フラッグシップの最終章
AUDIO NOTE「GE-10」を聴く ー “天上的に美しい音楽”を奏でる最高峰フォノイコライザー
AUDIO NOTE(オーディオ・ノート)の旗艦フォノイコライザー「GE-10」を鈴木裕氏がレビュー。日本を代表するハイエンドブランドが一切の妥協を廃して完成させた本機の実力を分析した。
フォノイコライザー
AUDIO NOTE
GE-10
¥4,914,000(税込)
Profile モノラルパワーアンプ「Kagura」とプリアンプ「G-1000」を輩出し、最高峰セパレートアンプシステムを完結させたオーディオ・ノート。日本を代表するハイエンドブランドのひとつである同社が、次に求めたのは、これらと並び立つ最高峰フォノイコライザーの登場であった。本機GE-10はCR型イコライザー回路を採用したモデルで、電源部と増幅部は別筐体で構成。オリジナル配線材SSW(シルクシルバーワイヤー)や、「Kagura」「G-1000」の流れをくむ新型の銀箔コンデンサーを信号系に配置するなど、厳選した高品位パーツをふんだんに採用した、まさにフラッグシップにふさわしい仕上がりとなっている。
■CR型イコライザー回路に超高品位パーツを次々投入
近藤公康によって創設されたオーディオ・ノート。その哲学のひとつは「音楽も音響も、突き詰めればそれは“美”の表現そのもの」。そしてそのために「最高の技術を持って美しい音楽の世界を表現」すると、決意表明しているほどだ。音の入り口から出口まで銀線を徹底的に採用しているブランドであり、高価であることでも知られている。
新しく登場したフラッグシップのフォノイコライザーアンプが「GE-10」だ。概要を手短に紹介すると、CR型イコライザー回路を採用。電源部と増幅部は銅製の別筐体に納めている。電圧変動に強く理想的な点火回路としてシャント型ヒーター電源回路を構築。左右それぞれに電源トランスや電源回路を持っている。その他、純銀箔コンデンサー、純銀リード抵抗、シルク巻き純銀線の配線材、電解コンデンサー、RCA端子、カットコア電源トランス、チョークなどの超高品質パーツを理想主義的に徹底して投入している。
■新たな音が次々と聴こえ、空間性と実在感が圧倒的
その音を確認すべくオーディオ・ノートの試聴室に伺った。アナログプレーヤーはGINGA。プリアンプG‐1000、パワーアンプKaguraというラッグシップの組み合わせでB&W「Nautilus 801」を鳴らすシステム。カートリッジや各種ケーブル類まで全て同ブランドのオリジナルのものでまとめられている。
低音感が薄いのは試聴室のレゾナンスの問題だが(他の場所で聴いて確認している)、それでも圧倒的な音だった。いささか冷静になってレポートすると、音場空間の広大さと、そこに展開する録音した現場の空気感が濃密に漂う。そして音像の実体感が素晴らしい。
たとえば『ワルツ・フォー・デビイ』では、ピアノやウッドベース、ドラムスといったミュージシャンがそこにいて、極上の音楽をやっているさまがリアルだが、このソフト特有の客席のガヤやささやき声がこれほど見事に聴こえてきて、そこに“いる”感じがするのも聴いた例がなく、ちょっと薄気味悪くもある。
たとえばエリック・クラプトンの『アンプラグド』でも、音像の前後の描き分けや細部の分解能など、たぶん1万回以上聴いているこのソフトから新たな音が次々と聴こえてくる。しかもこの地味な音楽がこれほど官能的に、うっとりとするような音楽として聴けてしまうとは。
オーディオの音として特徴的なのは、どこか人生を肯定しているというか、陽性な感じがあることだ。ある意味、イタリアのオーディオにも通じる。もうすこし別の言い方をすると音楽の高揚感を表現できる、揚がる音なのだ。
ブラームスのヴァイオリン・コンチェルトも凄かった。ミルシテインがソロヴァイオリンで、ヨッフム指揮ウィーンフィルの演奏だが、三者の気合いがぶつかる熱さや曲想が沈潜する時のぞっとするような怜悧さ、テンポが若干増していくところの音楽の推進力など、実に見事な表現。そして感覚的な言い方で申し訳ないが、なにしろ音楽が天上的に美しい。
これだけリアルで、ハイレゾリューションで、生身の人間がやっていることを再現しているのに、同時に美しいという感覚。オーディオ・ノートがなぜ欧米で評価され、これだけ高価なものが売れているのか、その秘密がここにある。
(鈴木裕)
フォノイコライザー
AUDIO NOTE
GE-10
¥4,914,000(税込)
Profile モノラルパワーアンプ「Kagura」とプリアンプ「G-1000」を輩出し、最高峰セパレートアンプシステムを完結させたオーディオ・ノート。日本を代表するハイエンドブランドのひとつである同社が、次に求めたのは、これらと並び立つ最高峰フォノイコライザーの登場であった。本機GE-10はCR型イコライザー回路を採用したモデルで、電源部と増幅部は別筐体で構成。オリジナル配線材SSW(シルクシルバーワイヤー)や、「Kagura」「G-1000」の流れをくむ新型の銀箔コンデンサーを信号系に配置するなど、厳選した高品位パーツをふんだんに採用した、まさにフラッグシップにふさわしい仕上がりとなっている。
■CR型イコライザー回路に超高品位パーツを次々投入
近藤公康によって創設されたオーディオ・ノート。その哲学のひとつは「音楽も音響も、突き詰めればそれは“美”の表現そのもの」。そしてそのために「最高の技術を持って美しい音楽の世界を表現」すると、決意表明しているほどだ。音の入り口から出口まで銀線を徹底的に採用しているブランドであり、高価であることでも知られている。
新しく登場したフラッグシップのフォノイコライザーアンプが「GE-10」だ。概要を手短に紹介すると、CR型イコライザー回路を採用。電源部と増幅部は銅製の別筐体に納めている。電圧変動に強く理想的な点火回路としてシャント型ヒーター電源回路を構築。左右それぞれに電源トランスや電源回路を持っている。その他、純銀箔コンデンサー、純銀リード抵抗、シルク巻き純銀線の配線材、電解コンデンサー、RCA端子、カットコア電源トランス、チョークなどの超高品質パーツを理想主義的に徹底して投入している。
■新たな音が次々と聴こえ、空間性と実在感が圧倒的
その音を確認すべくオーディオ・ノートの試聴室に伺った。アナログプレーヤーはGINGA。プリアンプG‐1000、パワーアンプKaguraというラッグシップの組み合わせでB&W「Nautilus 801」を鳴らすシステム。カートリッジや各種ケーブル類まで全て同ブランドのオリジナルのものでまとめられている。
低音感が薄いのは試聴室のレゾナンスの問題だが(他の場所で聴いて確認している)、それでも圧倒的な音だった。いささか冷静になってレポートすると、音場空間の広大さと、そこに展開する録音した現場の空気感が濃密に漂う。そして音像の実体感が素晴らしい。
たとえば『ワルツ・フォー・デビイ』では、ピアノやウッドベース、ドラムスといったミュージシャンがそこにいて、極上の音楽をやっているさまがリアルだが、このソフト特有の客席のガヤやささやき声がこれほど見事に聴こえてきて、そこに“いる”感じがするのも聴いた例がなく、ちょっと薄気味悪くもある。
たとえばエリック・クラプトンの『アンプラグド』でも、音像の前後の描き分けや細部の分解能など、たぶん1万回以上聴いているこのソフトから新たな音が次々と聴こえてくる。しかもこの地味な音楽がこれほど官能的に、うっとりとするような音楽として聴けてしまうとは。
オーディオの音として特徴的なのは、どこか人生を肯定しているというか、陽性な感じがあることだ。ある意味、イタリアのオーディオにも通じる。もうすこし別の言い方をすると音楽の高揚感を表現できる、揚がる音なのだ。
ブラームスのヴァイオリン・コンチェルトも凄かった。ミルシテインがソロヴァイオリンで、ヨッフム指揮ウィーンフィルの演奏だが、三者の気合いがぶつかる熱さや曲想が沈潜する時のぞっとするような怜悧さ、テンポが若干増していくところの音楽の推進力など、実に見事な表現。そして感覚的な言い方で申し訳ないが、なにしろ音楽が天上的に美しい。
これだけリアルで、ハイレゾリューションで、生身の人間がやっていることを再現しているのに、同時に美しいという感覚。オーディオ・ノートがなぜ欧米で評価され、これだけ高価なものが売れているのか、その秘密がここにある。
(鈴木裕)