『TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING』体感レポート
山下達郎が「MUSIC/SLASH」で行った高音質ライブ配信を、本気のオーディオで聴いてみた
■いよいよライブストリーミング開始! まずは『拾得』ライブから
さて、これら各機材のセッティングも終わり、準備万端。20時の配信開始を待っていたが、実際のライブのように開演に際しての注意アナウンス、開演ベルも再現される芸の細かさに、生ライブのような高揚感が沸き起こってきた。
いよいよ配信がスタート。まずは『拾得』でのアコースティックライブからである。ステージには山下達郎、キーボードの難波弘之、ベースの伊藤広規が登場。1曲目は「ターナーの汽罐車」だ。
山下達郎自らが奏でるアコギはローエンドから太くどっしりと安定し、爽やかに浮き立つボーカルをバランスよく支えている。声の質感そのものもハリよく鮮やかなタッチでまとめられ、圧縮音源特有の高域の荒々しさやボトムの薄さが感じられない! ベースのゆったりとした伸びのよさ、エレキピアノ「フェンダー・ローズ」の澄んだアタックと厚みのあるリリースもいい。
そしてライブは「あまく危険な香り」「砂の女」「希望という名の光」と続き、カバー曲である「SINCE I FEEL FOR YOU」「WHAT’S GOING ON」まで一気に駆け抜ける。ボーカルは一貫して分離よく透明感のある描写で、リヴァーブの伸びには豊かな階調感もある。ギターの弦のアタックも倍音の煌めきをナチュラルに捉えていて、想像以上に素晴らしいサウンドに驚かされた。
ちなみに、ここまでのクオリティチェックは基本的に、映像はFMV LIFEBOOK AH-X/D3とHDMI接続した55X9400、サウンドはUSB接続したNu1と試聴室に鎮座するアキュフェーズとB&Wの組み合わせをリファレンス環境としておこなったものだ。高品位な音声で配信されているから、自然とグレードの高いオーディオシステムが欲しくなってしまう。
ライブ中、機材を切り替えながら画質と音質のチェックをしたが、FMV LIFEBOOK AH-X/D3単体の場合は動画の動きも安定し、発色のよさ、暗部のコントラスト感も有機ELらしいメリハリの効いた表現を楽しめるし画質は申し分ない。内蔵スピーカーもボーカルやギターの粒立ちを鮮やかに引き立ててくれる。これでも十分だが、音質については、低域の存在感はPCサイズの域を出ない。リズムのアタックや密度感は感じられるものの、なんらかの外部スピーカーを追加したくなる。
続いてAmazon Fire TV Stick 4Kと55X9400の組み合わせは、映像面においては配信素材ながら粗さを抑えた落ち着きのいいトーンでまとめられており、発色も自然でアットホーム。ライブ会場の温かみが強調されるような印象だった。しかし大きく引き伸ばされる分、圧縮によるバンディングノイズや輪郭表現の甘さも目立ってくる。
音質面については55X9400内蔵のパワフルなアンプ&スピーカー構成により、リッチでズシンとした低域の押し出しのよさが印象的だ。ボーカルは爽やかな質感である一方、浮き上がり感は控えめで、低域表現のバランスの方が勝るような感触だった。
そしてFMV LIFEBOOK AH-X/D3を軸に、映像はHDMI接続した55X9400、音声はUSB接続したNu1から試聴室のシステムへ繋ぐリファレンス環境だが、映像はFMV LIFEBOOK AH-X/D3に表示されているものがそのまま55X9400に映し出される形になる。
ブラウザ経由で視聴するMUSIC/SLASHの仕様上、全画面表示ができず、PC上の表示も映り込んでしまうので、大画面になるメリットはあるものの、没入感はAmazon Fire TV Stick 4Kの方が高い。一方、全画面にならないからこそ、圧縮系のノイズ感が引き延ばされず、細部のじりつきが気にならないメリットもある。
とはいえ、音質面は用意した環境の中では文句なく最高で、配信素材であることを全く感じさせないほどダイナミックで、細部の見通しもいい、クリアなサウンドが楽しめた。ちなみにNu1に搭載されたNutube HDFCは3段階の切り替えが可能で、Nutube HDFCを使用しない状態でも落ち着いたバランスのいい音色であったが、音場としてはやや平坦な印象を受けた。
Nutube HDFCを1段階入れると各音像の輪郭がはっきりするようになり、全体的にスッキリとして透明度が向上。3段階までいくと輪郭がかなり強調され、硬質で押し出しも強く脚色が増す。2段階目はほどよい輪郭強調と分離感が出て、ステージの前後感も見やすくなる。もし今後、MUSIC/SLASHを試聴される方には、ぜひオススメしたい使いこなしだ。