【オーディオ銘機賞2022】ベストセラー賞受賞
マランツの最強プレーヤー「SACD 30n」、ベストセラーの理由を探る!
創設70年を迎えるマランツから、新登場した30シリーズ。SACD 30nは、高品位なSACD/CD再生能力を搭載しながら、同社史上最高のネットワーク再生能力も実現した革新的なプレーヤーとして、昨年の発売以来ヒットを続けている。「オーディオ銘機賞 2022」で、ベストセラー賞に輝いた本機の実力を改めて解説しよう。
■銘機賞で2年連続受賞の快挙を成し遂げた人気機種(山之内)
各社の主力ディスクプレーヤーがしのぎを削るミドルクラスでひときわ高い人気を誇るのが、マランツのSACD 30nである。その実力が評価されて今年度の銘機賞でベストセラー賞を受賞。2020年秋には同じく特別賞を授与されているので、2年連続受賞の快挙を成し遂げたことになる。高評価の背景を探ってみると、誰もが納得できる要因がいくつか浮かび上がってくる。
1年以上も前のことだが、発売を控えたSACD 30nとMODEL 30の外観を見たとき、「このシリーズはヒット作になる」と直感した。概要の説明を受ける前で音も聴いてないのに外観だけでそう感じたのは、たんに新しさをアピールするための変更ではなく、ブランドのヒストリーを次世代につなぐコンセプトがデザインから伝わってきたからだ。
そこまで意識したデザインを身にまとう製品なら中身に妥協しないことは明らかだ。正確に言えば、持続性を重んじるマランツの製品開発姿勢をよく知っているので、内容について不安を抱く理由はないということ。唯一、価格だけは大まかなレンジすら想像できなかった。フロントパネルの意匠に高級感があるし、照明の加減で表情を変えるなど、懐の深いデザインと感じたものの、価格までは言い当てられなかったのだ。
いずれにしても、ここまでデザインを大きく変更したのはなんと16年ぶりだという。ベストセラーとして人気を得ていることから判断して、日本国内でもこの新しいデザインが幅広く受け入れられたのは間違いなさそうだ。
■妥協のない設計を貫いたディスクとファイル再生
プレーヤーの基本性能を左右するDAC回路に独自開発のディスクリート「Marantz Musical Mastering(MMM)」を載せたことが、SACD 30nの成功を支えた実質的な最大の要因と言っていいだろう。SA-10を筆頭にSA-12(生産完了)、SA-12 OSEと姉妹機に受け継いできた流れに沿ったものだが、いまもこの価格帯でディスクリートDACを採用する唯一の製品であり、注目度の高さは群を抜いている。
デジタルオーディオ機器、特にプレーヤーの音を追い込む過程で設計者の知見が及びにくい最後のブラックボックスがDACであった。マランツは、DACデバイスが内蔵する機能をそのまま使うのではなく、音質に関わるプロセスを可能な限り独自に設計する手法を従来から採用してきたが、その手法には当然ながら限界がある。
MMMでは、同社が蓄積してきたノウハウをDSPやCPLDで構成した前段のMMM Streamブロックに独自アルゴリズムとして反映させ、PCM信号を11.2MHzのDSD信号に変換して後段のMMM Conversionに送り込む。後段のアナログFIRフィルターをディスクリート部品で構成するため回路規模は物理的に大きくなるが、信号処理のロジック自体はシンプルで一貫性がある。ちなみにDSD信号の場合はさらにシンプルで、前段のオーバーサンプリング、デジタルフィルター、ΔΣ変調などのプロセスをパスし、直接アナログFIRフィルターに受け渡す。
ディスク再生とファイル再生を同格に扱い、ネットワークプレーヤーとしても妥協のない設計を貫いたことも現在のニーズをとらえた的確な判断である。HEOSをベースに利便性を追求している点も重要だが、SACD 30nでは音質面で一歩踏み込んだ改善策を投入した。それが新採用のプレミアム・クロック・リジェネレーターである。リジェネレーターで精度の高いクロックに置き換え、ディスク再生時と同等のピュアな状態でディスクリートDACに送り出し、マランツが理想とするDA変換処理を行うという流れだ。
クロックの精度を上げ、ジッターの影響を排除する取り組みはハイエンドクラスのデジタルプレーヤーでは最重要課題と認識されており、海外ブランドを中心に各社が独自技術に磨きをかけている。マランツがミドルレンジのステージでその一翼を担っているのは画期的なことで、海外のメーカーやリスナーからも注目を集めている。半導体不足が恒常化するなど環境が流動的に変化するなか、マランツの取り組みはハイファイオーディオの今後を見通すうえで注目に値する。
■精妙な空気の動きも聴き取るSACDの高い再生能力
最後に残った最も重要な要因はいうまでもなく音である。持続性がマランツの開発姿勢の特徴と紹介した通り、SA-10を頂点とするディスクプレーヤーと歴代のネットワークプレーヤーで培ってきた音質設計のノウハウをSACD 30nはそのまま受け継いでいる。
自社開発のドライブメカニズム「SACDM-3L」や回路ブロックごとに巻線を独立させた大容量トロイダルトランス、カスタム設計のブロックコンデンサーなど、多くのノウハウが部品レベルまで浸透しているので、新デザインのSACD 30nで再生音まで一変、ということにはならない。設計思想が一貫しているからこそ、MMMやプレミアム・クロック・リジェネレーターの真価が音に現れる。私はそう理解している。
具体的な例をいくつか紹介しておこう。F.P.ツィンマーマンとマルティン・ヘルムヒェンによる『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5-7番』は、SACDのポテンシャルの高さを伝える格好の音源の一つだ。ツィンマーマンの音は明るく力強い美音で主旋律の歌い方に一片の迷いも感じられない。
その密度の高い音はステージ手前に3次元の楽器イメージとともに浮かび上がり、背景にはヘルムヒェンが演奏する平行弦ピアノの澄んだ音が広がる。両者が勝手に自己主張するのではなく、空気中で完全に一体となった余韻が消えるまで、精妙な空気の動きを聴き取ることができる。ジェーン・モンハイトとマイケル・ブーブレのデュエットをCDで再生すると、親密さと温かみを伝えるヴォーカルにまずは魅了され、切れの良い音で合いの手を入れるホーン楽器の冴え渡る音色に息を呑む。
マランツのディスクプレーヤーは世代を重ねるたびに音色を描き分ける精度が上がっていると感じているのだが、SACD 30nはフラッグシップ機のSA-10に比べ得るレベルできめ細かく鳴らし分けていると思う。MMMを積む前の世代のプレーヤーと比べると、ピアノやベースの低音に伸びやかさがあり、トランペットの最高音域から硬さが消えるなど、DACの進化も聴き取ることができる。
■楽器が隅々まで鳴り切り爽快なネットワーク再生
ファイル再生ではアンネ=ゾフィー・ムターがジョン・ウィリアムズ作品を演奏した『ドニーブルーク・フェア』(FLAC 96kHz/24bit)を聴くと、SACD 30nの長所がとても分かりやすい。弦楽器群が一斉にはじくピチカートの余韻がホールに広がる様子はパースペクティブが広大で、部屋の壁を取り払ったような開放感がある。
そのあとすぐに弾き始めるムターのソロは弓の圧力の加減とボウイングの速さが分かるほどの生々しさがあるが、力んだ荒い音とは対極の絶妙なコントロールが実感できる。跳躍の大きな旋律だが、どの音域でも楽器が隅々まで鳴り切っていて爽快きわまりない。NASのハイレゾ音源を再生したあと、Amazon Music HDで同じ音源を聴いても、この演奏の躍動感が失われることはなく、重心の低いオーケストラのサウンドを味わうことができた。
音質の次元の高さを確認したあとであらためて振り返ってみると、SACD 30nは現代の聴き手がデジタルプレーヤーに求める条件をもらさず満たしていることに気付いた。普段聴くメディアの種類に左右されず、同じように質感の高いサウンドを楽しめるプレーヤーは意外にも希少な存在なのだ。
■銘機賞で2年連続受賞の快挙を成し遂げた人気機種(山之内)
各社の主力ディスクプレーヤーがしのぎを削るミドルクラスでひときわ高い人気を誇るのが、マランツのSACD 30nである。その実力が評価されて今年度の銘機賞でベストセラー賞を受賞。2020年秋には同じく特別賞を授与されているので、2年連続受賞の快挙を成し遂げたことになる。高評価の背景を探ってみると、誰もが納得できる要因がいくつか浮かび上がってくる。
1年以上も前のことだが、発売を控えたSACD 30nとMODEL 30の外観を見たとき、「このシリーズはヒット作になる」と直感した。概要の説明を受ける前で音も聴いてないのに外観だけでそう感じたのは、たんに新しさをアピールするための変更ではなく、ブランドのヒストリーを次世代につなぐコンセプトがデザインから伝わってきたからだ。
いずれにしても、ここまでデザインを大きく変更したのはなんと16年ぶりだという。ベストセラーとして人気を得ていることから判断して、日本国内でもこの新しいデザインが幅広く受け入れられたのは間違いなさそうだ。
■妥協のない設計を貫いたディスクとファイル再生
プレーヤーの基本性能を左右するDAC回路に独自開発のディスクリート「Marantz Musical Mastering(MMM)」を載せたことが、SACD 30nの成功を支えた実質的な最大の要因と言っていいだろう。SA-10を筆頭にSA-12(生産完了)、SA-12 OSEと姉妹機に受け継いできた流れに沿ったものだが、いまもこの価格帯でディスクリートDACを採用する唯一の製品であり、注目度の高さは群を抜いている。
デジタルオーディオ機器、特にプレーヤーの音を追い込む過程で設計者の知見が及びにくい最後のブラックボックスがDACであった。マランツは、DACデバイスが内蔵する機能をそのまま使うのではなく、音質に関わるプロセスを可能な限り独自に設計する手法を従来から採用してきたが、その手法には当然ながら限界がある。
MMMでは、同社が蓄積してきたノウハウをDSPやCPLDで構成した前段のMMM Streamブロックに独自アルゴリズムとして反映させ、PCM信号を11.2MHzのDSD信号に変換して後段のMMM Conversionに送り込む。後段のアナログFIRフィルターをディスクリート部品で構成するため回路規模は物理的に大きくなるが、信号処理のロジック自体はシンプルで一貫性がある。ちなみにDSD信号の場合はさらにシンプルで、前段のオーバーサンプリング、デジタルフィルター、ΔΣ変調などのプロセスをパスし、直接アナログFIRフィルターに受け渡す。
クロックの精度を上げ、ジッターの影響を排除する取り組みはハイエンドクラスのデジタルプレーヤーでは最重要課題と認識されており、海外ブランドを中心に各社が独自技術に磨きをかけている。マランツがミドルレンジのステージでその一翼を担っているのは画期的なことで、海外のメーカーやリスナーからも注目を集めている。半導体不足が恒常化するなど環境が流動的に変化するなか、マランツの取り組みはハイファイオーディオの今後を見通すうえで注目に値する。
■精妙な空気の動きも聴き取るSACDの高い再生能力
最後に残った最も重要な要因はいうまでもなく音である。持続性がマランツの開発姿勢の特徴と紹介した通り、SA-10を頂点とするディスクプレーヤーと歴代のネットワークプレーヤーで培ってきた音質設計のノウハウをSACD 30nはそのまま受け継いでいる。
自社開発のドライブメカニズム「SACDM-3L」や回路ブロックごとに巻線を独立させた大容量トロイダルトランス、カスタム設計のブロックコンデンサーなど、多くのノウハウが部品レベルまで浸透しているので、新デザインのSACD 30nで再生音まで一変、ということにはならない。設計思想が一貫しているからこそ、MMMやプレミアム・クロック・リジェネレーターの真価が音に現れる。私はそう理解している。
具体的な例をいくつか紹介しておこう。F.P.ツィンマーマンとマルティン・ヘルムヒェンによる『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5-7番』は、SACDのポテンシャルの高さを伝える格好の音源の一つだ。ツィンマーマンの音は明るく力強い美音で主旋律の歌い方に一片の迷いも感じられない。
その密度の高い音はステージ手前に3次元の楽器イメージとともに浮かび上がり、背景にはヘルムヒェンが演奏する平行弦ピアノの澄んだ音が広がる。両者が勝手に自己主張するのではなく、空気中で完全に一体となった余韻が消えるまで、精妙な空気の動きを聴き取ることができる。ジェーン・モンハイトとマイケル・ブーブレのデュエットをCDで再生すると、親密さと温かみを伝えるヴォーカルにまずは魅了され、切れの良い音で合いの手を入れるホーン楽器の冴え渡る音色に息を呑む。
マランツのディスクプレーヤーは世代を重ねるたびに音色を描き分ける精度が上がっていると感じているのだが、SACD 30nはフラッグシップ機のSA-10に比べ得るレベルできめ細かく鳴らし分けていると思う。MMMを積む前の世代のプレーヤーと比べると、ピアノやベースの低音に伸びやかさがあり、トランペットの最高音域から硬さが消えるなど、DACの進化も聴き取ることができる。
■楽器が隅々まで鳴り切り爽快なネットワーク再生
ファイル再生ではアンネ=ゾフィー・ムターがジョン・ウィリアムズ作品を演奏した『ドニーブルーク・フェア』(FLAC 96kHz/24bit)を聴くと、SACD 30nの長所がとても分かりやすい。弦楽器群が一斉にはじくピチカートの余韻がホールに広がる様子はパースペクティブが広大で、部屋の壁を取り払ったような開放感がある。
そのあとすぐに弾き始めるムターのソロは弓の圧力の加減とボウイングの速さが分かるほどの生々しさがあるが、力んだ荒い音とは対極の絶妙なコントロールが実感できる。跳躍の大きな旋律だが、どの音域でも楽器が隅々まで鳴り切っていて爽快きわまりない。NASのハイレゾ音源を再生したあと、Amazon Music HDで同じ音源を聴いても、この演奏の躍動感が失われることはなく、重心の低いオーケストラのサウンドを味わうことができた。
音質の次元の高さを確認したあとであらためて振り返ってみると、SACD 30nは現代の聴き手がデジタルプレーヤーに求める条件をもらさず満たしていることに気付いた。普段聴くメディアの種類に左右されず、同じように質感の高いサウンドを楽しめるプレーヤーは意外にも希少な存在なのだ。
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