伝統と現代技術が融合
躍動感と低ノイズ思想。現代に蘇った幻の銘プリアンプ AUDIONOTE「M7 Heritage」を聴く
かつて1980年代に誕生し、パワーアンプ「ONGAKU」とともに高い人気を誇ったプリアンプ「M7」。その最大の特徴であった“躍動的な音"を維持しつつ、さらなる低ノイズレベルの再現力を携えて、現代に蘇らせたモデルが本機「M7 Heritage」である。
低インピーダンスを追求したライン回路とフォノ回路、そして上位モデルのG-1000にも採用したシャント型ヒーター回路を搭載し、細部のパーツに至るまで徹底的にこだわり抜いている。“ヴィンテージ的な音"と“現代的な音"との融合を追求したというその音は、まさにいまのオーディオ・ノートの実力の証とも言える。
従来ラインとは少し違う中低域にたっぷりの量感
オーディオ・ノートの製品に出会うと、「音楽の宝石」、「回路の宝石」というイメージが自然と浮かび上がってしまう。そして、この日初めて聴いたプリアンプ「M7Heritage」である。いつもながらの美しいシルバー・パネルとゴールドのブランド・エンブレムをたたえ、一枚のレコードを聴くという行為に独特の深淵さを感じさせてくれた。その音は、いつ聴いても響き豊かな美しい音。レコードに内包するコク、深みのような味わいまで堪能させてくれる。
筆者はこの新しいプリアンプで、グリュミョーの穏やかなヴァイオリン小曲集や『クワイエット・ウィンター・ナイト』のヴォーカル曲、アグレッシブなクレゴリオ・パニアグアの古代ギリシャの音楽などを再生した。そこで感じたことは、今までとは異なる生々しい演奏のさまと、広々とした、奥の深い空間を描写したことだ。中低域の量感がいっそう増し、解像度とダイナミックレンジが明らかに拡張しているのが理解できた。
聴き終えた後に、開発者である廣川さんに話を伺った。このプリアンプの特徴は、1989年代に名声を得て、特にヨーロッパでは、今でも根強いファンを持つM7プリアンプの音のイメージを維持しつつ、現代のスピーカーともマッチするように現在の技術で磨き上げたのだ。
その内部回路は、まさにシルバー・パーツ、シルバー・ワイヤーによる「回路の宝石」。美しいラインアンプとフォノアンプのモジュールでは、高品位パーツが使われ、丁重な作り込みを漂わせている。
生き生きとした音調と、静寂感を両立させた設計
少し詳しく説明しておこう。MM仕様のNF型フォノアンプでは、デカップリングコンデンサーを左右独立にし、初段に12AX7のSRPP回路を採用。2段目のプレートフォロアと3段目のカソードフォロアには、12AY7を採用し、生き生きとした音調と静寂感を両立させ、RIAA特性を高精度にしていることが特徴である。
また、ラインアンプでも、フォノと同じデカップリング方式を採用。12AY7のプレートとカソードフォロアの直結方式により、出力インピーダンス500Ω、カットオフ周波数18Hz(パワーアンプ入力20kHz負荷)を達成し、強力なドライブ力を達成した。これらが解像度やダイナミックレンジ特性を進化させ、レコードに内包する空間をリアルに再現することにも貢献しているのである。なお、シルクシルバーワイヤー、純銀箔コンデンサーなど音質を極めたパーツも使われている。
さらに注目されるのは電源回路とヒーター回路。整流管には6CA4を使用し、オリジナル・トランスを搭載。リップルフィルター用とデカップリング用のコンデンサーを分け、強力な電源部を構成し、驚くことに3種類のスペシャル・コンデンサーも採用し、音質を追求。さらにシャント型ヒーター回路では、CD12.6V点火とし、9万1000μFによるコンデンサーを採用し、電源をいったんバスタブのようにプールさせ、余った電源は放熱させる方式とした。
効率こそ悪いが、これによりインピーダンスが低く、非常に安定した理想的な点火回路を実現している。このように、このモデルは、長く愛用できる音質と佇まいを湛えているのである。
開発者から
(株)オーディオ・ノート
商品開発 チーフデザイナー
廣川嘉行氏
1980年代後半に誕生したM7プリアンプ。特にヨーロッパでは今でも根強いファンが存在するこのアンプの躍動的な音のイメージを維持しつつ、現在の技術で高度に磨き上げました。ライン回路はパラレル動作による低インピーダンス出力とし、品位を保ちながらダイレクトで動きのある表現力を得ました。
またフォノ回路は2段NF回路にカソードフォロアを追加し、優れた特性と情報量を確保した上で、情感表現力のある音質に仕上げました。ヒーター部に採用したシャント型回路は、高安定かつ低インピーダンスなヒーター電源生み出し、安定した音場と実在的な音像を表現し、生気のあるアナログディスク再生を楽しめます。
AUDIONOTE プリアンプ M7 Heritage ¥4,000,000(税抜)
【ライン部】 ●周波数特性:8Hz〜280kHz (+0dB/-3dB、100kΩ負荷時、アンバランス入力) ●歪み率:0.07% (1kHz、1V) ●入力/インピーダンス:4系統 (RCA×3、XLR×1、アンバランス)/50kΩ ●出力インピーダンス:3系統 (RCA×2、XLR×1、アンバランス)/400Ω ●残留ノイズ :0.15mV 未満 ●ゲイン:25dB ●真空管:6072×4
【フォノ部】 ●RIAA 偏差:±0.3dB (30Hz〜20kHz) ●ゲイン:38dB ●入力/インピーダンス:2 系統(RCA、アンバランス)/47kΩ ●全高調波歪:0.07% (1kHz、1V) ●残留ノイズ:1.5mV 未満(PHONO→LINE 出力最大時5mV未満) ●真空管:ECC803S×2、6072×2
【共通】 ●真空管:6CA4×1 ●消費電力 :38W ●サイズ:438W×160H×330Dmm ●質量:15kg ●取り扱い:(株)オーディオ・ノート
本記事は季刊アナログ vol.67からの転載です。本誌の詳細及び購入はこちらから
低インピーダンスを追求したライン回路とフォノ回路、そして上位モデルのG-1000にも採用したシャント型ヒーター回路を搭載し、細部のパーツに至るまで徹底的にこだわり抜いている。“ヴィンテージ的な音"と“現代的な音"との融合を追求したというその音は、まさにいまのオーディオ・ノートの実力の証とも言える。
従来ラインとは少し違う中低域にたっぷりの量感
オーディオ・ノートの製品に出会うと、「音楽の宝石」、「回路の宝石」というイメージが自然と浮かび上がってしまう。そして、この日初めて聴いたプリアンプ「M7Heritage」である。いつもながらの美しいシルバー・パネルとゴールドのブランド・エンブレムをたたえ、一枚のレコードを聴くという行為に独特の深淵さを感じさせてくれた。その音は、いつ聴いても響き豊かな美しい音。レコードに内包するコク、深みのような味わいまで堪能させてくれる。
筆者はこの新しいプリアンプで、グリュミョーの穏やかなヴァイオリン小曲集や『クワイエット・ウィンター・ナイト』のヴォーカル曲、アグレッシブなクレゴリオ・パニアグアの古代ギリシャの音楽などを再生した。そこで感じたことは、今までとは異なる生々しい演奏のさまと、広々とした、奥の深い空間を描写したことだ。中低域の量感がいっそう増し、解像度とダイナミックレンジが明らかに拡張しているのが理解できた。
聴き終えた後に、開発者である廣川さんに話を伺った。このプリアンプの特徴は、1989年代に名声を得て、特にヨーロッパでは、今でも根強いファンを持つM7プリアンプの音のイメージを維持しつつ、現代のスピーカーともマッチするように現在の技術で磨き上げたのだ。
その内部回路は、まさにシルバー・パーツ、シルバー・ワイヤーによる「回路の宝石」。美しいラインアンプとフォノアンプのモジュールでは、高品位パーツが使われ、丁重な作り込みを漂わせている。
生き生きとした音調と、静寂感を両立させた設計
少し詳しく説明しておこう。MM仕様のNF型フォノアンプでは、デカップリングコンデンサーを左右独立にし、初段に12AX7のSRPP回路を採用。2段目のプレートフォロアと3段目のカソードフォロアには、12AY7を採用し、生き生きとした音調と静寂感を両立させ、RIAA特性を高精度にしていることが特徴である。
また、ラインアンプでも、フォノと同じデカップリング方式を採用。12AY7のプレートとカソードフォロアの直結方式により、出力インピーダンス500Ω、カットオフ周波数18Hz(パワーアンプ入力20kHz負荷)を達成し、強力なドライブ力を達成した。これらが解像度やダイナミックレンジ特性を進化させ、レコードに内包する空間をリアルに再現することにも貢献しているのである。なお、シルクシルバーワイヤー、純銀箔コンデンサーなど音質を極めたパーツも使われている。
さらに注目されるのは電源回路とヒーター回路。整流管には6CA4を使用し、オリジナル・トランスを搭載。リップルフィルター用とデカップリング用のコンデンサーを分け、強力な電源部を構成し、驚くことに3種類のスペシャル・コンデンサーも採用し、音質を追求。さらにシャント型ヒーター回路では、CD12.6V点火とし、9万1000μFによるコンデンサーを採用し、電源をいったんバスタブのようにプールさせ、余った電源は放熱させる方式とした。
効率こそ悪いが、これによりインピーダンスが低く、非常に安定した理想的な点火回路を実現している。このように、このモデルは、長く愛用できる音質と佇まいを湛えているのである。
開発者から
(株)オーディオ・ノート
商品開発 チーフデザイナー
廣川嘉行氏
1980年代後半に誕生したM7プリアンプ。特にヨーロッパでは今でも根強いファンが存在するこのアンプの躍動的な音のイメージを維持しつつ、現在の技術で高度に磨き上げました。ライン回路はパラレル動作による低インピーダンス出力とし、品位を保ちながらダイレクトで動きのある表現力を得ました。
またフォノ回路は2段NF回路にカソードフォロアを追加し、優れた特性と情報量を確保した上で、情感表現力のある音質に仕上げました。ヒーター部に採用したシャント型回路は、高安定かつ低インピーダンスなヒーター電源生み出し、安定した音場と実在的な音像を表現し、生気のあるアナログディスク再生を楽しめます。
AUDIONOTE プリアンプ M7 Heritage ¥4,000,000(税抜)
【ライン部】 ●周波数特性:8Hz〜280kHz (+0dB/-3dB、100kΩ負荷時、アンバランス入力) ●歪み率:0.07% (1kHz、1V) ●入力/インピーダンス:4系統 (RCA×3、XLR×1、アンバランス)/50kΩ ●出力インピーダンス:3系統 (RCA×2、XLR×1、アンバランス)/400Ω ●残留ノイズ :0.15mV 未満 ●ゲイン:25dB ●真空管:6072×4
【フォノ部】 ●RIAA 偏差:±0.3dB (30Hz〜20kHz) ●ゲイン:38dB ●入力/インピーダンス:2 系統(RCA、アンバランス)/47kΩ ●全高調波歪:0.07% (1kHz、1V) ●残留ノイズ:1.5mV 未満(PHONO→LINE 出力最大時5mV未満) ●真空管:ECC803S×2、6072×2
【共通】 ●真空管:6CA4×1 ●消費電力 :38W ●サイズ:438W×160H×330Dmm ●質量:15kg ●取り扱い:(株)オーディオ・ノート
本記事は季刊アナログ vol.67からの転載です。本誌の詳細及び購入はこちらから