[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第220回】ダイナミック型イヤホンの限界を引き上げるサウンド! FAudio「Major」が凄い
そしてこのモデルでは、ドライバー前面に配置され、音を耳の中に届けるサウンドチューブも「トリプル」のひとつとなるチャンバーとして生かされている。ハウジングがアルミニウム製であるのに対して、サウンドチューブは比重が大きい「無酸素銅」素材を採用。その重みによって余計な共鳴を出さないようになっている。しかも内壁を磨き上げることで音の通りをスムースにするという念の入れようだ。
まとめると、ハウジング内の「ダブル」チャンバーにてドライバーがベストの動きをできる環境を作り、「トリプル」の仕上げとなるサウンドチューブは、そこで生み出された音を損ねることなく耳に届ける役割、ということだろう。
なお、日本市場にはまだ導入されていないが、下の価格帯のモデルは、ダブルレイヤーではないメディカルファイバー振動板ドライバーや、トリプルではなくダブルのアコースティックチャンバー構造を採用。振動板の「ダブル」とチャンバーの「トリプル」はハイエンドならではの贅沢な要素というわけだ。
……だったのだが、その後下位モデルにも「トリプル・アコースティックチャンバー構造」を搭載することが決定!近日発売予定の「Passion」は「メディカルファイバー振動板&トリプル・アコースティックチャンバー(ステンレススティールサウンドチューブ)」という仕様で価格は3万5000円程度を見込んでいるとのことだ。こちらにも注目!
さて、Majorのもう一つ特徴的な要素として、独自開発のシリコンイヤーチップを標準で2タイプ付属している。「FA Vocal」はボーカルライン重視でノズルの長さや内壁のコーティングを調整。「FA Instrument」は楽器の音にフォーカスしてタイトな低域に調整。……とのことだが、実際の印象は後ほど紹介する。
ケーブルは見るからにゴツくてハイエンド。導体は日本で製造される軍需用の高純度銅だそうだ。太さはどうにもならないが、編み方がいい感じなおかげか、感触は意外と柔軟。取り回しもさほど悪くない。
では!ここからサウンドをお伝えしていこう。筆者の耳との装着感の面で相性が良かった「FA Vocal」イヤーチップでの印象からレビューする。
一般論として「高域表現を得意とするバランスドアーマチュア型と、中低域再生を得意とするダイナミック型」というものがある……というか、あったかと思うが、現代のハイエンドにおいてそれはもう曖昧だ。
ダイナミックハイエンドはむしろ高域表現に特色を備えていたりするし、6BA超ハイエンドの中低域は速さと豊かさを兼ね備えていたりする。設計側も購入側も、どちらが優れているではなく、どちらの質感や特色が欲しいかで選ぶ時代だろう。
その現代のダイナミック型ハイエンドであるこのモデルも、当然その領域に達している、というかその領域をさらに上へと引き上げてくれるようなサウンドだ。
高域側では、エレクトリックギターの歪みのないクリーンからほのかに歪むクランチ領域における、音色の艶やパキッと気持ちのいい硬さが特に印象的。ギターアンプのイコライザーでいうと、トレブルやハイよりも上を調整する「プレゼンス」の感じが良いといったところ。その一方で、ボーカルの湿度感といった要素も見事に表現。
低域側は、エレクトリックベースの重心の低さと、中域に寄る側のシェイプの整いが印象的。「太さよりも深さ」での低域表現だ。おかげでボーカル等との中域での被りも少ない。全体を見ると、それぞれの音同士や、音の本体と響きの分離と馴染みのバランスも良好で、それらの配置や関係性から生まれる空間表現も豊かである。
早見沙織さん「メトロナイト」は、再燃しているシティポップの雰囲気をうまく取り入れたサウンドで、巧みなギターカッティングとグルーヴィなベースが印象的だ。Majorで聴くと、カッティングの音色は前述のように艶やかでいてパキッと硬質。艶やかであるので耳心地良く、パキッとした明瞭なアタックのおかげで、リズムが正確に立つ。そのリズム表現の良さによって、ベースやドラムスと絡むリズムのニュアンスも届きやすくなり、バンドアンサンブルの魅力が際立つわけだ。
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