【特別企画】日本音響設計による新試聴室の音も体験
オーディオ・ノートの新社屋を訪問!ハンドメイドで生み出される真空管アンプの製造現場をレポート
日本を代表するハイエンド・オーディオブランドのひとつであるオーディオ・ノート。真空管アンプを中心に世界中のオーディオファンから注目を集めているが、同社がこの1月、新社屋を完成させた。林 正儀氏が早速新社屋を訪問、製造現場のレポートに加えて、新たな試聴室での音を体験する。
オーディオ・ノートから移転の案内を受けた。14年間、ハイエンドコンポーネントの開発拠点として、「Kagura」「Ginga」「IO-X」など記憶に残る銘機たちを生み出してきた鹿島田工場から、都心からもアクセスのよい溝の口駅近くの新社屋へ。2022年の9月からリフォームに入り2023年1月なかば、待望のお披露目となったのだ。
スペースの確保と事業の拡張、さらに新規事業の展開。そんな思いもあって、今回は広々とした2階建てだ。スペースはまるまる2倍となった。その広さをどう活かすのか。重量物のためのリフトが新しく設置され、2階に移した新試聴ルームは日本音響エンジニアリングが設計施工を担当……。などなど訪問者である私がわくわくする。
繁華な溝の口駅から徒歩で15分ほどのところに新社屋はある。芦澤社長とチーフデザイナーの廣川さんがにこやかに出迎えてくれた。玄関ホールの階段から2階に上がり、そのまま「応接室」へ。広い空間のフリーアクセスフロアだが、創業者である近藤公康氏の写真や、歴代アンプなど馴染みのものがあって落ち着ける。
ここを起点にどう探索しようか。あらかじめ新社屋の構成や見所は聞いておいた。RC構造の総二階だ。うらやましいほどの広さがあり、まず1階はほぼアンプなどの工作スペースだ。基幹技術である昇圧トランス巻や銀コンデンサ、カートリッジを2階に持ってきて、「トランス部」「銀コン部」「カートリッジ部」とした。
さらに業務の流れ上、設計エリアと事務エリアを2階にもってきて、最大の見所・聴き所といえる新試聴室も静かな2階にある。実際にまわりながらゆっくり紹介しよう。
まず2階から。広々としたフリーアクセスフロアの設計開発エリアだ。アンプを中心とした新製品やパーツレベルでの開発や試作も行う。サウンドチューニングも行いやすいように、試聴室と隣り合った位置にある。今後の新製品はここから生まれていくのだ。
同じく2階にある、3大看板である「トランス部」「銀コン部」「カートリッジ部」を見学しよう。精密でホコリを嫌うエリアを一ヵ所に集結。鹿島田からそのまま引っ越してきたものだ。何度も見学しているが、いずれも熟達のプロぞろいで、「トランス部」では年代ものの巻線機を使い、ONGAKUの銀線コイルを入念に巻いていた。
続いて「銀コン部」は、静電シールドされた特殊ルームでの作業だ。銀箔とフィルムがあり、モーターによって回転させ積層してゆく。全神経を集中したデリケートさが要求される高度なジョブだ。まもなくドア付きの新型ルームに変わるという。
「カートリッジ部」で顕微鏡を使い、組まれていたのが高級カートリッジ「IO-X」のMCコイルだ。髪の毛よりも細い銀線である。
新しく設置されたリフトもある。240kgまでOKで、旧試聴室のジェンセン・スピーカーを運び上げたそうだ。アンプなどの重量物運搬で活躍する。
オーブンも設置され、これはコンデンサの湿気を完全に抜くのが目的だ。巻き上がったらオーブンに入れて80度・2時間の処理をする。カートリッジ用ではコイルの和ニスを固めるのに使う。2階と1階(出力トランス用と兼用)にも設置されている。
1階にはオーディオ・ノートのアンプの組み立てを一手に引き受ける若きプロ集団たちがいる。一台一台の精密なハンドメイド。スペシャリストである若い彼らが、高級プリアンプのM7 Heritageを組み立てていたのは感心した。
電源トランス、チョーク、コンデンサ、ケーブルなどパーツ収納場所があり、アンプのストック置き場として使うことも。完成した製品は検査を受け、梱包作業を経て一旦ストックされる。発注を受けて、3ヵ月以内を目標にしているそうだ。
新試聴室に入ると、静かだ。話もしやすく、さすがに日本音響の設計・施工にて正確にルーム音響がコントロールされている。廣川さんによると、63Hzから8kHzの間でほぼフラット、残響時間は0.2秒。すばらしい実測値だ。壁内の施工や柱状拡散型ルームチューニング、AGSによる綿密な調整の効果で、鹿島田の試聴室よりもクセがなく実にニュートラルなバランスと感じられた。
ホリー・コールの「コーリング・ユー」は、陰りのあるムーディなヴォーカルに包まれ、生々しい息づかいも実によい。ヴォイスコントロールや息づかいが抜群。声量たっぷりで音色の幅の広さがさらに引き出され、心情的な濃さが心の扉を開くようだ。Kagura2で聴くジャズは久々だが、往年の名盤を最高の気分で楽しませてくれた。
次に持参の「大学祝典序曲」だ。これはピアニッシモの微細さ、みずみずしさが際立つアンサンブル。奥行よりも広がりが少し強めな傾向だが、そのハーモニーの階層感表現が絶妙で、チェロやコトラバラスが厚く重なりあって押し寄せる。
最後に聴いたのは復刻LPレコード、パールマンのチャイコンだ。この盤をGINGAで聴けたらサイコー。その音は神が舞い降りたように神々しくヒューマンでつややか。第2楽章の消え入るようなビブラートには泣ける。
この新試聴室で検聴し、さらに感動を与えられるオーディオ作品を生み出して欲しいものだ。新たなオーディオ・ノートサウンドに期待しよう。
(提供:オーディオ・ノート)
本記事は『季刊・アナログ vol.79』からの転載です。
事業の拡張と新規事業の展開へ向け、以前の2倍のスペースを確保
オーディオ・ノートから移転の案内を受けた。14年間、ハイエンドコンポーネントの開発拠点として、「Kagura」「Ginga」「IO-X」など記憶に残る銘機たちを生み出してきた鹿島田工場から、都心からもアクセスのよい溝の口駅近くの新社屋へ。2022年の9月からリフォームに入り2023年1月なかば、待望のお披露目となったのだ。
スペースの確保と事業の拡張、さらに新規事業の展開。そんな思いもあって、今回は広々とした2階建てだ。スペースはまるまる2倍となった。その広さをどう活かすのか。重量物のためのリフトが新しく設置され、2階に移した新試聴ルームは日本音響エンジニアリングが設計施工を担当……。などなど訪問者である私がわくわくする。
繁華な溝の口駅から徒歩で15分ほどのところに新社屋はある。芦澤社長とチーフデザイナーの廣川さんがにこやかに出迎えてくれた。玄関ホールの階段から2階に上がり、そのまま「応接室」へ。広い空間のフリーアクセスフロアだが、創業者である近藤公康氏の写真や、歴代アンプなど馴染みのものがあって落ち着ける。
ここを起点にどう探索しようか。あらかじめ新社屋の構成や見所は聞いておいた。RC構造の総二階だ。うらやましいほどの広さがあり、まず1階はほぼアンプなどの工作スペースだ。基幹技術である昇圧トランス巻や銀コンデンサ、カートリッジを2階に持ってきて、「トランス部」「銀コン部」「カートリッジ部」とした。
さらに業務の流れ上、設計エリアと事務エリアを2階にもってきて、最大の見所・聴き所といえる新試聴室も静かな2階にある。実際にまわりながらゆっくり紹介しよう。
2階は設計開発と試聴室、1階が組み立てスペース
まず2階から。広々としたフリーアクセスフロアの設計開発エリアだ。アンプを中心とした新製品やパーツレベルでの開発や試作も行う。サウンドチューニングも行いやすいように、試聴室と隣り合った位置にある。今後の新製品はここから生まれていくのだ。
同じく2階にある、3大看板である「トランス部」「銀コン部」「カートリッジ部」を見学しよう。精密でホコリを嫌うエリアを一ヵ所に集結。鹿島田からそのまま引っ越してきたものだ。何度も見学しているが、いずれも熟達のプロぞろいで、「トランス部」では年代ものの巻線機を使い、ONGAKUの銀線コイルを入念に巻いていた。
続いて「銀コン部」は、静電シールドされた特殊ルームでの作業だ。銀箔とフィルムがあり、モーターによって回転させ積層してゆく。全神経を集中したデリケートさが要求される高度なジョブだ。まもなくドア付きの新型ルームに変わるという。
「カートリッジ部」で顕微鏡を使い、組まれていたのが高級カートリッジ「IO-X」のMCコイルだ。髪の毛よりも細い銀線である。
新しく設置されたリフトもある。240kgまでOKで、旧試聴室のジェンセン・スピーカーを運び上げたそうだ。アンプなどの重量物運搬で活躍する。
オーブンも設置され、これはコンデンサの湿気を完全に抜くのが目的だ。巻き上がったらオーブンに入れて80度・2時間の処理をする。カートリッジ用ではコイルの和ニスを固めるのに使う。2階と1階(出力トランス用と兼用)にも設置されている。
1階にはオーディオ・ノートのアンプの組み立てを一手に引き受ける若きプロ集団たちがいる。一台一台の精密なハンドメイド。スペシャリストである若い彼らが、高級プリアンプのM7 Heritageを組み立てていたのは感心した。
電源トランス、チョーク、コンデンサ、ケーブルなどパーツ収納場所があり、アンプのストック置き場として使うことも。完成した製品は検査を受け、梱包作業を経て一旦ストックされる。発注を受けて、3ヵ月以内を目標にしているそうだ。
新試聴室での音を体験。極めてフラットな環境
新試聴室に入ると、静かだ。話もしやすく、さすがに日本音響の設計・施工にて正確にルーム音響がコントロールされている。廣川さんによると、63Hzから8kHzの間でほぼフラット、残響時間は0.2秒。すばらしい実測値だ。壁内の施工や柱状拡散型ルームチューニング、AGSによる綿密な調整の効果で、鹿島田の試聴室よりもクセがなく実にニュートラルなバランスと感じられた。
ホリー・コールの「コーリング・ユー」は、陰りのあるムーディなヴォーカルに包まれ、生々しい息づかいも実によい。ヴォイスコントロールや息づかいが抜群。声量たっぷりで音色の幅の広さがさらに引き出され、心情的な濃さが心の扉を開くようだ。Kagura2で聴くジャズは久々だが、往年の名盤を最高の気分で楽しませてくれた。
次に持参の「大学祝典序曲」だ。これはピアニッシモの微細さ、みずみずしさが際立つアンサンブル。奥行よりも広がりが少し強めな傾向だが、そのハーモニーの階層感表現が絶妙で、チェロやコトラバラスが厚く重なりあって押し寄せる。
最後に聴いたのは復刻LPレコード、パールマンのチャイコンだ。この盤をGINGAで聴けたらサイコー。その音は神が舞い降りたように神々しくヒューマンでつややか。第2楽章の消え入るようなビブラートには泣ける。
この新試聴室で検聴し、さらに感動を与えられるオーディオ作品を生み出して欲しいものだ。新たなオーディオ・ノートサウンドに期待しよう。
(提供:オーディオ・ノート)
本記事は『季刊・アナログ vol.79』からの転載です。