PRニュートラルでありながら緻密で濃密な質感を提供
プロ機の哲学を小型サイズで体現。SPLのパワーアンプ「Performer s800」で“音楽の表情”を味わい尽くす
■音楽の表情や空気感を最大限に体感。ブランドのカラーが色濃く表出
実力をテストするために、音元出版試聴室のリファレンスである、アキュフェーズのフラグシップ・プリアンプ「C-3900」と組み合わせて試聴してみる。プレーヤーは同じくアキュフェーズの一体型SACDプレーヤー「DP-770」を使用。スピーカーは、Bowers&Wilkinsの「803 D4」を接続した。
一聴して、スピーディーなレスポンスが飛び出してきた。特に低音域側のスピード感が快速で心地よく引き締められており、とにかく音楽の筆致が素早い。スピーカーの駆動に余裕が感じられ、どのような音楽ソースを再生しても、そこに音楽のエネルギーが渦巻いているかのような、十全な頼もしさを感じるのである。
音色バランスは驚くほど色付けを感じさせない。だが、単純に無個性でソース機器やスピーカーの個性に染まり切るというより、このアンプならではのニュートラルな雰囲気を、しっかりと再生音に残す印象である。これは、他のSPL機器を試聴した際にも感じた印象だ。
同社DACやヘッドホンアンプなど同様に音色はニュートラルではあるのだが、VOLTAiRテクノロジーの恩恵もあってか、緻密で濃密な質感という印象を受ける。パッと聴くと、そのニュートラルさゆえ強い印象はもたらさないのだが、聴きこむほどに、音楽の表情や空気感に引き込まれていく。噛めば噛むほど味が出てくる、そんな持ち味が魅力と感じるのだ。
例えば、ジャズのピアノトリオでは、3つの楽器及び演奏者の存在が、極めてイーブンな力関係で描き出されていく。主役のピアノが目立ちすぎたり、ウッドベースの低音が支配的になったりと、特定の楽器や音域が強調されたりすることなく、本来のバランスで描かれるさまが、実に客観的だ。それぞれの楽器の姿も、これみよがしに明瞭に浮き立たせる描写ではなく、あくまでフラットな視点がある。
だが、ひとたびディテールに着目すると、ともすれば埋もれてしまいがちな些末な情報、例えば細かなブレスや余韻、休符などに、しっかりと触れられる情報量がある。流水のごとくあまりにも自然すぎて見落としてしまいがちな情報が、十全に描き出されているのである。このあたりが、まさに“噛めば噛むほど”と表現した所以である。
■接続機器を選ばない素性の高さ。頼もしさすら覚える高い実力を披露
プリアンプをそのままにプレーヤーをデノン「DNP-2000NE」に変えてみても、やはりしっかりとプレーヤーの個性が描き出される。音像表現がリスナー側へと程よく迫るとともに、ピアノの打鍵やシンバルのヒットなどの軽快かつ硬質なアタック表現といった、ソース機器由来の魅力をしっかり伝えてくれる。そしてやはり、低音域側のスピーディーな描写は健在で、パイプオルガンの深々とした沈み込みが明確な彫り込みで描画される点に、頼もしさを感じ取る。
次に、管球式のプリアンプも接続してみる。Performer s800の入力端子が3ピンXLR端子によるバランス入力のみのため、変則的ではあるが変換プラグを使って同価格帯のプリアンプであるトライオード「EVOLUTION PRE」も接続してみると一転して、管球式アンプならではの質感が楽しめる。
楽器の音色は仄かに色味の彩度が増し明るさがアップして、弾みも生まれる。演奏の情緒が後押しされる印象だ。歌声や楽器にしっとりとした質感が出るのだが、描写は決してベタつかずにクールさがある。このあたりの表現は、まさにこのパワーアンプのキャラクターが活きてくる、引き立っている印象である。
最後にブリッジモードも試してみたが、その効果は十二分だった。とりわけ空間の透明性が格段に向上し、空間表現はより広く、深く描き出される。楽器同士の間合いがより十分となり、描写に余裕がある。さらに、これまでは極めてタイトであった低音域側には、程よい弾力が生み出され、それが音の深みや味わいを増している。これは、再生時の充足感を大いに左右するポイントであろう。2台使いによるブリッジ接続やバイアンプ使用など、より規模の大きなシステムにも積極的に組み込んでいけることが確認できた。
「Performer s800」は、プロフェッショナルブランドを出自とするSPLならではの質実剛健なサウンドを楽しめるパワーアンプである。セパレートアンプシステムによる高いクオリティを求めるユーザーはもちろんのこと、音質は妥協したくないがスペースは最小限に留めたいユーザーにまさに最適なモデルである。冷静沈着なサウンドバランスと高解像な描写力を、質感良いサウンドで楽しみたいユーザーに、うってつけのプロダクトなのである。
(協力:A&Mグループ株式会社)