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PR長年の研究開発の成果を投入

“小型高性能”の代表格、B&W「700シリーズ」実力再検証。上位機に迫る音質の背景とは?

公開日 2024/03/22 09:42 山之内 正
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Bowers & Wilkins(B&W)の名は、日本ではことに特別な響きを持つ。800シリーズを筆頭としたブランドの技術と音質の評価は高く、音質にこだわるオーディオファンはもちろん、レコーディングスタジオやオーディオメーカー試聴室にも多く導入されるなど、まさに「リファレンス」と呼ばれるにふさわしい信頼を勝ち得ている。


B&Wの現在の主力製品としては、トップモデルの「800 D4シリーズ」、その下に「700 S3シリーズ」と「600 S3シリーズ」を擁する。素材や構造など徹底した研究開発を重ね、その成果を800シリーズに投入。そこから数年かけて下位グレードにも徐々に展開を広げていく、というのがここ数年の大きな流れとなっている。

「700」と「600」系はどのような思いのもとに開発されているのか。日本市場でB&Wの存在感を高めた立役者とも言えるD&Mシニアサウンドマスターの澤田龍一さんに話を聞きながら、シリーズの製品の歴史と現在の到達点について掘り下げていく。まずは、2006年に登場した「CM1」に端を発する「700シリーズ」から紐解いていこう。

Bowers & Wilkinsの「700 S3」シリーズ。左から702、703、704、705、706、707の6モデルとセンタースピーカーが用意されている。702、703、705はB&Wを象徴する「トゥイーター・オン・トップ」となっている

700シリーズの源流となった大ヒットブックシェルフ「CM1」



Bowers & Wilkins(B&W)の800シリーズは、スタジオ用途だけでなく家庭用スピーカーの分野でもベンチマークとされ、不動の地位を築いている。ハイファイスピーカーの基準として他社が意識するだけでなく、B&W自身もスピーカー開発の目標に800シリーズを掲げ、フラグシップとの距離を縮めることに余念がない。

たとえば800に一番近い存在の700シリーズ。付かず離れずの絶妙な関係を保ちつつ800シリーズとともに進化を重ねてきた。その歴史を、B&Wを熟知するD&Mシニアサウンドマスターの澤田龍一さんに語っていただこう。

D&M シニアサウンドマスターの澤田龍一さん。B&Wを国内に広めた立役者のひとり

「800シリーズの歴史は1979年に遡ります。1980年代に向けて一番良いスピーカーを作ろうと開発に3年かけ、最初の801を完成させました。家庭用スピーカーからスタートしたB&W社が、スタジオモニターでステータスの獲得を狙ったんです。実際にアビーロードスタジオなどに納入されて、イギリス、ヨーロッパ、そして世界と規模を拡大し、801、801F、Matrix801S2、Matrix801S3と進化を重ねながらスタジオモニターの地位を約20年間キープし続けました。

その800シリーズの設計思想を家庭用スピーカーにアレンジしたのがCDMシリーズです。1995年以降、バリエーションを広げて展開していました。その後、2006年にはコンパクトなCM1が登場します。現在までB&Wのサウンドマスターとして活躍しているスティーブ・ピアースが開発責任者として最初に手がけたのがCM1でした。

2006年登場した2ウェイスピーカー「CM1」が現在の700シリーズの源流にあたる。当時の価格で121,000円。イエローのケブラーコーンも大きな特徴であった

そのCM1が異例のヒット作となり、数年間かけてCMシリーズとしてラインナップが充実しました。そのCMシリーズがCM S2を経て、2017年に700シリーズ2(S2)に変わり、さらに2022年に現在の700 S3が誕生しました。ちなみに最初の700シリーズは、CDM-NTシリーズの後継として2003年に登場しています」。

2017年に登場した「700 S2シリーズ」。CM時代とは逆に「一桁の数字が小さいほどグレードが上」に変更された

CM1が登場したときの衝撃は筆者もよく憶えている。コンパクトな2ウェイスピーカーとは思えないスケールの大きな表現力は上位機種を脅かすほどのインパクトがあり、実際に10万台超の大ヒットとなった。CMシリーズの成功は新しい700シリーズ(700S2)を生む原動力となるのだ。

ところで、CM1を導入した時期は、B&Wにとって重要な転換点だったという。この事実は記憶にとどめておきたい。

「CM1が誕生する直前の2005年には、ダイヤモンドトゥイーターを搭載した800 Dシリーズが誕生しました。技術的に大きな転換点を迎えた時期で、トゥイーターのクロスオーバーネットワークの減衰スロープもそれ以前の18dB/octからすべて6dB/octに変わり、回路設計がシンプルになりました。その変更はもちろんCM1にも受け継がれています」(澤田さん)。

「800シリーズ」で培われた技術を700にも投入



700シリーズがS2となって再登場した2010年代半ばは、もう一つの重要な転換点として記憶に新しい。ミッドウーファーとミッドレンジの振動板を従来の黄色いケブラーコーンから銀色のコンティニュアムコーンに変更したのだ。これも直前に登場した800 D3シリーズから受け継いだ新技術で、旋律楽器の澄んだ音色など、劇的な音の変化に驚いた記憶がある。

2016年に登場した「800 D3」。それまでのケブラーコーンから、シルバーのコンティニュアムコーンに全面刷新された。素材の基礎開発に時間をかけるB&Wならではの革新である

「B&Wは3ウェイスピーカーのミッドレンジにハード系の振動板を使いません。広い帯域をカバーできないことがその理由で、ケブラーもしなやかな素材でした。そして、次のステップを目指すためにハード系素材も含めていろいろ研究した末に、再び柔らかいコンティニュアムコーンを採用したんです。ケブラーは立ち上がりが早いけど、コンティニュアムはそれに加えて立ち下がりも早いんです。測定器が進化して従来は解析できなかった歪や振動モードが見えるようになったことが、新しい振動板素材の開発につながったことも重要です」(澤田さん)。

そして、最新世代の700 S3。そのフロア型モデルに採用したミッドレンジは「バイオミメティック・サスペンション」を800 D4シリーズから受け継いでいる。

700 S3シリーズのミッドレンジに搭載される「バイオミメティック・サスペンション」。ユニットの背後から出る不要振動をコントロールする役割を果たしている

「B&Wは振動板以外からはなるべく音を出さないようにしたいと考えています。特にサスペンション(ダンパー)の不要振動は振動板を透過して聴こえてしまうので、影響が大きいんです。できるだけ細くスカスカな構造にした方が良いことはわかっていても、それを実現する素材がなかなか見つかりませんでした。7年ほどかけて採用したのがバイオミメティック・サスペンションなのです」(澤田さん)。

見かけは細く頼りないが、十分な強度と耐久性があり、なによりも付帯音を劇的に低減する効果が大きい。しかし、このバイオミメティック・サスペンションを採用したドライバーの性能を活かすためには、共振しにくいキャビネットと組み合わせる必要があるという。

700 S3シリーズの構成パーツ(スピーカーのグレードによって採用されるもの、されないものがある)。奥に見えるのはネットワーク回路

「600シリーズではキャビネットの強度が足りず、載せられません。700シリーズも難しいと思っていたんですが、前面を曲面構造にしたことでキャビネットの剛性が上がり、ユニットと箱のバランスがとれたのだと思います。いくら優れた技術でも、上位機種から流用すればいいというわけではない。その良い例の一つだと思います」(澤田さん)。

フロントバッフルをわずかに曲面とすることで強度を高め全体のバランスをとっているのではないか、と澤田氏は語る

弱音の美しさに息を呑む 「705 S3」



CM世代を含め、700シリーズが上位の800シリーズから重要な技術を受け継ぎ、本質的な音質改善を重ねてきた歴史が理解できたところで、実際に現行機種の音を聴いてみることにした。

今回はトゥイーター・オン・トップ型のブックシェルフスピーカー705 S3とフロア型スピーカーの702 S3を筆者の試聴室に持ち込み、リファレンスシステムにつないで鳴らす。今回試聴した2機種以外にも同シリーズにはフロア型2機種(703 S3/704 S3)、ブックシェルフ型2機種(706 S3/707 S3)を加えて計6機種が揃う。選択肢が非常に広いことも700 S3シリーズの特筆すべき点の一つだ。

トゥイーター・オン・トップを擁するブックシェルフのトップモデル「705 S3」(539,000円/ペア/モカ/税込)。スタンドは専用の「FS-700 S3」(125,400円/ペア/税込)

705 S3で聴いたペルゴレージ「スターバト・マーテル」は、弱音の息を呑む美しさに時間が経つのを忘れてしまう。男声ソプラノとカウンターテナーの二重唱が生む柔らかく、特別な緊張をたたえたハーモニーはこの世のものとは思えない美しさがあり、オルガンをはじめとする通奏低音の陰影の深い描写にも耳が釘付けになった。外観も805 D4を彷彿とさせるが、音はそれ以上にフラグシップ機との距離の近さを強く印象付ける。声も弦楽器も鍵盤楽器も、どれも質感の高さは半端ではないのだ。

「705 S3」。ブックシェルフモデルにもフロア型と同じチューブ状のトゥイーターを搭載する

トリオ・ツィンマーマンによる弦楽三重奏版のゴルトベルク変奏曲では、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの各声部の関係がよく見えることに気付いた。チェンバロやピアノの独奏では気付きにくいような各声部の関係が鮮明に浮かび上がり、繰り返し聴いてもそのたびに新しい発見が生まれるような面白さがあふれている。

ここまで細部がよく見えると、その反動でテンションの高い音に傾く心配があるかもしれないが、実際はそれとは逆で、3本の弦楽器が溶け合う響きはウォームで厚く、余韻との一体感もある。聴き手に過度な緊張を強いるような音とは対極のサウンドなのに、微妙な表情や音色の違いが細かく聴き取れることに重要な意味があるのだ。

表情が濃密なことはリッキー・リー・ジョーンズのアコースティックなライヴ録音からも伝わってくる。「ヤング・ブラッド」のギターと声が完璧なタイミングでシンクロし、相乗効果で音圧がグッと上がる。その振幅の大きさから、リッキー・リーと聴き手の間の介在物をすべて取り去ったような生々しさが伝わり、実際にライヴ会場で聴いているような臨場感が実感できる。

演奏との距離の近さは800 D4シリーズに肉薄すると言っていい。最新の700シリーズが800に近付いたという声をよく聞くが、実際に705 S3の音を聴けば、その意味がよくわかるはずだ。

スケールの大きなオーケストラも見事に再現 「702 S3」



705 S3に続き、シリーズ最上位の702 S3を聴く。16.5cmウーファー3基+コンティニュアム・ミッドレンジとカーボンドーム・トゥイーターの組み合わせはシリーズ最強の構成で、バスレフポートはダウンファイアリング方式を採用。背が高く、立派なたたずまいで、20畳の試聴室に設置しても抜群の存在感を発揮する。

シリーズ最上位の「702 S3」(1,089,000円/ペア/モカ/税込)。パワーアンプはアキュフェーズの「A-75」

オーケストラはさすがにスケールが大きい。バルトーク「管弦楽のための協奏曲」は湧き出すような低音楽器のエネルギーが部屋に行き渡り、身体を心地よく包み込むが、ティンパニもコントラバスも一音一音に明瞭な芯があり、立ち上がりがまったく遅れないので過剰感はいっさいない。一体感とスピード感のある良質な低音である。ヴァイオリンや木管楽器がめまぐるしく動き回る旋律の音域はゴソゴソとした余分な音を引きずらず、空間的にも時間的にも混濁がないことに感心した。

「702 S3」。地震対策もあり、専用ベースの装着が必須となる

ギター伴奏だけで歌うリッキー・リー・ジョーンズのヴォーカルは最高音域まで声が澄み切っている。それを聴くだけでもこのスピーカーを選ぶ意味があると思わせるほどで、耳障りな付帯音やなにかが共振しているような雑味がまったく感じられない。そこまでの澄んだ感触は800D4シリーズでなければ得られないと考えがちだが、それが思い込みであることに気付く。ギターが刻むリズムの軽さと切れの良さも格別で、マイクやアンプの存在すら消えるほどのダイレクト感がある。

ピアノとオーケストラ伴奏でソプラノが歌うモーツァルトのアリアは、声そのものの美しさに加えて、ステージ上方に浮かぶ余韻の浮遊感やホールトーンの柔らかい感触が実に心地よく、いつまでもこの響きに浸っていたくなるような魅力をたたえている。ピアノ、声、弦楽器が柔らかく溶け合うのは、各楽器の音色を正確に描き分けることと深い関係がある。演奏会場でなければ経験できないような濁りのない澄んだハーモニー。それが音楽再生でいかに重要な意味を持つか、よく理解できるのだ。

背面端子はバイワイヤリングに対応で、横一列に配置されている

コンティニュアムコーンやバイオミメティック・サスペンションは、長い年月をかけて素材レベルの研究を重ねた結果、実用化に至ったという。705 S3と702 S3の透明感の高い音を体験し、そこまで手間をかけても採用にこだわった理由がよく理解できた気がする。

カラーバリエーションは左からローズナット、ホワイト、グロスブラック、モカの4種類

(提供:ディーアンドエムホールディングス)

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