【特別企画】表現力の度合いは全くもって別物
「WE-407/23」から「WE-4700」へ - 約35年越しのサエク・トーンアームの進化をディープに聴き分ける
モダン・ジャズ・カルテット(MJQ)の『The Last Concert』を聴いてみると、まず、会場から湧き起こる拍手の生々しさが異なる。曲紹介をする声の後ろでジョン・ルイスが弱音で弾くピアノは、WE-407/23では遠くでぼやけて鳴っていたのだが、それが鮮明な音像で立ち現れ、距離感までがイメージできるようになる。当然、演奏のタッチのニュアンスもはっきりと描き出され、情報量の拡大に驚かされる。
ひと際目立つのが、中央に定位するウッドベースの姿だ。これまではボンヤリと現れていたベースが、滲みのない判然とした像で現れるとともに、ベース本来の重みが表現され、音楽のボトムを支える様子が分かる。明らかに低域方向のレンジが拡大されると共に、より明瞭でシャープに描画されるのである。
ミルト・ジャクソンのヴィブラフォンも、打音が持つメタリックな色彩感が克明に表現され、楽器本来の音色がより雑味無く鮮明に描かれる。楽器ごとの分離が良く、演奏の合間に聞こえる客席からのノイズが異様に生々しい。全体的に、演奏のパワーがしっかりと伝わってきて、音楽の熱気のようなものがリアルに立ち上がってきた。
キング・クリムゾン『RED』では、MJQ同様に楽器の分離感が向上し、バンドメンバーが生み出す演奏の緊張感までが伝わる。とりわけ、ProvidenceやStarlessで聴ける即興パートでは、空恐ろしくなるような冴えた空気が伝わってくる。
また、特に驚かされるのが楽器の音色再現だ。例えば、ジョン・ウェットンのエレクトリックベースは、曲によってファズの様な歪み系のサウンドが聴け、ロバート・フリップのエレクトリック・ギターも、曲によってエフェクターなりギターアンプなりによる歪み系のサウンドが多用されている。同じ歪み系の音色でありながらも、それぞれがどのような質感なのか、その微妙な違いが非常に明快に伝わってくるのだ。
内部配線材による恩恵も大きいのか、音の歪み感が大幅に抑えられており、先ほどのギターやベースにおける歪み系のサウンドが再生されたときも、音が刺々しくなったり硬くなったりせずに再現されることが非常に快い。
ヤッシャ・ハイフェッツ&シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団による『ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲』では、音楽が展開するスケールが広い。WE-407/23と比べると、控えめに言っても2〜3倍くらいに拡張されたイメージだ。
ヴァイオリンが纏う残響空間が大幅に広がり、左右スピーカーの外側にまで大きく展開され、より臨場感の高い音世界に包まれる。ヴァイオリンは、ヴィブラートの深さや、ダイナミクスの変化はもちろん、ボウイングのスラーがどのように付けられているかまで、意識せずともこちらに伝える克明さがある。
また、カデンツァに入りダブル・ストップ(重音)を鳴らし始めると、グッと力を込めて弓を引いた際の音の厚みや勢いなども、瑞々しい音色を保ったまま、ふくよかに再現する。最低弦のG線のふくよかさがきちんと出て、ヴァイオリン本来が持つ厚み表現もより自然に出る。もちろん、滑らかな音の質感は、ハイフェッツの典雅なソロを、一層引き立てている。
同時に、コントラバスやティンパニなどが支えるボトムも、力みなく、しっかりと音楽を描き出していることが分かる。歪みを抑えた透明度の高い快適な音質で、まるでホールの特等席に座って聴いているかのような錯覚を覚える没入感がある。
最後に、ダフト・パンク『Discovery』を聴くと、エレクトロニックなキックドラムによる低域の律動が、一層ブレのない押し出しでもって再現された。低域のトラッカビリティが向上し、ビートのパルスが明瞭に伝わってきて、思わず身体が動いてしまう楽しさなのだ。
以上のように、WE-4700は、オールジャンルに対して大幅な進化を感じさせるのである。とりわけ、試聴に使用している光電型のDS-W2のような、情報量が多く、周波数帯域を問わずリニアなレスポンスが楽しめるカートリッジと組み合わせると、その真価がより分かりやすい。
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