「多くの方にお勧めできる」
“音作りのプロが関わった”ビクター初の完全ワイヤレス「HA-FX100T」速攻レビュー!
音質チューニングの方法は、JVCのエンジニアが通常使用する音調整用の音源に加え、3名のエンジニアにリファレンス音源を1曲ずつ指定してもらい、事前に「どの音がどのように鳴るべきか」について詳細なコメントを貰い、(1) JVCの技術者がチューニング → (2) スタジオエンジニアが試聴 → (3)コメントバック → (4)再度チューニング → (5)試聴 という過程を繰り返したという。
Astell&Kernの「KANN」とHA-FX100T をaptXで接続してテスト開始。試聴曲はホセ・ジェイムスの『リーン・オン・ミー』から「Just The Two of Us」、LiSAの「炎」、ジョン・ウィリアムズ『ライヴ・イン・ウィーン』から「帝国のマーチ」をチョイスした。
帯域バランスは、非常にフラットな中高域とわずかにブーストされた低域により構築される。特に中高域は、スタジオモニターヘッドホンの中でも特にフラット志向なモデルに近く、クセがない。若干強められている低域は、EDMやポップスを聴くとより顕著に聞こえるが、その分適度な音楽性が付加される絶妙なバランスだ。また低域方向のfレンジが広く、ジョン・ウィリアムズなどオーケストラ音源との相性も良好で、ドライバーユニットの背面部に空間を確保して低域の表現力を上げたとアナウンスされているが、その効果を聞き取ることができた。
分解能も価格を考えると優秀だ。本機のような高域に強調感がないモデルは、一聴すると解像感(分解能ではなく聴感上の解像度)が普通に聞こえてしまう時がある。しかし分解能の高い本モデルは、LiSAの楽曲で楽器の数が増え、音が混濁しやすい曲中盤でも、付帯音の少なさも手伝って明瞭度が下がりづらい。ハウジングの音響設計が確かなことと、スパイラルドットイヤーピースの採用による効果だと推測できる。
もう1つ評価できるのは、バックミュージックとボーカルのバランスおよび横方向の位置の提示など、サウンドステージ表現がソースに忠実であるということ。
それを如実に感じるのはホセ・ジェイムスで、本楽曲は声の帯域によりボーカルがセンターから若干右にずれるのだが、そのわずかな移動感を忠実に表現している。スパイラルドットイヤーピースと軽量なハウジングにより、試聴全体を通して装着感もすこぶる良好だった。
HA-FX100Tは、同社の持つ技術とプロのエンジニアの感性による徹底したチューニングが功を奏して、心地よく音楽を楽しむというコンセプトを達成している。
開発当初は、技術部のメンバーとスタジオエンジニアとは音に対する言語(ニュアンス表現)が異なり、スタジオエンジニアの言葉を技術的な要素へと解釈/置換する作業に若干苦労したという。しかし、「異なる言語=異なる視点」ということを認識したJVC側が今まで気がつかなかった問題点を見つけ、それを仕上げることで、最終的な完成度を大きくあげることができたという。
結果として、HA-FX100Tは他に類を見ない独創性を備えるモデルとなった。
クセのない音調/音質は長時間のリスニングに向いているし、音の傾向が理解しやすいというアドバンテージもある。手間をかけながらも価格が抑えられているところも含めて、HA-FX100Tは多くの方にお勧めできる完全ワイヤレスイヤホンだ。