【特別企画】USB-DACやパワーアンプ直結再生もチェック
ティアック渾身のCDプレーヤー「VRDS-701」。VRDSの歴史、そして最新技術の真髄を追う
ティアックより20年ぶりに発売となったVRDS搭載のCD専用プレーヤー「VRDS-701」。CD再生の高みを目指すVRDSはどのようにして生まれたのか、VRDSの歴史を紐解きながら、2023年だからこそ実現した最新技術の真髄まで、掘り下げてみよう。
日本を代表するハイエンドオーディオ、エソテリックの躍進の原動力が、ティアック・オリジナルのCD/SACDメカニズム「VRDS」であることに異論はないと思う。
VRDSは簡単にいえば、CDと同径のターンテーブルを持ち、クランパーでディスクを圧着させディスク中央でなく面全体を回転させることで反りや偏心を矯正し、振動を抑圧するドライブ機構である。面ブレが発生しないので、レーザーがピットの中央にジャストフォーカスする。そのためサーボ電流量を弱めることができ、音質の向上につながる副次効果も生まれる。最初のVRDS搭載CDプレーヤーがティアック「VRDS-7」(1993年発売)であった。
VRDSを搭載した製品には、ティアックとエソテリックのふたつの流れがある。ティアックの系譜はほとんどがDAC一体型であるのに対して、1987年の「P-1」に始まるエソテリックの系譜はトランスポートが多い。デジタルオーディオはティアックのもう一つの技術の顔である。DACを独立したコンポーネントと考えるのは現在では普通だが、この時点でアナログでメカトロニクスのVRDSと分離して並立させたあたりに、ティアック/エソテリックの先見性がうかがわれる。
二つの流れを対比的に際立たせるもうひとつの特徴に、ティアックはCD専用機であるのに対して、エソテリックは、2003年の「X-01」以降、すべてSACD/CDプレーヤーである。ここにVRDSについての両ブランドの考え方の違いがあらわれている。TASCAMを擁し放送機器、業務機器の実績の厚いティアックにおいては、VRDSの強みは俊敏な動作、安定した音質の担保、再生互換性であるのに対し、エソテリック製品のそれは読み出し精度から生まれるSACD/CDに秘められた情報の妥協のない再現である。
ティアックのVRDSプレーヤーは「VRDS-7」以降、10、25、50といった印象深い製品が生まれたが、エソテリックからはスーパーハイエンドのGrandiosoが生まれ、SACDにも対応する再生機として、VRDSはNEO、ATLASへと進化を遂げて行った。
近年はPC/ネットワークオーディオに軸足を置いたこともあり、ティアックのVRDS搭載CDプレーヤーは、2003年の「VRDS-15」が最後である。しかし、ティアックのVRDSプレーヤーには、ハイブリッドプレーヤーにないCD専用機、ヘヴィーデューティな業務機器の血を引く俊敏なレスポンスの魅力がある。そうして創業70周年の今年、20年振りにティアックのVRDS搭載CDプレーヤーが復活したのである。これから紹介する「VRDS-701」である。
本機に搭載するにあたり、VRDSが新規設計された。ベースとなるプラットフォームはTASCAM製品にも使われる「CD-5020A」だが、CDのドライバーを一から起こしている。モーターのスピンドルやサーボ回路設計もやり直し、80%は新規に生まれ変わった。
開発陣によると、エソテリックと同じ方法論だとメカの構成要素の質量を増して剛性を上げていくことになるが、「それでは面白くない」。エソテリックと別のアプローチで高音質を表現したいと考え、軽量かつ剛性感のあるバランスの高いメカニズムを目標に試行錯誤して開発を進めていったという。
具体例をみていくと、ターンテーブル上のCDと一体化して回転するディスクドライブ、ターンテーブルを支えるブリッジを持つ構造はVRDSそのものだが、トラス(三角形状)が樹脂製で片側だけが固定されもう片側は浮いている。高速回転時のメカの振動がブリッジを伝わり反対側に伝播してメカ全体が共振して読み取り精度を下げないための工夫だが、抑え込むばかりが能でなく、逃す設計だ。
他にもVRDSメカニズム全体をリジッドに固定せず、サブシャーシにセミフローティング状態でマウントし、モーターさらにメカニズムの発生する振動を直接シャーシに伝えない設計になっている。ディスク面に記録されたピット中心にジャストフォーカスし読み取り精度を上げる工夫だ。VRDSイコールリジッド、でなく不要振動は巧みにいなしているあたり、原点回帰した結果生まれた新アプローチといえる。
その一方、デュアルモノラル構成、左右独立の電源整流回路基板、ディスクリートDAC、外部クロック接続等の拡張性等々、近年のエソテリックと技術面で通じる部分が随所にみられる。たとえば、TEACΔΣディスクリートDACを搭載、汎用のチップでないティアック独自のアルゴリズムをプログラムしたFPGAデバイスを使用する。
ディスクをVRDSのトレイにセットし再生スイッチを押すと、スピーディーに装填を開始し、瞬時に読み取り→出音される。CD専用機のよさである。まずは本機の素性を探るため、アンプはアキュフェーズ「C-3900」「A-75」、スピーカーはB&Wの「803 D4」というリファレンスシステムで試聴する。
音質について結論を先にいうと業務機器の血筋を感じさせるソリッドでダイレクト、色付きのない辛口サウンドである。癒し系の美音派ではない。ボブ・ジェームス・トリオの「フィール・ライク・メイキング・ライヴ!」(SACDハイブリッド)は奥行きのある音場に歯切れのいいタイトに引き締まったトリオの演奏をリアルに描写。アコースティックベースはローエンドまでむらなくフラットに出るが、音階が正確な一方描線が太く粘っこさがある。胴鳴りも豊かに描写。
デンマークの歌姫、シーネ・エイがビッグバンドを従えて歌う「ウィーヴ・ジャスト・ビギャン」は、帯域が広い一方ローエンドまで音が痩せず、ノイズフロアが低く、音場の透明度が高く低音の音楽の支えがしっかりしている。色付きや演出誇張がなく、ビッグバンドの多彩な金管楽器の晴れやかな音色、くぐもった音色、光沢感のある音色をありありと描き分ける。
肝心のボーカルは力強く前に出る。聴きやすく手加減はしない。聴き手に媚びる美音演出はない。ディスク再生に関してほぼ完璧なアキュラシー(正確性)を実現した印象だ。ジッターやエラーというデジタルディスクにつきまとう問題をVRDSで制したプレーヤーといえよう。
本機はティアックらしい多彩な調整機構、パラメーターを持つ。アンドラーシュ・シフの「ブラームス、ピアノ協奏曲第一番」(CD)で試してみよう。PCM44.1kHz/16bitの素の再生でも、エイジ・オブ・インライトゥメント・オーケストラの質朴な音の質感、ブラームスの生きていた時代のブリュトナーの芯を感じさせる響きを忠実に伝える。PCMは最大8倍までオーバーサンプリングが可能のため、実際試してみると、帯域が若干広がり強弱のコントラスト感がつく。一方、解像感はそれほど変わらない印象だ。
ここで本機をUSB-DACとして使ってみよう。入力したファイルはHQMの「高橋アキ・プレイズ・エリック・サティ第一集」(FLAC192kHz/24bit)から「ジュ・テ・ヴュ」。
なお、入力はUSB typeC入力端子となっている他、44.1kHz系とは別に48kHz系のクロックも搭載。低位相雑音タイプの水晶発振器となっており、高品位なファイル再生が可能だ。PCM→DSD 1bit変換すると、DSDは倍音成分の伸びを感じさせる。音場感も増す。PCMでアップサンプリングする場合より顕著な変化が楽しめる。
DSDファイル「伊藤栄麻/J.S.バッハ ゴルトベルク変奏曲」(DSD5.6MHz)でDSDローパスフィルターを試してみよう。OFF/FIR1/2があり、OFF→1→2でピアノの響きがシェイプアップされ、共鳴弦の倍音の放射が伸びを増す。
VRDS-701はボリューム機構を内蔵し、プリアンプを使わずパワーアンプ直結が可能だ。ペアをなすパワーアンプが「AP-701」。今度はこの純正組み合わせを試してみよう。Ncoreモジュールで入力から出力までデュアルモノラル構成、VRDS-701との組み合わせで入力から増幅まで一気通貫のフルバランス構成となる。
最適調整されていると思しきパワーアンプを得て音の体幹がよくなるが、ソリッドでダイレクトな辛口音質を堅持、VRDS-701の質感の特徴を引き出すナイスペアであることに異論はない。
今回外部クロックシンクを試さなかったが、他にも使いこなしの範囲が大きく、ティアックらしいユーザーに多くを開放した多機能なプレーヤーだ。魅力はVRDSだけではない。ディスクプレーヤーの最前線を348,000円という常識内の価格で味わえる。オーディオ製品が一様に高額化する只中に登場の本機、今期最大の話題作であることに間違いない。
(提供:ティアック)
ティアック/エソテリックが培ってきたVRDSメカの歴史
日本を代表するハイエンドオーディオ、エソテリックの躍進の原動力が、ティアック・オリジナルのCD/SACDメカニズム「VRDS」であることに異論はないと思う。
VRDSは簡単にいえば、CDと同径のターンテーブルを持ち、クランパーでディスクを圧着させディスク中央でなく面全体を回転させることで反りや偏心を矯正し、振動を抑圧するドライブ機構である。面ブレが発生しないので、レーザーがピットの中央にジャストフォーカスする。そのためサーボ電流量を弱めることができ、音質の向上につながる副次効果も生まれる。最初のVRDS搭載CDプレーヤーがティアック「VRDS-7」(1993年発売)であった。
VRDSを搭載した製品には、ティアックとエソテリックのふたつの流れがある。ティアックの系譜はほとんどがDAC一体型であるのに対して、1987年の「P-1」に始まるエソテリックの系譜はトランスポートが多い。デジタルオーディオはティアックのもう一つの技術の顔である。DACを独立したコンポーネントと考えるのは現在では普通だが、この時点でアナログでメカトロニクスのVRDSと分離して並立させたあたりに、ティアック/エソテリックの先見性がうかがわれる。
二つの流れを対比的に際立たせるもうひとつの特徴に、ティアックはCD専用機であるのに対して、エソテリックは、2003年の「X-01」以降、すべてSACD/CDプレーヤーである。ここにVRDSについての両ブランドの考え方の違いがあらわれている。TASCAMを擁し放送機器、業務機器の実績の厚いティアックにおいては、VRDSの強みは俊敏な動作、安定した音質の担保、再生互換性であるのに対し、エソテリック製品のそれは読み出し精度から生まれるSACD/CDに秘められた情報の妥協のない再現である。
ティアックのVRDSプレーヤーは「VRDS-7」以降、10、25、50といった印象深い製品が生まれたが、エソテリックからはスーパーハイエンドのGrandiosoが生まれ、SACDにも対応する再生機として、VRDSはNEO、ATLASへと進化を遂げて行った。
近年はPC/ネットワークオーディオに軸足を置いたこともあり、ティアックのVRDS搭載CDプレーヤーは、2003年の「VRDS-15」が最後である。しかし、ティアックのVRDSプレーヤーには、ハイブリッドプレーヤーにないCD専用機、ヘヴィーデューティな業務機器の血を引く俊敏なレスポンスの魅力がある。そうして創業70周年の今年、20年振りにティアックのVRDS搭載CDプレーヤーが復活したのである。これから紹介する「VRDS-701」である。
軽量かつ剛性感のあるバランスの高いメカニズムを新規開発
本機に搭載するにあたり、VRDSが新規設計された。ベースとなるプラットフォームはTASCAM製品にも使われる「CD-5020A」だが、CDのドライバーを一から起こしている。モーターのスピンドルやサーボ回路設計もやり直し、80%は新規に生まれ変わった。
開発陣によると、エソテリックと同じ方法論だとメカの構成要素の質量を増して剛性を上げていくことになるが、「それでは面白くない」。エソテリックと別のアプローチで高音質を表現したいと考え、軽量かつ剛性感のあるバランスの高いメカニズムを目標に試行錯誤して開発を進めていったという。
具体例をみていくと、ターンテーブル上のCDと一体化して回転するディスクドライブ、ターンテーブルを支えるブリッジを持つ構造はVRDSそのものだが、トラス(三角形状)が樹脂製で片側だけが固定されもう片側は浮いている。高速回転時のメカの振動がブリッジを伝わり反対側に伝播してメカ全体が共振して読み取り精度を下げないための工夫だが、抑え込むばかりが能でなく、逃す設計だ。
他にもVRDSメカニズム全体をリジッドに固定せず、サブシャーシにセミフローティング状態でマウントし、モーターさらにメカニズムの発生する振動を直接シャーシに伝えない設計になっている。ディスク面に記録されたピット中心にジャストフォーカスし読み取り精度を上げる工夫だ。VRDSイコールリジッド、でなく不要振動は巧みにいなしているあたり、原点回帰した結果生まれた新アプローチといえる。
その一方、デュアルモノラル構成、左右独立の電源整流回路基板、ディスクリートDAC、外部クロック接続等の拡張性等々、近年のエソテリックと技術面で通じる部分が随所にみられる。たとえば、TEACΔΣディスクリートDACを搭載、汎用のチップでないティアック独自のアルゴリズムをプログラムしたFPGAデバイスを使用する。
ソリッドでダイレクト、色付きのない辛口サウンドが魅力
ディスクをVRDSのトレイにセットし再生スイッチを押すと、スピーディーに装填を開始し、瞬時に読み取り→出音される。CD専用機のよさである。まずは本機の素性を探るため、アンプはアキュフェーズ「C-3900」「A-75」、スピーカーはB&Wの「803 D4」というリファレンスシステムで試聴する。
音質について結論を先にいうと業務機器の血筋を感じさせるソリッドでダイレクト、色付きのない辛口サウンドである。癒し系の美音派ではない。ボブ・ジェームス・トリオの「フィール・ライク・メイキング・ライヴ!」(SACDハイブリッド)は奥行きのある音場に歯切れのいいタイトに引き締まったトリオの演奏をリアルに描写。アコースティックベースはローエンドまでむらなくフラットに出るが、音階が正確な一方描線が太く粘っこさがある。胴鳴りも豊かに描写。
デンマークの歌姫、シーネ・エイがビッグバンドを従えて歌う「ウィーヴ・ジャスト・ビギャン」は、帯域が広い一方ローエンドまで音が痩せず、ノイズフロアが低く、音場の透明度が高く低音の音楽の支えがしっかりしている。色付きや演出誇張がなく、ビッグバンドの多彩な金管楽器の晴れやかな音色、くぐもった音色、光沢感のある音色をありありと描き分ける。
肝心のボーカルは力強く前に出る。聴きやすく手加減はしない。聴き手に媚びる美音演出はない。ディスク再生に関してほぼ完璧なアキュラシー(正確性)を実現した印象だ。ジッターやエラーというデジタルディスクにつきまとう問題をVRDSで制したプレーヤーといえよう。
本機はティアックらしい多彩な調整機構、パラメーターを持つ。アンドラーシュ・シフの「ブラームス、ピアノ協奏曲第一番」(CD)で試してみよう。PCM44.1kHz/16bitの素の再生でも、エイジ・オブ・インライトゥメント・オーケストラの質朴な音の質感、ブラームスの生きていた時代のブリュトナーの芯を感じさせる響きを忠実に伝える。PCMは最大8倍までオーバーサンプリングが可能のため、実際試してみると、帯域が若干広がり強弱のコントラスト感がつく。一方、解像感はそれほど変わらない印象だ。
USB-DACとしての音質もチェック。フィルターやアップコン機能も
ここで本機をUSB-DACとして使ってみよう。入力したファイルはHQMの「高橋アキ・プレイズ・エリック・サティ第一集」(FLAC192kHz/24bit)から「ジュ・テ・ヴュ」。
なお、入力はUSB typeC入力端子となっている他、44.1kHz系とは別に48kHz系のクロックも搭載。低位相雑音タイプの水晶発振器となっており、高品位なファイル再生が可能だ。PCM→DSD 1bit変換すると、DSDは倍音成分の伸びを感じさせる。音場感も増す。PCMでアップサンプリングする場合より顕著な変化が楽しめる。
DSDファイル「伊藤栄麻/J.S.バッハ ゴルトベルク変奏曲」(DSD5.6MHz)でDSDローパスフィルターを試してみよう。OFF/FIR1/2があり、OFF→1→2でピアノの響きがシェイプアップされ、共鳴弦の倍音の放射が伸びを増す。
パワーアンプとの直結では、音の体幹がさらにタイトに
VRDS-701はボリューム機構を内蔵し、プリアンプを使わずパワーアンプ直結が可能だ。ペアをなすパワーアンプが「AP-701」。今度はこの純正組み合わせを試してみよう。Ncoreモジュールで入力から出力までデュアルモノラル構成、VRDS-701との組み合わせで入力から増幅まで一気通貫のフルバランス構成となる。
最適調整されていると思しきパワーアンプを得て音の体幹がよくなるが、ソリッドでダイレクトな辛口音質を堅持、VRDS-701の質感の特徴を引き出すナイスペアであることに異論はない。
今回外部クロックシンクを試さなかったが、他にも使いこなしの範囲が大きく、ティアックらしいユーザーに多くを開放した多機能なプレーヤーだ。魅力はVRDSだけではない。ディスクプレーヤーの最前線を348,000円という常識内の価格で味わえる。オーディオ製品が一様に高額化する只中に登場の本機、今期最大の話題作であることに間違いない。
(提供:ティアック)