<連載>角田郁雄のオーディオSUPREME
進化するUSB DAC、Ayre「QB-9 Twenty」。最新のサウンドは濃厚な音質と俊敏な立ち上がりが魅力
皆さま、お元気でしょうか。まだまだ油断できない状況が続きますね。私のほうは、月に1、2度ほど編集部などに仕事に出かけるようにしましたが、いくら普段、部屋で筋肉体操していても、電車に乗ると一気に緊張感が体に走り、たいして歩いていないのに帰ってきたらクタクタです。ですから、これからは周囲に気配りしながら、ランニングを習慣づけしようかなと思っています。お互いに、気をつけながら頑張っていきましょう。
■最新スペック対応へと進化し続けるUSB DACのロングセラー機
さて、オーディオ話です。今回は、ハイレゾの黎明期に大活躍したAyre(エアー)のUSB DAC「QB-9」を「QB-9 Twenty」にアップグレードしたという話です。
このQB-9は、2009年に発売され、2010年に192kHzに対応し、2013年にDSDに対応しました。さらに2017年に5.6MHz DSDに対応し、QB-9 DSDへとアップグレードされましたが、その後、生産完了となりました。随分お世話になったなあと保管していたのですが、何と昨年の暮れに、QB-9 Twentyへのアップレードが輸入元のアクシスから案内されました。
QB-9に少し触れておくと、本機は他のUSB DACとはちょっと違い、USB入力しかありませんでした。光TOSやRCA同軸入力などをデジタル処理部に装備すると、伝送処理回路が複雑になるだけではなく、内部で互いの受信素子が干渉するからとのことでした。そこで、シンプルなUSBオンリーの受信に特化したわけです。当時、USB DACのお手本としても各メーカーからも注目され、世界で高く評価されました。日本でも、ユーザーがたくさんおられることでしょう。
ではQB-9 Twentyの大きな特徴を紹介します。それは、PCMでは384kHz/24bit(DXD)に対応し、DSDはDSD256(11.2MHz)に対応させたことです。このために、内部のFPGAによるデジタル処理部を変更し、DACチップにESSの超小型DAC「ES9038Q2M」を採用しています。
また後段のアナログ回路では、Ayreのプリアンプ「KX-R Twenty」やモノラルパワーアンプ「MX-R Twenty」で開発された技術が応用され、電源回路も変更されました。こうした内容ですから、アルミ製筐体と電源トランス以外の内部基盤は、最新基板に入れ替えることになります。私はこの内容に興味津々で、事前に音質も確認したこともあり、去年年末にアップグレードを申し込みました。
■独自のディスクリート回路とクロック供給で、高精度なDA変換を実現
まず、フロントパネルですが、Twentyと表示された以外、デザイン面での変更はありません。しかし、内部では、コーヒーブラウン色の6層基板に一新されています。フロントパネルを手前にして、ハイレゾ信号の流れを簡単に説明しましょう。
まず、左端のUSB入力コネクタからの信号は、最新の非同期型(アシンクロナスモード)XMOSレシーバーに接続します。ここで受信した信号は、パソコンやNASからのデジタルノイズを遮断するために、光アイソレーターを介して、中央手前の「SPARTAN-FPGA」に接続します。このFPGAでは、主に自然な音の立ち上がりを実現するために、インパルス応答信号のプリリンギングをなくし、ポストリンギングを最小にした応答波形(MPフィルター)を生成するほか、HDCDのデコードなどを行います。
このFPGAと連動させて、左にはPICマイコンを配置しています。これは、主に再生サンプリングレートをフロントディスプレイに表示させるためです。ここで処理された信号は、ESSの32bit型DACチップ「ES9038Q2M(2chステレオ仕様)」に接続します。
これが、実に超小型! 最初、どこにあるのか分からなかったほどで、3mm×6mm程度の米粒サイズです。しかし、公開されている資料によると、上位チップに搭載されたHyperstreamU技術が搭載され、ダイナミックレンジ129dB、全高調波歪み率-120dBの性能値を達成し、リニアリティを高めているとのことです。
この直近には、これも超小型の44.1kHzと48kHz系の低位相ノイズの水晶発信器を2個配置し、このDACチップにクロックをダイレクトに注入しています。その動作は、96/192/384kHz/24bitなどの再生中には48kHz系発信器のみが動作し、44.1kHz系発信器は停止します。44.1kHz系ハイレゾ音源では、その逆動作となります。これにより、相互干渉などをなくしているわけです。また、クロック電源回路も重視し、二段構成の無帰還レギュレーターをディスクリートで組み、可能な限りの超低ノイズのクリーンな電源供給を実現しているそうです。
こうしたクロック発信器の使い方から推察されることは、DAC内部には、上位チップと同様に、高精度なデジタルPLL回路と強力なジッター低減回路を搭載し、高精度なDA変換が行われているということです。
このDACチップでは、DA変換された信号は電圧または電流で出力することができますが、本機の場合は電流出力にしています。回路を観察して分かったことですが、DACチップ出力の直後には、高精度抵抗が接続されていました。この抵抗により、電流を電圧(I/V)に変換しているのです。この増幅素子を使用しないシンプルな方法により、S/Nの向上を図っているようです。
そして、このI/V変換器の後段には、1chあたりのホット、コールドにJ-FETを各4個(1chあたり8個、左右合計16個)使用したディスクリート構成の無帰還バランス型ダイヤモンド出力回路を搭載しています。これは、プリアンプKX-Rを原点とする、Ayreアンプのコアとなる増幅回路です。これにより、ノイズフロアを引き下げると同時に、低域レスポンスを劇的に改善し、音楽のリアリティを高めたそうです。この後段には、さらに出力電圧を増強させるJ-FETによるバッファー・アンプを配置し、XLRバランス(4V出力)またはRCA出力(2V出力)する仕組みになっています。
こんな小さなDACチップの後段に、こんなに贅沢で、面積の広い高品位なディスクリート構成のアナログ回路を搭載していることにも感心させられます。Ayre Soundへの意気込みを感じます。
次に電源部(無帰還のAyreLock方式パワーサプライ)を説明します。フロントの直近には、同社がこだわる、音の立ち上がりを俊敏するというEI型トランスを配置しています。その2次側出力は、デジタルとアナログ用の2系統に分かれ、基板上のデジタルとアナログ回路用のルビコン製平滑コンデンサーに接続します。さらに、FPGA、DACチップ、アナログ回路などの直近にレギュレーター素子を配置し、各回路に適応する電圧の電源を供給しています。
また、電源インレットからトランスに接続するケーブルの途中には、そのケーブルを巻き付けたユニークな形状の茶色のボビンを配置しています。これが、同社のノイズフィルターです。
■最新スペック対応へと進化し続けるUSB DACのロングセラー機
さて、オーディオ話です。今回は、ハイレゾの黎明期に大活躍したAyre(エアー)のUSB DAC「QB-9」を「QB-9 Twenty」にアップグレードしたという話です。
このQB-9は、2009年に発売され、2010年に192kHzに対応し、2013年にDSDに対応しました。さらに2017年に5.6MHz DSDに対応し、QB-9 DSDへとアップグレードされましたが、その後、生産完了となりました。随分お世話になったなあと保管していたのですが、何と昨年の暮れに、QB-9 Twentyへのアップレードが輸入元のアクシスから案内されました。
QB-9に少し触れておくと、本機は他のUSB DACとはちょっと違い、USB入力しかありませんでした。光TOSやRCA同軸入力などをデジタル処理部に装備すると、伝送処理回路が複雑になるだけではなく、内部で互いの受信素子が干渉するからとのことでした。そこで、シンプルなUSBオンリーの受信に特化したわけです。当時、USB DACのお手本としても各メーカーからも注目され、世界で高く評価されました。日本でも、ユーザーがたくさんおられることでしょう。
ではQB-9 Twentyの大きな特徴を紹介します。それは、PCMでは384kHz/24bit(DXD)に対応し、DSDはDSD256(11.2MHz)に対応させたことです。このために、内部のFPGAによるデジタル処理部を変更し、DACチップにESSの超小型DAC「ES9038Q2M」を採用しています。
また後段のアナログ回路では、Ayreのプリアンプ「KX-R Twenty」やモノラルパワーアンプ「MX-R Twenty」で開発された技術が応用され、電源回路も変更されました。こうした内容ですから、アルミ製筐体と電源トランス以外の内部基盤は、最新基板に入れ替えることになります。私はこの内容に興味津々で、事前に音質も確認したこともあり、去年年末にアップグレードを申し込みました。
■独自のディスクリート回路とクロック供給で、高精度なDA変換を実現
まず、フロントパネルですが、Twentyと表示された以外、デザイン面での変更はありません。しかし、内部では、コーヒーブラウン色の6層基板に一新されています。フロントパネルを手前にして、ハイレゾ信号の流れを簡単に説明しましょう。
まず、左端のUSB入力コネクタからの信号は、最新の非同期型(アシンクロナスモード)XMOSレシーバーに接続します。ここで受信した信号は、パソコンやNASからのデジタルノイズを遮断するために、光アイソレーターを介して、中央手前の「SPARTAN-FPGA」に接続します。このFPGAでは、主に自然な音の立ち上がりを実現するために、インパルス応答信号のプリリンギングをなくし、ポストリンギングを最小にした応答波形(MPフィルター)を生成するほか、HDCDのデコードなどを行います。
このFPGAと連動させて、左にはPICマイコンを配置しています。これは、主に再生サンプリングレートをフロントディスプレイに表示させるためです。ここで処理された信号は、ESSの32bit型DACチップ「ES9038Q2M(2chステレオ仕様)」に接続します。
これが、実に超小型! 最初、どこにあるのか分からなかったほどで、3mm×6mm程度の米粒サイズです。しかし、公開されている資料によると、上位チップに搭載されたHyperstreamU技術が搭載され、ダイナミックレンジ129dB、全高調波歪み率-120dBの性能値を達成し、リニアリティを高めているとのことです。
この直近には、これも超小型の44.1kHzと48kHz系の低位相ノイズの水晶発信器を2個配置し、このDACチップにクロックをダイレクトに注入しています。その動作は、96/192/384kHz/24bitなどの再生中には48kHz系発信器のみが動作し、44.1kHz系発信器は停止します。44.1kHz系ハイレゾ音源では、その逆動作となります。これにより、相互干渉などをなくしているわけです。また、クロック電源回路も重視し、二段構成の無帰還レギュレーターをディスクリートで組み、可能な限りの超低ノイズのクリーンな電源供給を実現しているそうです。
こうしたクロック発信器の使い方から推察されることは、DAC内部には、上位チップと同様に、高精度なデジタルPLL回路と強力なジッター低減回路を搭載し、高精度なDA変換が行われているということです。
このDACチップでは、DA変換された信号は電圧または電流で出力することができますが、本機の場合は電流出力にしています。回路を観察して分かったことですが、DACチップ出力の直後には、高精度抵抗が接続されていました。この抵抗により、電流を電圧(I/V)に変換しているのです。この増幅素子を使用しないシンプルな方法により、S/Nの向上を図っているようです。
そして、このI/V変換器の後段には、1chあたりのホット、コールドにJ-FETを各4個(1chあたり8個、左右合計16個)使用したディスクリート構成の無帰還バランス型ダイヤモンド出力回路を搭載しています。これは、プリアンプKX-Rを原点とする、Ayreアンプのコアとなる増幅回路です。これにより、ノイズフロアを引き下げると同時に、低域レスポンスを劇的に改善し、音楽のリアリティを高めたそうです。この後段には、さらに出力電圧を増強させるJ-FETによるバッファー・アンプを配置し、XLRバランス(4V出力)またはRCA出力(2V出力)する仕組みになっています。
こんな小さなDACチップの後段に、こんなに贅沢で、面積の広い高品位なディスクリート構成のアナログ回路を搭載していることにも感心させられます。Ayre Soundへの意気込みを感じます。
次に電源部(無帰還のAyreLock方式パワーサプライ)を説明します。フロントの直近には、同社がこだわる、音の立ち上がりを俊敏するというEI型トランスを配置しています。その2次側出力は、デジタルとアナログ用の2系統に分かれ、基板上のデジタルとアナログ回路用のルビコン製平滑コンデンサーに接続します。さらに、FPGA、DACチップ、アナログ回路などの直近にレギュレーター素子を配置し、各回路に適応する電圧の電源を供給しています。
また、電源インレットからトランスに接続するケーブルの途中には、そのケーブルを巻き付けたユニークな形状の茶色のボビンを配置しています。これが、同社のノイズフィルターです。