PR評論家・大橋伸太郎氏がレビュー
弩級セパレートAVアンプ、マランツ「AV10/AMP10」の“完成形”を聴く。「音場の音密度が圧倒的」
■「AVアンプだから、というエクスキューズをしたくない」
一方、AV10では「HDAMをプリアンプのアンプ回路として採用したことがマランツとしてのこだわり」と尾形氏。筐体内部には19枚のHDAMアンプ回路がそそり立っており、「それらが振動で揺さぶられないように、エンジニアと話して全長30cm近くの基板をフレームとして使い、19個のHDAM回路をしっかり固定することができました」と説明する。
また、「プリアンプはアナログアンプなのでメカニカルなアプローチも音に効いてきます。銅メッキシャーシ、銅メッキビスもマランツの伝統的な手法です。ビスも3〜4種類を使い分けています」とのこと。素材の異なるビスを使い分けることで電気的なグランドの流れを整えることが、「音の奥行き、広がり、高さ方向の表現だったり、もしくは音像のフォーカス感みたいな所に効いてくる」という。
そして尾形氏は「AVアンプだから、というエクスキューズをしたくないのです」とコメント。「私がサウンドマネージャーになった6〜7年前は、AVアンプの音質はハイファイアンプより大分落ちるといわれていました。AV10/AMP10でそれを完全になくしたかったのです」と語る。
しかし、「かといってハイファイアンプと同じアプローチなのかというと、セパレーションがLRだけですむハイファイアンプとまた違うものがあります」とも説明。「16chが一筐体に入っている中で、聴感上のSN感をどう表現するかはハイファイアンプに比べると難しい所があります。いい部品を使えばハイファイアンプのようにきれいな空間が生まれるかというとそうでないのです」とし、「ステレオできれいな空間が出なければ、マルチチャンネルでは出ないので、まずステレオで再生していかにハイファイアンプ並のきれいな空間が出せるかを追い込んでいく。それが出来れば他のチャンネルに順々に当てはめていく。そうしてマルチチャンネルで自然ときれいな空間が出てきます」と語る。
■「空気が清澄で音場空間が広々している」「音場の音密度が圧倒的」
ステレオから音作りが始まるという尾形氏の言葉を導き手に、SACDから試聴開始。「フィール・ライク・メイキング・ライヴ!」(ボブ・ジェームス・トリオ)は、音場に散乱するシンバルやタム使いの生々しい響きに息を飲む。ノイズフロアが非常に低く空気が清澄で音場空間が広々している。情報量が豊富で小さな音が鈍らず、常に鮮明に音場に刻まれる。
デンマークの歌姫シーネ・エイがダニッシュ・ビッグバンドを従えた演奏は、広々とした音の情景が眼前に出現。Fレンジ(帯域)の歪みや凹凸、ダイナミックレンジの頭打ち感が感じられず、音場に窮屈さがなくのびやか。サウンドマスターの音作りのテーマ・空間表現が結実した瞬間である。金管は艶やかだが下品なきらびやかさにならずマランツらしい端正なリアリズム。ミュートトランペットソロが生々しい息遣いを感じさせ、顔に汗をひたたらせた奏者がマランツ試聴室中央にすっくと立っている。
聴き手の期待も加速して、ここからサラウンドの視聴へなだれ込む。