マグネシウムの特性研究から誕生
【AAEx2020 受賞】制振と高解像度を実現する高コスパなケーブル。JFSounds「MS205C」を聴く
2016年のデビュー以来、自社のオーディオブランドJFSoundsから独自のアイデアでハイコストパフォーマンスなオーディオケーブルを生み出し続けてきたジャパンファインスチール。今年はなんと、さらに線径を細く取り回しを良くした切り売りケーブル「MS205C」をリリースした。上位モデル「MS227C」を自宅リファレンスとして活用している炭山アキラ氏に、オーディオアクセサリー銘機賞2020を受賞した本ケーブルのサウンドを解説いただいた。
■加工困難なマグネシウムと銅をハイブリッドした導体
ジャパンファインスチールという会社は、もともと切断用ワイヤーなど特殊で高品位な金属線を企画・製造するメーカーである。そんな同社がオーディオへ参入するきっかけになったのは、マグネシウムの細線を伸線することに成功したことからだ。
制振性が高くオーディオにはよく使われるマグネシウムだが、脆い金属で細く伸線するのは至難の業なのだという。それを同社の技術でφ0.7mmの線が伸線できたことから、それを中心材として周辺に同径のPC‐Triple C導体を6本花びら状に添わせる芯線構造のスピーカーケーブル「MS227C」が誕生した。
このケーブルを初めて聴いた時の驚きは、いまも新鮮だ。音像がガチッと締まって揺るぎなく、しかし音楽全体としては軽やかに歌う。疾きこと風の如く、動かざること山の如し、というイメージだ。
音場は澄んで広大に広がり、特に高域方向へ向けてどこまでも伸びる。これは高品位のPC‐Triple C線をマグネシウム線がガッチリと防振することで得られる世界なのではないか。
MS227Cのデビューから3年近くが過ぎ、新作が登場した。今度の「MS205C」は、何と中心のマグネシウム線がφ0.3mmにまで細くなった。同社のたゆみなき技術革新の賜であろう。そして同径のPC‐Triple C線を6本添わせるという構成は227C譲りながら、今作は2芯ツイスト構造で丸形断面のケーブルとなった。
シースは227CがPVCなのに対し、こちらは制振材入りの耐燃性ポリオレフィンが採用されている。205Cの導体断面積は、マグネシウムを勘定に入れても0.5スケア弱で、これほど細いハイファイ用スピーカーケーブルはなかなか存在しないのではないかと思うが、これはこれで特別の用途も考えられる、得難い存在なのである。
試聴は自宅リスニングルームで行った。レファレンスとして使い慣れた227Cから205Cに取り替えて音を聴くと、低域方向は若干軽い量感になってしまうが、中〜高域の素直さ、俊敏さは227Cを上回るのではないか、という驚異的な質感を聴かせてくれた。
そもそも低域方向へさほど伸びていない小型フルレンジなどにはまさにベターハーフといえようし、例えばバイワイヤの高域用としては、これほど優れたケーブルもないのではないかと思う。我が家の4ウェイ・マルチアンプスピーカーの上2ウェイ分に205Cを、ミッドバスに227Cを使ってやりたくなった。近々実験しようと思う。
(炭山アキラ)
MS205C開発の背景をキーパーソンに聞く!
■“マグネシウム博士”のアイデアと高い金属加工技術が融合
JFサウンズのケーブル開発のキーパーソンと言えるのが、マグネシウムで博士号を獲得した金属のプロフェッショナル、家永裕一氏だ。大学時代から金属の研究を専門にし、卒業後もメーカーの技術部門でさまざまな金属研究に携わってきた。もちろんオーディオマニアとしての音へのこだわりも深いが、騒音対策など、日常における「音」の重要性にも非常に注力している人物だ。
家永氏は、マグネシウムの銅よりも伝導率は落ちるものの、振動吸収の特性に優れるという特性に注目。オーディオケーブルは、スピーカーからの音圧や、信号が流れる際に発生する微細な電流によりケーブル自身が振動してしまう。
その振動対策は大きな課題で、ケーブルのシースや絹など内部素材の検討、またケーブルインシュレーターというアイテムも話題を集めているが、ケーブルの導体そのものから検討しようというのが家永氏のアイデアだ。マグネシウムを銅でくるむことで、振動が抑えられることに加え、表皮効果により高域の減衰も抑えられるメリットもある。
しかし、マグネシウムは細く引き伸ばすのが難しい特性がある。しかしそんな折、高いマグネシウム加工技術を持つジャパンファインスチール社と出会ったことで、ケーブル開発が具体的に立ち上がってきたのだという。
今回のMS205Cは、2016年に発売された上位モデルMS227Cよりも、さらに細くしなやかで取り回しがしやすい。価格も1mで1,000円台とお手頃で、ちょっとグレードアップを楽しみたい方にも気軽に手にとっていただける。
これほどの低価格を実現するためにも、さまざまな努力が重ねられたという。当初はチューブにした銅にマグネシウムを通すことが考えられたそうだが、これでは生産コストが嵩みすぎてしまう。代わりに、中心にマグネシウム導体、周りに銅を6本を撚り合わせることで、安価なケーブル生産を実現したそうだ。
切り売りのスピーカーケーブルとしてはもちろん、自作派の方のスピーカー内部配線や、今後はカーオーディオへの導入などさまざまな将来的なプランを考えているところだという。これからのマグネシウムケーブルの発展に、ますます期待が高まるところだ。
(編集部)
<Specification>
●構造:導体2芯ツイストペア構造●ケーブル外径:φ4.7mm●導体:PC-Triple C φ0.3mm×6本●中心核導体:純マグネシウム 0.3mm×1本●導体断面積:Cu 0.42sq、全体0.49sq●導体抵抗:39.7Ω/km(参考値)●静電容量:52pF/m(参考値)●取り扱い:ジャパンファインスチール(株)
本記事は季刊・オーディオアクセサリーvol.175 Winterからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。
■加工困難なマグネシウムと銅をハイブリッドした導体
ジャパンファインスチールという会社は、もともと切断用ワイヤーなど特殊で高品位な金属線を企画・製造するメーカーである。そんな同社がオーディオへ参入するきっかけになったのは、マグネシウムの細線を伸線することに成功したことからだ。
制振性が高くオーディオにはよく使われるマグネシウムだが、脆い金属で細く伸線するのは至難の業なのだという。それを同社の技術でφ0.7mmの線が伸線できたことから、それを中心材として周辺に同径のPC‐Triple C導体を6本花びら状に添わせる芯線構造のスピーカーケーブル「MS227C」が誕生した。
このケーブルを初めて聴いた時の驚きは、いまも新鮮だ。音像がガチッと締まって揺るぎなく、しかし音楽全体としては軽やかに歌う。疾きこと風の如く、動かざること山の如し、というイメージだ。
音場は澄んで広大に広がり、特に高域方向へ向けてどこまでも伸びる。これは高品位のPC‐Triple C線をマグネシウム線がガッチリと防振することで得られる世界なのではないか。
MS227Cのデビューから3年近くが過ぎ、新作が登場した。今度の「MS205C」は、何と中心のマグネシウム線がφ0.3mmにまで細くなった。同社のたゆみなき技術革新の賜であろう。そして同径のPC‐Triple C線を6本添わせるという構成は227C譲りながら、今作は2芯ツイスト構造で丸形断面のケーブルとなった。
シースは227CがPVCなのに対し、こちらは制振材入りの耐燃性ポリオレフィンが採用されている。205Cの導体断面積は、マグネシウムを勘定に入れても0.5スケア弱で、これほど細いハイファイ用スピーカーケーブルはなかなか存在しないのではないかと思うが、これはこれで特別の用途も考えられる、得難い存在なのである。
試聴は自宅リスニングルームで行った。レファレンスとして使い慣れた227Cから205Cに取り替えて音を聴くと、低域方向は若干軽い量感になってしまうが、中〜高域の素直さ、俊敏さは227Cを上回るのではないか、という驚異的な質感を聴かせてくれた。
そもそも低域方向へさほど伸びていない小型フルレンジなどにはまさにベターハーフといえようし、例えばバイワイヤの高域用としては、これほど優れたケーブルもないのではないかと思う。我が家の4ウェイ・マルチアンプスピーカーの上2ウェイ分に205Cを、ミッドバスに227Cを使ってやりたくなった。近々実験しようと思う。
(炭山アキラ)
MS205C開発の背景をキーパーソンに聞く!
■“マグネシウム博士”のアイデアと高い金属加工技術が融合
JFサウンズのケーブル開発のキーパーソンと言えるのが、マグネシウムで博士号を獲得した金属のプロフェッショナル、家永裕一氏だ。大学時代から金属の研究を専門にし、卒業後もメーカーの技術部門でさまざまな金属研究に携わってきた。もちろんオーディオマニアとしての音へのこだわりも深いが、騒音対策など、日常における「音」の重要性にも非常に注力している人物だ。
家永氏は、マグネシウムの銅よりも伝導率は落ちるものの、振動吸収の特性に優れるという特性に注目。オーディオケーブルは、スピーカーからの音圧や、信号が流れる際に発生する微細な電流によりケーブル自身が振動してしまう。
その振動対策は大きな課題で、ケーブルのシースや絹など内部素材の検討、またケーブルインシュレーターというアイテムも話題を集めているが、ケーブルの導体そのものから検討しようというのが家永氏のアイデアだ。マグネシウムを銅でくるむことで、振動が抑えられることに加え、表皮効果により高域の減衰も抑えられるメリットもある。
しかし、マグネシウムは細く引き伸ばすのが難しい特性がある。しかしそんな折、高いマグネシウム加工技術を持つジャパンファインスチール社と出会ったことで、ケーブル開発が具体的に立ち上がってきたのだという。
今回のMS205Cは、2016年に発売された上位モデルMS227Cよりも、さらに細くしなやかで取り回しがしやすい。価格も1mで1,000円台とお手頃で、ちょっとグレードアップを楽しみたい方にも気軽に手にとっていただける。
これほどの低価格を実現するためにも、さまざまな努力が重ねられたという。当初はチューブにした銅にマグネシウムを通すことが考えられたそうだが、これでは生産コストが嵩みすぎてしまう。代わりに、中心にマグネシウム導体、周りに銅を6本を撚り合わせることで、安価なケーブル生産を実現したそうだ。
切り売りのスピーカーケーブルとしてはもちろん、自作派の方のスピーカー内部配線や、今後はカーオーディオへの導入などさまざまな将来的なプランを考えているところだという。これからのマグネシウムケーブルの発展に、ますます期待が高まるところだ。
(編集部)
<Specification>
●構造:導体2芯ツイストペア構造●ケーブル外径:φ4.7mm●導体:PC-Triple C φ0.3mm×6本●中心核導体:純マグネシウム 0.3mm×1本●導体断面積:Cu 0.42sq、全体0.49sq●導体抵抗:39.7Ω/km(参考値)●静電容量:52pF/m(参考値)●取り扱い:ジャパンファインスチール(株)
本記事は季刊・オーディオアクセサリーvol.175 Winterからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。