次期アプリの使い勝手に期待
さよなら、iTunes。誕生、成長、混乱、そして終焉までの18年間を振り返る
■2004年:Apple Losslessに賭ける!
だが個人的には、コーデック周りの悩みに当面の終止符を打つ決定打となったのは、2004年4月リリースのVer.4.5での「Apple Lossless対応」だった。
この頃には、ある程度のお金を積めばそれなりに大容量なHDDも購入できるようになってきており、音質劣化なしにデータ容量をある程度は圧縮できるロスレスコーデックとしてもFLAC等がすでに存在していたが、iTunesはそのFLACに対応していなかったしする気配もなかった(そしてFLACの再生にもiPhoneへの転送にも対応しないままその歴史を終えることになった)。
そこに唐突に出てきたのが、このアップル独自のロスレスコーデック「Apple Lossless(ALAC)」だ。
ぶっちゃけFLACに対して何かが優れているわけでもなく「FLAC相当の独自コーデック」というものでしかない。しかし「iTunesで利用できて」「iPodに転送できる」のだ。それだけでiTunesユーザーには、とてもとても魅力的だった。
しかし今はともかく、当時の「アップル独自規格」なんてものは、将来性の面で全く信用ならないものであり、それに乗るのはかなり危険なようにも思えた。
当時の僕は、当時のCDコレクションの全てをALACでリッピングし直した。数百枚程度だっただろうか。数年後に無駄になる可能性も覚悟していたが、それでもその時点では、iTunes&iPodの環境でロスレスのライブラリを構築できる誘惑が強力だったのだ。なので賭けに出たわけだ。
まあ、ロスレスなんだから、いざとなれば無劣化で他のロスレス形式に変換できるだろうという保険もあったのだが。
それから今日に至るまで、僕の音楽ライブラリの最大勢力はALACであり続けている。
2011年10月にはALACのソースコードはオープンソース化され、現在では、ALACの再生に対応する機器はApple製品に限らず幅広い。ALACで不便を感じることはあまりない。僕は賭けに勝ったのだ。
その他、Ver.4系統では「パーティーシャッフル」「AirTunes」などの機能追加も印象的だった。いま考えるとパーティーシャッフルは翌年登場のiPod shuffleを予見させるもの、AirTunesはワイヤレスオーディオやネットワークオーディオの一部を先取りしたものだったと言えるかもしれない。
なおパーティーシャッフルは、後のバージョンで「iTunes DJ」に改名されており、そちらの名前の方により親しみのある方もいらっしゃるかもしれない。
■2006年:一瞬のきらめきを見せたCover Flow
2005年9月登場のVer.5では、「インターフェース刷新」「スマートシャッフル機能」「プレイリストのフォルダ管理」といった更新や追加が行われたが、正直あまり印象に残っていない。
同年10月には早くもVer.6も登場したが、そちらも「動画再生対応のiPodの発売に合わせて動画転送機能を搭載」というだけのバージョンだったようだ(記憶に残っていないので検索して確認した)。
これらに対して、しっかりと印象に残っているのは2006年9月12日登場のVer.7だ。iTunes Music Store改めiTunes Storeからの映画購入に対応したバージョンだが、それ以上に、「インターフェースがさらに刷新」「Cover Flowの搭載」にインパクトがあった。
アルバムのアートワークをパラパラとめくっていくようなこのインターフェース、元々はサードパーティ製品の技術であったが、その技術をアップルが買収してiTunesに搭載した。
思えばこの頃のアップルは、倒産寸前からiMacとiPodでの大復活で浮かれていたのか、「ほしい技術は買っちゃうもんね!」が目立ったような。僕も「アップル、いつまでもつのかな……」という不安な時期を脱した安心感からか、アップルのそんな様子も微笑ましく眺めていたように思う。
さておき、このCover Flow。大量のアルバムから目的のアルバムを見つけるといった狙い撃ちのブラウジングには向いていないが、「何となくパラパラして、目に留まったアルバムを聴く」というようなリスニングスタイルを楽しくしてくれるものではあった。
また画像ファイルなどビジュアルコンテンツのブラウジングには普通に向いているものであったので、Mac OS X 10.5 LeopardのFinderにも採用されるなど、それなりに効果的に利用されていたように思う。…のだが、2012年のVer.12で消滅した。
そのほかVer.7系列では、2007年6月の7.3でiPhoneへの対応を開始、2008年7月の7.7でApp Storeに対応、というのが歴史的なポイントだろうか。
これがのちに問題視されるiTunesの「増改築」「肥大化」へと繋がっていくことになる。
しかしこの時点では、「iPod+通信機能=iPhone」の管理を、iPodと同じくiTunesに担当させることは至極当然の判断であり、間違ってはいなかったはずだ。