<連載>角田郁雄のオーディオSUPREME
音質とデザインがウェル・バランス。音楽に没頭できるイタリアンオーディオの魅力
■イタリアのハイエンドブランド、パトスとチャリオの組み合わせを堪能する
私は、世界のオーディオを探求することが好きです。特にデザインと搭載技術、そして音質がウェル・バランスしていると、そのブランドの歴史や開発ポリシーまでも深く研究したくなります。こうしたなかで、私が今、気にかけているのが、イタリアの製品です。
イタリアのオーディオ製品の中で、日本で一番愛用者の多いブランドは何と言ってもソナス・ファベールやフランコ・セルブリンのスピーカーになるでしょう。真空管アンプで有名なユニゾン・リサーチは、今も長い歴史を刻んでいますが、残念にも日本では現在発売されていません。
そんな状況の中で、私が興味深く思えたブランドがあります。それは、1994年ヴィチェンツァ創業のアンプブランド、Pathos Acoustics(以下:パトス)と、1975年ミラノで創業のスピーカーブランド、Chario Audio(以下:チャリオ)です。この両ブランドのコンビネーションは、まさにイタリアンオーディオと言いたくなるほどの佇まいがあります。オーディオルームだけではなく、リビングでも音楽を楽しみたくなります。
今回は、ハイエンドでありながら比較的リーズナブル・プライスなパトスのプリメインアンプ「Classic One Mk3」とチャリオの2ウェイ・スピーカー「Lynx」(リンクス)の組み合わせを紹介します。
■スチールの本体に天然木を組み合わせた良質なデザイン
まず、パトスのClassic One Mk3から紹介しましよう。同社の技術特徴は、真空管をプリアンプ部に、MOS-FETをパワーアンプ部に使用することです。そして、電源部も特徴で、モデルによって、InPol(インポール)という独自の可変バイアス方式の発展型と推察される電源部(特許取得済)を組み合わせていることが特徴です。Classic One Mk3はInPolは搭載されていません。
実際に本機を観察しましたが、デザインがいいです。フロントには天然木ブロックが配置され、本体は美しいクロームメッキされたスチール製です。ブラックのトッププレートは樹脂製で、レッドのフィルターコンデンサーが全体を引き立てている印象を受けます。前面から真空管、フィルターコンデンサー、パワーブロック・ガード、パワートランスが美しく配置され、スピーカー端子もトッププレートに配置されています。さすがイタリア製ですね。
機能としては、入力としてバランスを1系統、RCAを4系統、テープ出力1系統です。ブリッジ機能でモノラル使用も可能です。出力は70W/8Ω、135W/4Ω、ブリッジ使用で180W/8Ωを出力します。
内部に関しては、本国サイトも参考にしました。入力信号は、6922真空管とバーブラウンの電子ボリュームを組み合わせた、A級バランス型プリアンプ部で増幅され、高音質かつ高精度なオペアンプが電圧増幅段に使われているとのです。その信号は、MOS-FETを使用する無帰還パワーブロック(電力増幅段)で最終増幅される仕組みです。
さらに観察して感じたことがあります。それは、筐体が温まることです。MOS-FETへのアイドル電流も大きいようで、調べた結果、A級増幅領域が広いことが分かりました(本国サイトでは、増幅方式をA/ABと表示)。数値は公表されていませんが、おそらく、10〜15W程度はA級増幅すると推察されますので、一般的な適正音量では、ほとんどA級増幅となるでしょう。この点は大きな魅力です。
また70W出力という点においては、MOS-FETによるシングル・プッシュプル・ドライブではないか、とも想像できます。内部回路は一枚基板で構成されていますが、入力から出力まで最短増幅していることも理解できました。信号伝送ワイヤーには銀線も使っています。電源部にもこだわりがあり、立ち上がりが俊敏な130VACのEI型トランスを採用し、レッドのフィルターコンデンサーは、2本合計で44,000μFです。まさに電源供給能力の高い、ハイグレードな電源部を搭載しています。
■ウォルナットの木目も美しいチャリオの「Lynx」
今回はコンパクトでスタイリッシュなイタリアン・オーディオをテーマとしています。従って、スピーカーには、チャリオのLynxを選びました。実際に目にすると、両サイドのウォルナット無垢材の木目が実に美しいです。その他のキャビネット部分は、マットなブラック仕上げのHDF材(高圧縮木繊維板)です。ある程度、異種素材で振動を抑えながら、天然木による響きの良さを失わないようにしているようです。バスレフポートは底面にあり、リビングのサイドボードに直置きできるように、ラバーフットも装備され、専用スタンドも発売されています。
ユニットとしては、トゥイーターに大口径の38mmソフトドームトゥイーターを使用し、ウーファーとのクロスオーバーを低めの1,500Hzにしています。これは、ウーファーの高域再生の負担を低減し、中音域を充実させるためでしょう。ウーファーは、130mmペーパー配合の振動板です。
使用部材は、ネットワーク回路を含め、全てイタリア製に、こだわっていることも特徴です。スピーカー端子はシングルワイヤーです。全体を見渡すと、この価格とは思えないほど高品位です。
実際に、この組み合わせにより、ヴォーカル曲、室内楽、ジャズトリオ、声楽を伴った管弦楽曲などを再生しましたが、感激するほど、中低域に厚みのあるハイエンドな音を体験しました。音色的にはやや暖色系で、パトスの回路が反映され、直熱3極管アンプで再生しているかのような、豊かで透明度の高い倍音が体験できました。しかも解像度が高く、空間描写性が高いです。
とりわけ、クラウディオ・アバド指揮によるヴェルディの「レクイエム」(エソテリックのSACD)では、静けさを引き立てるS/Nの良さがあり、スケールの大きな合唱とソリストを伴う楽曲では、コンパクトでスタイリッシュな組み合わせからは想像できないほど、ダイナミックレンジの広い演奏が堪能できました。この点は、パトスの無帰還の出力段と電源部の効果と思われます。
バスレフポートによる低音強調感が少ないことも特徴です。しかも、心に浸透するかのような極めて心地良いトーンなので、原稿執筆のための試聴であることを忘れ音楽に没頭してしまうほどでした。決して再生ジャンルを問うわけではありませんが、この音はクラシック・ファンも好むことでしょう。
■「805 D4 Signature」とも組み合わせ。驚くほどリアルな空間描写を再現
この日は、僥倖にもBowers&Wilkins「805 D4 Signature」とClassic One Mk3の組み合わせも体験できました。この音は、まさに最新のスタジオモニターの音そのもの、のように思えました。再生する音源の情報を高解像度で再生し、驚くほどリアルな空間描写を体験しました。奏者のちょっとした演奏上の動きやヴォーカルの声質、ブレスなどもよく再現してくれます。弱音に深みを感じ、倍音も実に豊潤です。この組み合わせもすごく好きです。
最後に、今回はスピーカーケーブルにタイムロードの自社ブランドであるアーキテクチューラ「KEI」を使用しました。このケーブルは、細いですが静電容量が少なく、情報量が多くハイスピードです。これをダブルにした「K2」も発売されており、自宅で使用しています。
今回は、イタリアンオーディオをテーマとしました。パトスとチャリオは、丁重な製作が行われ、実に価格もリーズナブルであることに好印象を受けています。リビングでレコードやハイレゾを楽しみたい方にも推薦したいと思います。この機会に、パトスとチャリオの他のモデルの音に触れて欲しいと思うところです。