「Accordo」の美点を引継ぎ低域を強化
聴き手に高揚感をもたらすスピーカー、フランコ・セルブリン「Accordo Essence」レビュー
低音楽器の下支えは十分に厚く、力強い。ハイティンク指揮ベルリン・フィルによる「ブルックナー《ロマンティック》」を聴いて、低い音域で大量の空気が動いていることを実感した。ただし、空気の絶対量が多くても鈍重な低音ではなく、音場は隅々まで見通せる。その澄んだ音場のおかげで和声の変化を正確に伝え、転調した瞬間に響きが変わる様子が手にとるように分かる。音楽の本質的な面白さを漏らさず伝える長所はまさにAccordoと共通だ。
質感の高い低音がもたらすもう一つのアドバンテージは、旋律楽器の音色とリズム楽器の動きが曖昧にならないことだ。200Hzよりも高い音域をカバーするミッドウーファーとトゥイーターはAccordoと同じように近接配置され、まるで単一のドライバーが鳴っているようなまとまりの良さがある。
その良さが一番はっきり伝わるのは声の実在感と表情の豊かさだ。ヴォーカルの美しさと歌いっぷりの良さはフランコ・セルブリンのスピーカーに共通する美点で、しかもジャンルを問わず男声・女声どちらにも当てはまるのだが、Accordo Essenceもその例外ではなかった。ピタリと焦点が定まった音像が空中に浮かび、にじみがなく、不自然にふくらむことがない。生身の人間が歌うのを間に何も介さず聴いているような距離の近さがあり、表情や抑揚の変化がきめ細やかに伝わってくる。
今回の試聴では、ドゥヴィエルのコロラトゥーラソプラノ、モンハイトとブーブレのデュオ、ネトレプコとビリャソンの二重唱、ムジカ・ヌーダなど各国語の多様な歌をじっくり聴いたのだが、どの曲も歌詞の内容への感情移入がいつも以上に強く感じられた。声の魅力を存分に引き出して聴き手に高揚感をもたらす不思議な力がこのスピーカーにはたしかに備わっている。
■楽器自体から生まれる低周波の振動を太い音でしっかり響かせる
Accordo Essenceの低音について、ピアノ伴奏のヴァイオリンやジャズのライブ録音を聴いて気付いたことをもう一つ紹介しておこう。
フロア型として再設計されたエンクロージャーは剛性が高く不要共振は非常に少ないのだが、たとえばコントラバスの胴の共鳴が生む深い響き、あるいはグランドピアノの響板やフレームが発する重い低音など、楽器自体から生まれる低周波の振動は太い音でしっかり響かせるところがある。それがスピーカー自体の共振とは別物ということに気付くまでは、アンプの選択やセッティングの工夫など、ある程度の手間と時間をかけて音を追い込んだ方がいい。音のチューニングという点では、スタンド一体型のAccordoの方がハンドリングしやすい面がある。
Accordoとの具体的な音の違いについても触れておこう。低音の厚みと伸びについてはAccordo Essenceに余裕があるのは当然のことだ。数字で見る周波数特性の差はわずか5Hzに過ぎないが、実際の音に現れる違いはその数字から連想するよりも明らかに大きい。
追加されたウーファーが生むレンジ拡大の効果は顕著で、コントラバスの基音領域やグランカッサなど、低音楽器のなかでも特に低い音域まで動きが見えるようになる意味は大きい。ステージの気配やホールの暗騒音など、超低音域の環境音の再現でもAccordo Essenceが強みを発揮する。
その一方、自然な空間再現力と総合的なバランスの良さではAccordoが優位に立つ。リズムを感じさせる優美な造形を含め、このスピーカーが発するオーラは特別なものがあり、他では置き換えられない価値を持っていることは間違いない。超低域での早めの減衰が気になるのはごく一部の音源だけなので、Accordoのバランスの良さに価値を見出すリスナーも少なくないはずだ。
両者の音に微妙な違いがあるのはたしかだが、Accordoに刻まれたフランコ・セルブリンの価値観や感性はAccordo Essenceにも確実に受け継がれている。不世出の作り手が生んだ名機のエッセンスが形を変えて蘇ったことを歓迎したい。
【組み合わせた試聴機材】
・アナログプレーヤー Dr.Feickert Analogue FIREBIRD ¥1,550,000
・トーンアーム KLAUDIO ARM-MP12 Mk II ¥1,250,000
・カートリッジ Jan Allaerts MC1 Boron MkU ¥560,000
・フォノイコライザー Burmester 100 ¥2,350,000
・CDプレーヤー+PSU Burmester 069 ¥7,000,000
・プリアンプ Burmester 088 ¥2,850,000
・パワーアンプ Burmester 911 Mk3 ¥3,300,000
※すべて価格は税抜