと安価なスピーカー、設置スペースに余裕があればもっと大きなスピーカーというように、そこはフレキシブルに選んでも良い。
なおこの製品に限らず、デスクトップスピーカーの課題は設置面積の他に設置の高さと角度の確保。何かしらの工夫は必要だ。
一通りチェック完了!特にアンプ、L1000の提案性と完成度は実に高いと唸らされた。据え置きながらもヘッドホンだけではなくイヤホンとの組み合わせでも大きな力を発揮する点は、ポータブルで地位を築いたブランドならではの目の付け所。イヤホンユーザーという幅広い層にアピールできる製品だからこそスピーカー再生の裾野も広げられる。そのような狙いや願いがあるのだろう。
ヘッドホンアンプとしてのみ使うにしても、音も機能性も設置性もハイコストパフォーマンスな製品なので、導入価値は十分。それでその後に何となく気が向いたとき、適当なスピーカーでもつないでみてくれれば……メーカーとしても嬉しいはずだ。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |