【特別企画】パーツを吟味し細部の仕様にもこだわる
PC-Triple Cのポテンシャルを完全掌握。サエクの“矜持”を聴かせる電源ケーブル2種を自宅で検証
■電源ケーブルは一種の“フィルター”。AC電源の伝送クオリティは音質を左右する
電源ケーブルの役割を改めて考えてみよう。言うまでもなく、機器を動かすのに必要な商用AC100Vを供給するものだが、ここでひとつ重要な要件がある。信号ラインに用いるインターコネクトケーブルとは違って、電源ケーブルに音楽信号は流れない。エネルギー源となる電力を送るだけだ。信号が直接通るわけでなく、考えようによってはAC100Vが確実に送られる構造やノイズ対策が図られていれば、十分役目を果たす。しかも機器内部で交流から直流に変換されて各回路に給電されるのだから、何度も変容していることになる。
しかし、現実的には電源ケーブルで音が変わる。導体のクオリティや内部の構造、さらにはプラグの材料や仕上げ等のグレードによって、インターコネクトケーブルに負けず劣らず、サウンドパフォーマンスは大きく異なるのである。これはいったい何故なのか。
これはあくまで私の推測だが、電源ケーブルを完成させている前記の要素が一種の“フィルター”として作用し、AC100Vの忠実伝送をスポイルしているのではないかということ。そう考えると、導体のクオリティはおろか、耐ノイズ対策のための構造、プラグの剛性や接点の仕上げ等を疎かにできないことが理解できる。
そうした視点からケーブル作りを行っているメーカーの中で、私が最も信頼する1社がサエクである。今回は最新の 「PL-5900」「PL-9000」の2本を自宅システムにて試聴したので報告したい。
■高純度銅線PC-Triple Cを採用、低歪み/高伝導率の理想を追求
双方のケーブルに共通しているのは、導体にオーディオ専用に開発されたPC-Triple Cを採用している点だ。銅材の製造時に生じる結晶粒界等を吟味し、超低歪み/高伝導率に仕上げられた理想的な高純度銅線と言われている。前記した私の推測(フィルター作用)からこの導体を眺めると、あらゆる角度からみて文句のないスペックといえよう。
PL-5900とPL-9000では、内部の導体の構成/構造が異なる。PL-5900は0.32φの導体45本を綿糸介在と3芯に拠り合せた3.6スケア。一方のPL-9000は、同じ0.32φを68本束ね、綿糸介在と共に3芯を拠り合せた構造で、仕上がりは5.5スケアと太い。こうした仕様の違いから、PL-9000はより大電力を要する機器向きといえる。
目に見える差異で最も大きなところは、プラグの違いだ。PL-5900は「FI-11-N1(G)」と「FI-11M-N1(G)」という樹脂製(ナイロン+グラスファイバー/ポリカーボネート)ハウジングに金メッキ接点タイプを採用しているが、PL-9000は、フルテックの最上級のステンレス合金削り出しハウジングにシルバーカーボンファイバー仕上げを施した3層構造。プラグ部のみサエクコマースの特注による金メッキ仕様となっている。
この2種類の相違は、ブランドのポリシーを反映した仕様といってよい。特に金メッキ仕様にその狙いとこだわりが見て取れる。言い換えれば、オリジナルのロジウムメッキではサエクの音にならないという姿勢の表れかもしれない。
この他に絶縁体やシールド構造の材料、さらにはシースの構成など、細部の仕上げが若干異なるようだが、この辺りも適宜吟味、選択されたものと思われる。
■ローエンドの骨格が頑強に。PC-Triple Cのポテンシャルを完全掌握
今回、SACDプレーヤーとネットワーク・トランスポートにPL-5900、プリアンプとパワーアンプにPL-9000をそれぞれ接続した印象を記そう。
ソウルノート「S-3」に接続したPL-5900は、このプレーヤーの持ち味である鮮度の高さをキープしながら、より精緻な方向に音を持っていった。ステレオイメージの空間表現、とりわけ奥行きがより深々と出せるようになった。
寺島レコードの大橋祐子の新作『Kiss from a Rose』は、左右スピーカーに目一杯ピアノを大きく広げた上で、ベースやドラムがいくらか下がった位置に克明に屹立するように定位する。この見通しのよさは格別だ。
PL-5900のS/N改善効果が凄いと感じたのは、ヒラリー・ハーンの独奏ヴァイオリンによる「ショーソン/詩曲」だ。静粛さ、静謐感の高まりによって、楽器の微かなニュアンス描写が一段と鮮やかになり、グラデーションと彩りが精妙になるのが分かった。フッと浮かび上がる音像も美しく、これはスフォルツァートのネットワーク・トランスポート「DST-Lepus」の付属電源ケーブルから交換した際の印象である。
PL-9000を用いたソウリューションのプリアンプ「725」は、ローエンドの力感が安定し、エネルギーバランスがどっしりとした印象に変わった。渡辺貞夫の人気アルバム『モーニング・アイランド』のタイトル曲にて、スティーブ・ガッドのバスドラムがこんなにマッシブかつ剛性感たっぷりに感じられたことはなかった。ローエンドの骨格の頑強さが半端ない。私はここにロジウムメッキでなく、敢えて金メッキの接点にこだわったサエクの矜持があるように思う。
パワーアンプのソウリューション「711」にPL-9000を接続しても同様の印象で、重心の安定感が微動だにしない。パトリシア・バーバーの最新SACD『Higher』のヴォーカル音像の実在感、ガットギターの響きの豊かさには心底シビれた。
こうしてサエクの最新電源ケーブル2種を聴いて思うのは、バリエーションを設けられるほど同社がPC-Triple Cのポテンシャルを完全掌握してきたということだ。製品づくりにおけるそうした自信は、当面続くことだろう。
(提供:サエクコマース)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー181号』からの転載です。
電源ケーブルの役割を改めて考えてみよう。言うまでもなく、機器を動かすのに必要な商用AC100Vを供給するものだが、ここでひとつ重要な要件がある。信号ラインに用いるインターコネクトケーブルとは違って、電源ケーブルに音楽信号は流れない。エネルギー源となる電力を送るだけだ。信号が直接通るわけでなく、考えようによってはAC100Vが確実に送られる構造やノイズ対策が図られていれば、十分役目を果たす。しかも機器内部で交流から直流に変換されて各回路に給電されるのだから、何度も変容していることになる。
しかし、現実的には電源ケーブルで音が変わる。導体のクオリティや内部の構造、さらにはプラグの材料や仕上げ等のグレードによって、インターコネクトケーブルに負けず劣らず、サウンドパフォーマンスは大きく異なるのである。これはいったい何故なのか。
これはあくまで私の推測だが、電源ケーブルを完成させている前記の要素が一種の“フィルター”として作用し、AC100Vの忠実伝送をスポイルしているのではないかということ。そう考えると、導体のクオリティはおろか、耐ノイズ対策のための構造、プラグの剛性や接点の仕上げ等を疎かにできないことが理解できる。
そうした視点からケーブル作りを行っているメーカーの中で、私が最も信頼する1社がサエクである。今回は最新の 「PL-5900」「PL-9000」の2本を自宅システムにて試聴したので報告したい。
■高純度銅線PC-Triple Cを採用、低歪み/高伝導率の理想を追求
双方のケーブルに共通しているのは、導体にオーディオ専用に開発されたPC-Triple Cを採用している点だ。銅材の製造時に生じる結晶粒界等を吟味し、超低歪み/高伝導率に仕上げられた理想的な高純度銅線と言われている。前記した私の推測(フィルター作用)からこの導体を眺めると、あらゆる角度からみて文句のないスペックといえよう。
PL-5900とPL-9000では、内部の導体の構成/構造が異なる。PL-5900は0.32φの導体45本を綿糸介在と3芯に拠り合せた3.6スケア。一方のPL-9000は、同じ0.32φを68本束ね、綿糸介在と共に3芯を拠り合せた構造で、仕上がりは5.5スケアと太い。こうした仕様の違いから、PL-9000はより大電力を要する機器向きといえる。
目に見える差異で最も大きなところは、プラグの違いだ。PL-5900は「FI-11-N1(G)」と「FI-11M-N1(G)」という樹脂製(ナイロン+グラスファイバー/ポリカーボネート)ハウジングに金メッキ接点タイプを採用しているが、PL-9000は、フルテックの最上級のステンレス合金削り出しハウジングにシルバーカーボンファイバー仕上げを施した3層構造。プラグ部のみサエクコマースの特注による金メッキ仕様となっている。
この2種類の相違は、ブランドのポリシーを反映した仕様といってよい。特に金メッキ仕様にその狙いとこだわりが見て取れる。言い換えれば、オリジナルのロジウムメッキではサエクの音にならないという姿勢の表れかもしれない。
この他に絶縁体やシールド構造の材料、さらにはシースの構成など、細部の仕上げが若干異なるようだが、この辺りも適宜吟味、選択されたものと思われる。
■ローエンドの骨格が頑強に。PC-Triple Cのポテンシャルを完全掌握
今回、SACDプレーヤーとネットワーク・トランスポートにPL-5900、プリアンプとパワーアンプにPL-9000をそれぞれ接続した印象を記そう。
ソウルノート「S-3」に接続したPL-5900は、このプレーヤーの持ち味である鮮度の高さをキープしながら、より精緻な方向に音を持っていった。ステレオイメージの空間表現、とりわけ奥行きがより深々と出せるようになった。
寺島レコードの大橋祐子の新作『Kiss from a Rose』は、左右スピーカーに目一杯ピアノを大きく広げた上で、ベースやドラムがいくらか下がった位置に克明に屹立するように定位する。この見通しのよさは格別だ。
PL-5900のS/N改善効果が凄いと感じたのは、ヒラリー・ハーンの独奏ヴァイオリンによる「ショーソン/詩曲」だ。静粛さ、静謐感の高まりによって、楽器の微かなニュアンス描写が一段と鮮やかになり、グラデーションと彩りが精妙になるのが分かった。フッと浮かび上がる音像も美しく、これはスフォルツァートのネットワーク・トランスポート「DST-Lepus」の付属電源ケーブルから交換した際の印象である。
PL-9000を用いたソウリューションのプリアンプ「725」は、ローエンドの力感が安定し、エネルギーバランスがどっしりとした印象に変わった。渡辺貞夫の人気アルバム『モーニング・アイランド』のタイトル曲にて、スティーブ・ガッドのバスドラムがこんなにマッシブかつ剛性感たっぷりに感じられたことはなかった。ローエンドの骨格の頑強さが半端ない。私はここにロジウムメッキでなく、敢えて金メッキの接点にこだわったサエクの矜持があるように思う。
パワーアンプのソウリューション「711」にPL-9000を接続しても同様の印象で、重心の安定感が微動だにしない。パトリシア・バーバーの最新SACD『Higher』のヴォーカル音像の実在感、ガットギターの響きの豊かさには心底シビれた。
こうしてサエクの最新電源ケーブル2種を聴いて思うのは、バリエーションを設けられるほど同社がPC-Triple Cのポテンシャルを完全掌握してきたということだ。製品づくりにおけるそうした自信は、当面続くことだろう。
(提供:サエクコマース)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー181号』からの転載です。