ライブの裏で行われた実験をレポート
ヒゲダンライブの“熱”はお家でどこまで再現できる? ドルビーアトモスでの生配信を体験した
■「イマーシブへの認知度が低い現状、まずはヒゲダンの周囲からでも変えていきたい」
今回、このような試みを行う発端となったのは、ヒゲダンのライブ盤のイマーシブオーディオ制作を手がけ、今回のライブでも5.1.4chのミックスを行っていたエンジニア・古賀健一氏だという。
ポニーキャニオンエンタープライズ ポスプロ担当の近藤貴春氏によると、中継車で作業する古賀氏のもとに、ヒゲダンメンバーからエンジニア、映像監督まで、イマーシブオーディオに興味を持つ多くの方々が訪れていたそう。しかし情勢的にも“密”を作るわけにはいかないため、見学用の別会場を用意することになったとき、「どうせなら試聴室を作って、身内だけでなく色々な方に体験していただきましょう」と古賀氏が提案し、今回のような試みが実現したという。
近藤氏は、「最近はApple Musicが空間オーディオの配信を開始したりと、イマーシブオーディオもどんどん身近になってきていますよね。とはいえ、いくら口で『いい音ですよ』と言ったって、実際の魅力は伝わりませんし、レーベルやプラットフォーマー、アーティストといった業界関係者にとっても、イマーシブの全貌はなかなか見えづらいところがあります」。
「だからこそ今回、入り口から出口まで全部を見せてしまうことで、今はこれだけのことが出来るんですよ、サウンドバーでも十分楽しめるので視聴者側のハードルも低くなっているんですよ、ということを伝えていけたらなと考えました」と語る。
確かに現状として、作り手側と消費者側のどちらの面でもイマーシブオーディオの認知度が高いとは言い難い。だからと言って全員が尻込みしていては市場は縮小するばかりなので、こうして啓蒙活動を行っているのだという。
「ヒゲダンはイマーシブオーディオに理解を示してくれていて、こうして現状を変えようと協力してくださっているので、我々も応えられるよう頑張って、まずはヒゲダンの周囲からでも変えていきたいですね」と、近藤氏は強く意気込みを述べていた。
また、ミックスを担当した古賀健一氏は今回の配信から「手応えを感じられた」という。
「このチームが動きだして半年くらい経ちますが、マイクのセッティングからミキシング、音声と映像の同期までひっくるめて、チームとして目標とするレベルは今回超えられたかなと思います。僕だけでなくチーム全員が手応えを感じていると思いますし、少なくともワンマンライブであれば『できます』と言えるレベルに達しているかと。今回は久しぶりの有観客ライブということで、お客さんのエネルギーも感じられましたし、情勢が落ち着いて歓声も聞こえるようになったらどれだけ感動するのか、今から楽しみです」
今回は業界関係者向けの催しだったが、イマーシブオーディオでのライブがどのようなものかは、リスナーにとっても興味深いところだろう。一般向けの体験会などの開催も期待したいところだ。
「一般向けの体験会という意味では、今回用意したトレーラーなどは、まさにぴったりですよね。コロナ禍が落ち着かないことには難しいかもしれませんが、個人的にはライブの物販コーナーにトレーラーの体験会場を作って、過去作のイマーシブ音源を聴けるようにしたら、実際のライブと比べてどうなのか、それをお家で楽しむにはどうすればいいかもわかりやすいと思うんです」
「まずは関係者やリスナー問わず、こんなすごい技術が身近なものになっているんだよ、ということを知ってもらえると嬉しいです。そのためにも今回のような活動は続けていきたいですし、僕たちのチームは常に最新の技術を取り入れてトライアルしてますので、望んでくれる人、やりたいと思う人のために技術を磨いていくつもりです」(古賀氏)
ライブ『Official髭男dism Road to 「one - man tour 2021-2022」』は、7月10日(土)20時より各配信サービスにてオンライン配信が開始される。こちらはステレオ音声のみの配信となるが、2月に発売された「Universe + Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 - Arena Travelers -」や、8月18日発売予定の2ndアルバム「Editorial」のBDにはDolby Atmos音声が収録されているので、イマーシブオーディオでのライブがどのようなものか気になる方は、ぜひそちらで体験いただきたい。