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音質向上にリソースを集中した最新モデル

音質/機能に妥協なしの“薄型”AVアンプ − マランツ「NR1609」を従来機種と比較レビュー

公開日 2018/06/29 08:00 山之内正
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ムジカ・ヌーダはベースの重心の低いサウンドと、ぶれのない声の音像定位に感心させられた。声のイメージがむやみに広がらず、フォーカスの合った音像が浮かぶのはNR1608も同じだが、声とベースの空間的なセパレーションは明らかにNR1609の方が一枚上手という印象だ。特に声の低い音域とベースの高い音が互いににじまず、クリアに発音していることに注目したい。

クリアな音色やにじみのないセパレーションはハイファイ用アンプでなければ引き出せないと考えがちだが、本質的かつていねいなアプローチで設計すれば、ハイファイモデルに引けを取らない音をAVアンプから引き出すのは不可能ではないのだ。

高密度かつ見通しの良いサラウンド再生。大音量でも音が飽和しない

次にUHD BDプレーヤーをHDMIで接続し、BDを中心に音楽と映像作品の音を聴く。マルチチャンネル再生用のスピーカーはエラックの240 BEシリーズに変更し、7.1chシステムで試聴を行った。

エラック 240BE LINEと組み合わせてサラウンドの音質も比較チェックした

トロンハイム・ソロイスツが演奏したBD『投影と熟考』(2L)からブリテンの作品を聴く。円形に並んだ弦楽器奏者たちが聴き手をぐるりと囲み、まるでステージの上で聴いているような臨場感が素晴らしい。その並び方が新鮮という以上に、互いに対等の立場で自発的に演奏を繰り広げる様子がリアルに伝わってきて、新しい音楽体験を提供してくれるのだ。

実はこの録音は5.1chのDTS-HDに加えてドルビーアトモス音声も収録している。今回は通常のDTS-HD再生で聴いたが、NR1609はオブジェクトオーディオにも対応しているので、スピーカー配置を変えて同じ音源から別の空間表現を引き出す楽しみもある。

NR1609の背面端子部

ハンス・ジマーのBD『ライブ・イン・プラハ』では、レイヤーを複雑に折り重ねたサウンドをクリアに見通し良く鳴らし分け、重量級だがけっして鈍重にはならない低音が心地よさを誘う。「ダークナイト」のメドレーではリズムセクションの複雑な動きが塊にならず、厚い低音のなかからコーラスやギターの鋭角的なフレーズが鮮やかに浮かび上がってくる。NR1608に比べるとベースの一音一音の切れがよく、リズムの刻みからテンションの高さが伝わりやすい。低域から中低域にかけては空間的な分解能も上がっているように感じられた。

どの方向にも音場の密度が薄まる部分がないのは、緻密に構成されたサラウンドの空間コンセプトを忠実に再現できていることを意味する。大きめの音量で聴いてもピークが飽和する気配を見せず、音数が増えてもリズムや内声が埋もれない点にも感心させられた。

ディスクリートで組んだパワーアンプ回路の定格出力はチャンネルあたり50Wで、けっして大出力とは言えないが、その出力は基本的なクオリティを確保したうえでの数値なので、リビングシアターの再生環境でパワー不足と感じることはまず考えられない。今回の試聴環境ではフロント左右にフロア型スピーカーを配置しているが、その鳴りっぷりの良さから判断する限り、スピーカー駆動力は必要にして十分。スリムなAVアンプだからといってボリュームを控えめに設定する必要はない。

次ページアンプとしての基本性能と忠実度の高さ

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