国産ハイエンドの雄が手がけた最新アンプ
AUDIO NOTE「Kanon」を聴く − 極上の描写力と繊細さを両立させた300Bモノパワーアンプ
このソフトで特徴的な演奏中にわずかに聴こえてくる客席のガヤも見事で、特に中高域の音数の多い、繊細な表現力が素晴らしい。音自体はクリアなのに、ライブをやっている空間の濃密な感じが良く出てくる。シンバルの複雑な倍音やリアルさなど、300Bならではの美音成分がオーディオを聴く愉悦を感じさせてくれる。低音はナチュラルな太さでウッドベースが適度な重量を持って立ち上がっている。
■鳥肌ものの描写力と高域の繊細さが両立
ダイナ・ワシントン『イン・ザ・ランド・オブ・ハイファイ』から「わが恋はここに」を聴く。
ブラスの黄銅の匂いのするような音色感やダイナの渋いヴォーカル、そしてピアノ。音自体はリアルなのに、再生音としてどこか高い品があり、音楽が美しく感じられる。ミルシテインがソロ・ヴァイオリンを弾いているブラームスのヴァイオリン協奏曲。演奏のニュアンスやボウイングのタッチの描写などは細かく描写してくれるのだがソロのヴァイオリンの音が特別に澄んでいて、鳥肌が立つような研ぎ澄まされたものがある。
この高域の倍音感や繊細さはたしかに300Bの音でもあるが、やはりオーディオ・ノートの世界なのだ。プリアンプをフラッグシップのG‐1000からG‐70に繋ぎ替えても聴いたが、プリの表現を的確に反映しつつ、Kanonの音はとにかく楽しい。入力はアンバランスのみでコネクターはXLRとRCAの2系統がある。20Wという数字以上にスピーカーをハンドリングできるパワーアンプだ。夢のようなひとときを過ごさせてもらった。
(鈴木裕)
開発者から
株式会社オーディオ・ノート
商品開発チーフデザイナー
廣川嘉行氏
本機は銘球300Bが持つ繊細かつ豊かな音調を活かしつつ、キレの良さと強靭なドライブ力を合わせ持った高品位モノラル・パワーアンプとして開発しました。初段は6072によるプレートフォロア+カソードフォロアの直結型回路とし、続く位相反転段では6CG7のパラレル動作による古典型回路の採用により、自然な質感と強力なドライブ力を両立しています。出力段は自己バイアス回路を採用し、300Bの容易な差し替えが可能となっています。電源部では整流管を2本用いてパラレル動作させる等、有機的な音質を保ったまま瞬時電流供給能力を高めています。チューニングは代表の芦澤が入念に行いました。(廣川氏)
Kanon Specifications
●方式:300Bプッシュプルモノラルパワーアンプ●定格出力:20W @1kHz、5%THD●周波数特性:10Hz〜40kHz(+0dB -3dB@1W)●入力:2系統(RCA、XLRアンバランス)●入力インピーダンス:約70kΩ●出力インピーダンス:4Ω、8Ω、16Ωから注文時に2系統を選択●残留ノイズ:1mV未満●真空管:300B×2、6CG7×2、6072×1、GZ34×2●消費電力:120W●ヒューズ:遅断型125V 3A●外形寸法:296W×284H×485Do(突起部含まず)●質量:32kg●取り扱い:(株)オーディオ・ノート
■組み合わせた機材と試聴ディスク
●アナログプレーヤー/AUDIO NOTE「GINGA」※トーンアーム(KONDO V-12)付属
●MCカートリッジ/AUDIO NOTE「IO-M」
●MCトランス/AUDIO NOTE「SFz」
●フォノイコライザー/AUDIO NOTE「GE-10」
●プリアンプ/AUDIO NOTE「G-1000」「G-70」
●スピーカーシステム/B&W「ノーチラス801」
●試聴ディスク(以下を参照)
※本記事は「季刊analog」60号所収記事を転載したものです。本誌の購入はこちらから。