【特別企画】幅広い音楽ソースへと柔軟に対応
これが現代の“マークレビンソンらしさ”。伝統×最新のプリメインアンプ「No5805」を聴く
■歴代モデルの意匠を受け継いだデザイン。内部構造の美しさも踏襲
内蔵DAC部のコアとなるのは、ESS社のSabre 32bit D/Aコンバーター「ESS 9026PRO」。これにディスクリート構成のバランス型I/V変換回路を組み合わせている。前述のハイレゾ対応に加え、MQAファイルのデコードも可能という点は見逃せない。
内部コンストラクションは、前方中央に大型の電源用トロイダルトランスがどんと鎮座し、筐体の左右に大型ヒートシンクを擁したパワーアンプブロックが配されている。いわゆる左右シンメトリカルな構造である。
プリアンプ等の小信号増幅のための回路基板は、背面パネルの端子直後に高密度に集約されているようだ。このパートは3階建てになっており、最上段がフォノ基板を含むアナログ回路、最下段がデジタル回路基板になっている。
過去のマークレビンソンの例に漏れず、基板のアートワークを含め、たいへん美しい内部コンストラクションといえよう。一方の前面パネルのコスメティックデザインは、従来からの同社製品を踏襲したブラック/グレーのツートンカラーを基調としたもので、ガラスパネルを配した前面中央に赤色のインジケーターが点く。ボリューム等のノブは中央がへこんだ円錐型で、感触は悪くない。
なお、本機には軽くて握りやすいコンパクトなリモコンが付属する。ほとんどの操作は、これを使って離れたところから可能だ。そしてセットアップは、前面中央のSET UPボタンからメニューに入っていくことでカスタマイズが可能。入力名の変更やゲイン設定等が、アルファベットと数字で切り替えられる。
■温かみのある再生音。スケール感はプリメインとは思えないほど
まずはMac Book Proと「Audirvana Plus」を使い、USB入力からハイレゾコンテンツを試聴してみた。辻井伸行のピアノと、ワシリー・ペトレンコ指揮、ロイヤル・リヴァプール響によるグリーグのピアノ協奏曲だ。豊かなホールトーンを醸し出しながら、ピアノが精巧に響く。S/Nもよく、オーケストラとの距離感も立体的に感じられる。何よりハイレゾらしい粒立ちのよさと情報量の多さが実感できた。
アナログ接続でCDを聴く。ジェニファー・ウォーンズの「トゥモロウ・ナイト」の冒頭のベースソロは、ピッチが正確に再現され、骨太な声が迫り出すように定位。ドラムのブラシの実感も生々しく、オルガンの音色がどこか懐かしい。演奏全体がゆったりとした大らかな空気感を醸し出し、再生音から温かみが感じられる点がよい。
アンドリアス・ネルソンスがボストン響と吹き込んだ「ショスタコーヴィチ/劇付随音楽<リア王>」の序奏では、パワフルかつスペクタキュラーな演奏が堪能できた。低音部を受け持つ管楽器群と打楽器群の咆哮は、次第にクレッシェンドしていくことでDレンジが広がって迫力が増強されていき、圧倒的な恐ろしさが表出される。いやはや、このスケール感にはやられた。プリメインアンプでここまでの表現力を備えているものはそうそうない。
最後に、マイソニックラボのMCカートリッジ「Signature Platinum」を使ってアナログ再生を試みた。MCのインピーダンス・ポジションは、本機で設定できる最低値の37Ωポジションにした(このカートリッジに対しては、もっと低く設定したいところだが)。
ブルースロックのテデスキ・トラックス・バンドの最新作「Signs」では、ズシリと重くビートが響く。スーザンのかすれたスモーキーな声がやや洗練されたイメージにはなったが、抑揚感はしっかりと出ている。スライドギターの伸びと切れ、サスティーンの具合が実にかっこいい。
国内メーカーの多くのプリメインアンプはトーンコントロールを装備している機種が多く、いろいろ多彩に調整できる点が特色だ。メーター搭載機も数多く、ともすれば似通ったデザインが多く見受けられる。
一方で海外製プリメインアンプの多くは、機能はシンプルにとどめ、パネルフェイスもオーソドックスなものが多い。そうした点から見ると、明快な個性を視覚面と音質面で主張しつつ、今日望まれる最新の性能とフィーチャーを盛り込んだのが、このマークレビンソン「No5805」ということができよう。
(特別企画 協力:ハーマンインターナショナル)