<連載>角田郁雄のオーディオSUPREME
オーディオテクニカの空芯MCを2種のフォノEQで聴き比べ! フィデリックスのアナログアイテムの音質も堪能
■フィデリックスのフォノEQでは透明度の高い倍音表現が魅力
次に、フォノイコライザーとして、私が長く愛用しているフィデリックス「LEGGIERO」とヘッドアンプ「LIRICO」の組み合わせを試してみました。まず、前者LEGGIEROの特徴を紹介しておきましょう。
大きな特徴は、入力負荷抵抗を1GΩにしていることです。これにより電流は流れず、カートリッジからの電圧変化だけが伝送されることになります。20kΩとか50kΩでもこの現象が起こるのですが、同社では、1GΩによる音質変化は別物で、鉄芯MCが空芯MCに変貌したかのような音質になったとのことでした。
その内部回路ですが、今では希少価値がある東芝のJ-FETや米PRP社の高音質抵抗、高音質PPSフィルムコンデンサーなどの高品位パーツが使用され、ディスクリート構成になっていることが魅力的です。信号の流れとしては、入力されたMCの微細信号は、3×2パラレルのJ-FETを使用したA級MCヘッドアンプで、電圧から電流に変換させ、S/Nを劣化することなく増幅される仕組みです。その信号は、後段のイコライザーアンプを経由し、電圧に変換され出力される仕組みです。この回路構成により、入力換算ノイズ-156dBという素晴らしい特性を実現しています。
もう一つの特徴は、フロント左右のスイッチを使用し、RIAA、RCA、COLUMBIAなどのイコライザーカーブが設定できるだけではなく、低域と高域を各5段階で調整できます。また、専用の外部電源で電源供給されます。実際に使用すると、愛用のMCカートリッジが別モノになったかのような感覚になり、S/N、解像度、空間描写性が高まりました。
また、直熱三極真空管300Bのような透明度の高い倍音が聴け、ピアノの音階の繋がりに滑らかさを感じました。ヴォーカルでは、しっとりとした質感が加わります。AT-ART9XAにおいても、空芯MCの特性を最大限に引き出している印象を受けています。
「LIRICO」はフィデリクスが2年ほど前に発売したMCヘッドアンプです。何と、充電可能なニッケル水素バッテリー(8.4Vの006Pタイプ6個)で駆動されます。もちろん、1GΩ負荷抵抗入力です。
このLIRICOの出力をLEGGIEROのMM入力に接続し、フルテックのNCF Boosterをラックのように組み合わせて使用しています。振動や静電気を低減するだけではなく、こうすると好きなデザインになりますし、1階、2階への持ち運びも楽です。
さて、そのAT-ART9XAの音質ですが、電池駆動の効果が発揮され、さらに音の透明度、空間描写性が高まり、生々しい演奏が体験できるようになりました。中高域のみならず、低域の解像度、透明度も高まった印象を受けていますし、繊細さや柔らかさも増しました。空芯MCの音抜けの良さもさらに高まり、空間も拡張された思いがします。音色的には、より一層中低域に厚みを感じさせるピラミッドバランスの高密度な音質へと変化しました。
■増幅回路のないTruPhaseの活用でも、音の鮮度の高さを確認
ここでプリアンプを外し、フィデリックスから新発売されたパッシブ・アッテネーター「TruPhase」を使ってみました。これは、21ステップ(2dB刻み)のPRP社抵抗を切り替える方式(20kΩ仕様)で、XLR入力2系統、RCA入力3系統、XLRとRCAの出力を各1系統装備するプロ仕様としていることが特徴です。入力切り替えでは、信号線とグランドを切り替えるほか、絶対位相もスイッチで切り替えられます。
実際に使用して驚いたことは、増幅回路がないだけに、音の鮮度が極めて高いことです。聴感上のS/Nも一気に向上しました。個人的には、従来のパッシブ・アッテネーターでは微妙な音の押しや、パワーアンプへのドライブ力が不足する印象を受けたのですが、この製品はまったくそんなことはなく、AT-ART9XAの特性、音質がダイレクトに伝送されているかのような、瑞々しい音質を体験させてくれました。
今回は、AT-ART9XAを2式のフォノイコライザーで試してみましたが、鉄芯MCとはまた味わいの違う独特の音抜けの良さ、倍音再現性の高さ、解像度の高さを体験できました。そして、この製品の実力が、その価格を超えていることも実感しました。今では、真空管方式のフォノイコライザーでも試し、音質を楽しんでいるところです。読者の皆さんにも、ぜひ、この音を体験して欲しいと思います。
つくづくアナログは、ケーブルやリード線などのアクセサリーなど、音質が変化する要素が多いですね。今は巣ごもりの時期なので、その音質変化をじっくりと楽しんでいるところです。