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【特別企画】表現力の度合いは全くもって別物

「WE-407/23」から「WE-4700」へ - 約35年越しのサエク・トーンアームの進化をディープに聴き分ける

公開日 2020/04/01 06:30 生形 三郎
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MCカートリッジのバランス接続、その違いも如実に立ち現れる

次にカートリッジをフェーズメーション「PP-2000」に変更し、またバランス伝送に対応するフォノイコライザー「EA-550」、フォノケーブル「SCX-5000」を組み合わせると、その違いも如実に現れる。

フェーズメーションのMCカートリッジ「PP-2000」と、そのポテンシャルを引き出すバランス接続で比較試聴を行う

MJQでは、各楽器の音色がうっすらと潤いを帯び、程良い溶け合いで演奏が紡ぎ出されていく様が美しい。ピアノやヴィブラフォンは滑らかな質感で浮かび上がり、演奏の一体感が高く音楽の運びが滑らかだ。リアリティや透明性を十二分に感じさせながらも、緊張せずに心地よく音楽に身を委ねられる快適さがある。このあたりは、カートリッジに加えて、PC-Triple C線材を使ったフォノケーブル「SCX-5000」による恩恵も大きそうだ。

『RED』も、メロトロンの運びが滑らかになるとともに、ドラムのシンバルも繊細さや柔らかい質感が美しく、バスドラムはヒットした際のボリューム感が充実しており、フットペダルの踏み込みの強弱や、ビーターの質感までをイメージさせるような繊細なディテール表現がある。しかしながら、各楽器のアタックや音色は切り込みが鋭くなり過ぎずに聴き心地が良い。

ベートーヴェンも、仄かな艶を帯びたヴァイオリンの生々しく、しなやかで気品を感じさせる美しい音色が楽しめた。明瞭にセンターへと定位するヴァイオリンと、その左右に展開していく弦楽や管楽器など、他の楽器セクションとの対比も深く再現される。

フォノEQにフェーズメーション「EA-550」、フォノケーブルにサエク「SCX-5000」を組み合わせ、MCカートリッジのバランス接続を行う。いずれもPC-Triple C導体がポイントという共通点を持つ

総じて、カートリッジそのものが持つ艶めかしさをはじめ、左右独立筐体のフェーズメーションEA-550、フォノケーブル、そしてバランス伝送の恩恵による、静けさから心地よい演奏の緊張感までが如実に立ち現われた。

少しマニアックだが、新旧のアームベースを入れ替えての試聴も実施してみた。当然のことながら、WE-4700のアームベースの方が、低域の土台の安定感が高まり、よりどっしりとした音楽表現を楽しむことができた。アーム本体だけで無く、取り付けベース部分でも着実な進化を遂げていることが実感できる。



WE-4700が持つ、写実的かつ立体感溢れる表現力や、歪み感を抑えた充足した聴き心地は、レコードに刻まれた情報を隅々まで拾い上げんとする、現代的なレコード再生を追求したい方にまさに打ってつけと言えるだろう。

約35年の時を経て誕生した「WE-4700」は、ベースとなった銘機の音を緻密でニュートラルな温度感へ変化させた

特に、歪みが抑えられて音の鮮度感が上がると共に、低音域の伸張と量感を獲得したことによって、少々クールなイメージのあったWE-407/23が、より緻密でニュートラルな温度感を発揮している。このサウンドは、レコードファンはもちろんのこと、デジタル再生ファンにもぜひとも聴いていただきたいものだと感じた。今後発表が予定されているという同社製ロングアームにも、一層の期待を寄せたい。

(生形 三郎)

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