第92回アカデミー音響編集賞の実力はいかに
『フォードvsフェラーリ』の“クルマの音”はどれくらいリアル? カーマニアのAV評論家に聞いた
■「ここまで没入感のあるカーレース映画は初めてかも」
ーーサウンドに関しては絶賛されていますが、映像の方はどうですか?
土方:映像も素晴らしいですよ! モータースポーツ映画ではカメラワークがキモとなってくるのですが、この作品はカメラワークが非常に巧みで、レースのスピード感とリアリティが見事に再現されていますね。そこに精密なサラウンドが乗ってくるので、もう本物のサーキットにいるかのようです。
画的にも注目ポイントがものすごく多い。例えばチャプター21、GT40のテスト中にマジックアワー(日没/日の出前後に空が美しい色を見せる時間帯)を迎えるシーン。カメラのオールドレンズで撮影したようなフィルムグレインや周辺減光を利用して、当時らしい質感にしているんですね。それでいて単に古臭いだけの画面になっていないのは、「ティール&オレンジ」という、今ハリウッドで多く使われている、青緑(ティール)とオレンジを強調するグレーディングを施しているから。とても美しい写実だと思います。
ーー言われてみると、確かにレトロな味わいながら、野暮ったくない画面作りになっていますね。
土方:AV的にもハイレベルで、グラデーションがかった夕焼け空の階調表現や、暗部の明瞭度が非常に高い。これは映像だけでなくサウンドにも言えることなのですが、この作品はAV機器の実力をチェックするためのリファレンスにも最適ですね。
ーーベタ褒めじゃないですか。
土方:ただひとつだけ言うとしたら、作中ではアメリカでの草サーキットと、デイトナというアメリカナンバーワンのサーキット、そしてル・マン24時間耐久レースのサルテという3つのサーキットが出てくるんです。僕はどのサーキットも実際に見たことあって、その身からしても各サーキットの “らしさ” がよく表現されていると感じるんですけど、サルテの公道が出てくるシーンはもうちょっとリアル写実できたのではないかと思えちゃうんですよね...。
でも、僕が知る限りだと、今までのカーレース映画で一番素晴らしいサウンド、サラウンドデザインですね。それでリアリティも高いので、僕の中で、ここまで没入感のあるカーレース映画は初めてかもしれません。
そして何より、車に興味がない人も楽しめるくらいストーリーがいい! レース映画ってストーリー展開がわかりづらかったり、レース/車好き向けのドキュメンタリータッチになってしまうことも多いのですが、ジェームズ・マンゴールド監督の手腕や、脚本やキャストの演技の良さ、人間味溢れる写実性で2時間30分を飽きさせない。カーマニアのみならず、ご家族みんなで楽しめる映画だと思います。
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