PRマルチBA+静電と1DD、際立つキャラの違いをチェック
実力派qdcの最新IEM「TIGER」「Dmagic Solo」一斉レビュー!高い完成度に“個性”も光る2機種
ダイナミック1基ならではの低音強めのサウンドが魅力!「Dmagic Solo」を聴く
「Dmagic Solo」は8mm径ダイナミック型ドライバー1基を搭載した、シングルフルレンジ構成のイヤホン。基本中の基本形式だが、qdcとしては初採用だ。そこに独自の音響構造「Dmagic Turbo mirror virtual supercharged acoustics」が組み合わされている。
この音響構造では、ドライバーが収納されている「アクティブキャビティ」の背面から、もうひとつの音響キャビティである「パッシブキャビティ」に接続。ドライバー前面からの音はそのまま耳に放出する一方、後方に発せられる音はパッシブキャビティ内に導く。
【イメージ図】
┌後ドライバー前→ノズル1→┐
↓ 耳
└パッシブキャビ→ノズル2→┘
そしてその音は、パッシブキャビティ内の振動板の作用で強化され、別のノズルから耳に放出される。スピーカーの低音強化機構パッシブラジエーターに近しく思えるが、こちらは低音強化のみではなく、細部描写や空間表現の向上にも役立っているとのこと。
シェルは3Dプリンティングによるもので、フィット感はやはり抜群だ。そして本機も同じくプラグ交換可能なケーブルを採用し、3.5mmシングル、4.4mm/2.5mmバランス駆動に対応する。
こちらはAstell&KernのDAP「A&norma SR25 MKII」と組み合わせてサウンドチェックを実施した。
一聴して、「これぞダイナミック型!」という躍動感に満ち溢れている。低音をしっかりと出しており、その振り切ったサウンドが爽快だ。そもそもqdcにはバランスに優れたBAモデルが揃っている。だから唯一のシングルダイナミックであるこのモデルを、「ダイナミックらしさ」に振った音作りにすることにも納得できる。
低音プッシュの具合も絶妙だ。やりすぎになる限界を見極め、そこから半歩戻ってセーフマージンを確保している。宇多田ヒカル「BADモード」では、「ベースの存在感は大きいけれど、かといって大きすぎるほどではない」といった適度な余裕を感じる。一方で、Robert Glasper Experiment「Human」ではベースのボリューム感たっぷりに表現し、「あと少しで音像が崩れる寸前」と思えるところまで攻めつつギリギリセーフラインに収まっている。この絶妙な見極め方が見事! 低音が中高域に被って邪魔することもなく、ボーカルや他の楽器に耳を向けても満足できる。
ピンポイントで言うと、KORN「Forgotten」との相性の良さは特に印象的。KORNのサウンドは現代的ラウド&ヘヴィだが、このイヤホンで聴くとBlack Sabbathなどの伝統的ヘヴィメタルに通じる、ズッシリとした重み厚みも引き出され、味わい深さが増す。
なお、バランス駆動時には低音はやや引き締められ、音像と音像の間のスペースも少し広くなる。前述のKORNでいえば、現代的ラウド&ヘヴィ側に寄ったサウンドになる印象だ。
「TIGER」と「Dmagic Solo」はその価格帯の違い以上に、qdcの「マルチBA+α系最新鋭イヤホン」と、「ブランド初のダイナミック型シングルイヤホン」としてのキャラクターの違いが大きく際立った2モデルといえる。そのどちらもが現在のブランド力を見せつけ、これからへの期待も高めてくれる出来栄えだ。
さて、「これから」といえば、qdcからは同社イヤホンを完全ワイヤレス化するレシーバー「TWX」も日本上陸予定だという。すでにqdcイヤホンを所有している方にも、新モデルを検討している方にも嬉しい予定といえるだろう。高い実力を誇るqdcの今後の展開にも注目したい。
(協力:アユート)