スピーカー「Theater Black」シリーズと組み合せてチェック
ネット動画も3Dサラウンドで! イマーシブ入門に最適なパイオニアAVアンプ「VSX-834」レビュー
また、上方からやって来る効果音がより明瞭に定位して距離感も正確に表現されることから、空間の繋がりがスムーズで、グラデーションの密度も濃い。総じてイマーシブサラウンドが目指すナチュラルな包囲感が体感でき、音と映像に没入することができた。正直なところ、スリムタイプのエントリーモデルということで音質にあまり期待せず試聴をスタートしたのだが、実際にはナチュラルなサウンド故に「音質」そのものへの評価自体をしばらく忘れてしまっていたほどだ。
改めてVSX-834の製品ページを確認すると、7chともアンプ回路はディスクリート構成で、上級機で培われた「ダイレクトエナジーデザイン」を踏襲し、高音質DACの採用、パワーアンプ部の伝送経路短縮化、クリーングランド化の徹底、線材のスタイリングなどが謳われている。「自然さ」は、同ブランドの技術伝統とこだわりによる成果だったと気づかされる。
じっくり聴き込むと、ドライブ能力のゆとりが正確な音場表現を支え、また、セリフやボーカルのクリアで肉厚な再現性を可能にしているようで、質としてはひとつ上位のクラスにも引けを取らない出来栄え。本機は比較的手ごろな価格だが、多くのユーザーが手にすると考えれば、メーカーとしても力が入ったのだろう。コストパフォーマンスの高さは筆者請け合いである。
近年の視聴スタイルを想定して、HDMI接続したWindows PCからNetflixの『ダンケルク』(5.1ch)を再生。5.1chのストレート再生でも、銃撃のような効果音は高さを伴って聴こえるが、本機のエンハンス機能を利用してイマーシブ化すると、頭上方向の空間が開けたかのような、ナチュラルな感覚に生まれ変わる。海上シーンは広大なスケール感が増してリアリティーアップにつながる。音が活き活きする様子にも耳を傾けてほしい。Netflixの5.1ch音声対応作品も、本機があれば驚くほど臨場感を高められるのだ。
ラインナップを増やしつつあるドルビーアトモスコンテンツも視聴。例えばテイラー・スウィフトのコンサートを収録した『テイラー・スウィフト: レピュテーション・スタジアム・ツアー』は、高さを強調する派手な効果音などはないが、ナチュラルかつリアルなライブの空気感に惹き込まれる。スマホやテレビのスピーカー、サウンドバーでも同コンテンツの試聴自体はできるが、加えてイマーシブサラウンド環境なら、アーティストと空間を共にする異次元の体験に近づけるはずだ。
VSX-834は、エントリーユーザーにちょうど良いサイズ、価格、機能、スペックを高い次元で両立。基本音質の高さとMCACCを筆頭とする高度な音声処理技術の相乗効果により、イマーシブサラウンドの効果を体感できるレベルに達しているのも感心させられる。
UHD BDはもちろん、ストリーミング時代に、映画やライブコンサートなど、幅広いコンテンツをよりリッチに楽しみたい映画ファン、音楽ファンにお勧めだ。
(鴻池 賢三)