音質向上にリソースを集中した最新モデル
音質/機能に妥協なしの“薄型”AVアンプ − マランツ「NR1609」を従来機種と比較レビュー
映画UHD BD『ブレードランナー2049』はスピナーの飛行音、ラスベガスでKがデッカードと出会う場面の静と動の対比など、複数のシーンを再生した。スピナーの走行音はマッシブだが移動の軌跡が鮮明で、包み込むような量感にも不足はない。この作品でも効果音とハンス・ジマーの音楽が複合的に絡み合って説得力のあるサウンドを作り出しているが、終盤近くでは全チャンネルを駆使した大音圧の展開で再生システムの性能を問う難度の高いフレーズが続く。
NR1609のサラウンド再生能力の実力を見極めるために思い切って大音量で鳴らしてみると、期待を裏切ることなく分厚い低音を繰り出し、シンセティックな音色の描き分けもきめが細かい。聴き手の感情を揺さぶるようなうねりのあるサウンドを引き出すことができたのは大きな収穫だった。
最後にベルリンフィルのアジアツアーのBDから、ユジャ・ワンがソロを弾くバルトークのピアノ協奏曲第2番を視聴した。NR1608に比べて独奏とオーケストラを描き分ける空間的な解像力が高く、弱音からフォルテシモまで、どの音量でもピアノのフレーズがオーケストラに埋もれにくい。流れの良いテンポ感とリズムの起伏の強さは旧モデルからも伝わってくるのだが、同一条件で聴き比べると音色を描き分ける能力には新旧両モデルで違いがある。
具体的に紹介すると、NR1609の方がハガネのような張りの強い音やシルキーななめらかさを忠実に引き出す能力が高く、音色を表現する幅が広いのだ。これは単純な物量とは比例しない。パーツのグレードアップやノイズ対策の吟味など、きめ細かいアプローチの積み重ねで音色を追い込んだ結果、表現の幅に余裕が生まれたのであろう。
NR1609の再生音を聴き終えて、大きく2つの点が印象に残った。まずは音楽、映像どちらの作品からもアンプとしての基本性能と忠実度の高さを実感できること。マランツは以前からハイファイアンプとAVアンプを同じ基準で設計し、製品化するブランドとして知られているが、その基本思想は本機にも確実に受け継がれている。
もう1点、音源の種類や接続方法によって音の傾向が変わることがなく、シームレスに一貫した再生音を獲得していることにも注目しておきたい。AVアンプというと映画再生がメインで音楽はサブと考えがちだが、本機にはそうした線引きは当てはまらない。リビングルームの空間に無理なく溶け込むスタイリッシュなデザインを身にまとっているが、多様なソースを一手に引き受ける頼もしい存在なのである。
(山之内 正)