シリーズ4機種を山之内 正が徹底試聴
【レビュー】B&W 800 D3シリーズは「スピーカーが消える」境地にどこまで近付いたか?
B&W「800 D3」のステレオスピーカー4機種を山之内正氏がレビュー。各モデルの特性を分析しながら、800 D3シリーズで更新されたスピーカー再生の最前線を検証していく。
■「スピーカーの存在が消えるような自然な音」という理想
スピーカーの存在が消えるような自然な音。それがスピーカーの理想と考える人は少なくないと思う。実は筆者もその一人で、これまでもその理想を意識しながらスピーカーを選んできた。
どんな瞬間にスピーカーの存在が消えたと感じるかというと、箱に音が張り付かない立体的な音場、付帯音のないナチュラルな音色、そしてにじみのない自然な音像など、現実の楽器や声の鳴り方に近い音を体験したときだ。ひとことで言えば立体的で色付けのない音ということだが、それを高い次元で実現することがスピーカー開発においてどれほど難しい課題か、あらためて指摘するまでもないだろう。振動板の固有音やキャビネットの共振が音に色付けを加え、位相の乱れによって空間描写が曖昧になる。有害な歪みやリンギングを減らすことと合わせ、スピーカー開発陣が克服すべき課題はまだたくさん残っているのだ。
英国のB&Wは、そうした難題の解決に積極的に取り組み、着実な成果を上げてきたブランドの代表格だ。なかでも頂点に位置する800シリーズは最先端技術と入念な作り込みによって、基本性能の底上げを牽引してきたと言っていい。
そして、その800シリーズが約8年間に及ぶ長い開発期間を経てリニューアルされ、昨年秋に800 D3シリーズとして生まれ変わったのはご存知の通り。先端を切り開いてきた同シリーズの最新モデルは、果たしてどこまでの音質改善を果たしたのか、ブックシェルフ型の805 D3からフロア型3ウェイの802 D3まで、4機種を一気に試聴した結果をまとめて紹介することにしよう。
ところで、これまでの800 Diamondシリーズは、どちらかというと存在を強く主張する音というイメージがある。いわゆるモニター調のシャープなサウンドと言ってもいい。だが、今回はあえて「スピーカーの存在が消える」境地にどこまで近付いたのかという視点から聴いてみたいと思う。色付けがなく、ハードウェアの介在を感じさせないという意味で、スピーカーの存在が消えることを期待して試聴に臨んだ。
■ブックシェルフ型「805 D3」
新開発のコンティニウムコーン・ユニットとダイアモンドトゥイーターを組み合わせた805 D3は、シリーズ唯一のブックシェルフ型モデルで、フロア型でミッドレンジとして使っているユニットがウーファー帯域も受け持つ点は従来と同様だ。コンティニウムコーンの素性が浮き彫りになる2ウェイ構成という点に加え、内部パネルの厚さを2倍に増やしたマトリックス構造やソリッドなトゥイーターハウジングなど、新たに投入された基幹技術の効果にも期待が募る。
805 D3の再生音は伸びやかに広がる音場を前作から受け継ぎながら、特に低音から中低音にかけてモヤモヤとした部分が一掃され、さらに見通しが良くなっている。以前は小型スピーカーとしては余裕のある量感と引き換えに低音の解像度と質感が若干犠牲になる傾向があったが、805 D3は反応の良さで実体感のある低音を引き出しつつ、質感は1ランク上の水準に上がった。パーカッションはバスドラムも含めて打点が明瞭になり、余分な音を引きずらずに素直に音が消える。オーケストラはコントラバスとティンパニの音が回り込むことがなく、旋律楽器が自然に前に出てくるようになった。
フロントバッフルを曲面仕上げに変更して回折を抑えた効果だと思うが、独奏楽器やヴォーカルの音像からにじみが消えていることも大きな改善ポイント。さらに、ピアノを前作と聴き比べると、レガートがもたつかず、低音部の立ち上がりが速くなっていることに気付くはずだ。
コンティニウムコーンの俊敏なレスポンスは、ピアノだけでなく、ほとんどすべての楽器で威力を発揮する。楽器ごとの発音の違いを正確に再現することで、音像定位の精度が上がり、前後左右に立体的なサウンドステージが展開することも見逃せない。まさにスピーカーに音が張り付かない鳴り方に近く、目を閉じて聴くとスピーカーのサイズを忘れてしまうほど広々とした空間が広がる。
■「スピーカーの存在が消えるような自然な音」という理想
スピーカーの存在が消えるような自然な音。それがスピーカーの理想と考える人は少なくないと思う。実は筆者もその一人で、これまでもその理想を意識しながらスピーカーを選んできた。
どんな瞬間にスピーカーの存在が消えたと感じるかというと、箱に音が張り付かない立体的な音場、付帯音のないナチュラルな音色、そしてにじみのない自然な音像など、現実の楽器や声の鳴り方に近い音を体験したときだ。ひとことで言えば立体的で色付けのない音ということだが、それを高い次元で実現することがスピーカー開発においてどれほど難しい課題か、あらためて指摘するまでもないだろう。振動板の固有音やキャビネットの共振が音に色付けを加え、位相の乱れによって空間描写が曖昧になる。有害な歪みやリンギングを減らすことと合わせ、スピーカー開発陣が克服すべき課題はまだたくさん残っているのだ。
英国のB&Wは、そうした難題の解決に積極的に取り組み、着実な成果を上げてきたブランドの代表格だ。なかでも頂点に位置する800シリーズは最先端技術と入念な作り込みによって、基本性能の底上げを牽引してきたと言っていい。
そして、その800シリーズが約8年間に及ぶ長い開発期間を経てリニューアルされ、昨年秋に800 D3シリーズとして生まれ変わったのはご存知の通り。先端を切り開いてきた同シリーズの最新モデルは、果たしてどこまでの音質改善を果たしたのか、ブックシェルフ型の805 D3からフロア型3ウェイの802 D3まで、4機種を一気に試聴した結果をまとめて紹介することにしよう。
ところで、これまでの800 Diamondシリーズは、どちらかというと存在を強く主張する音というイメージがある。いわゆるモニター調のシャープなサウンドと言ってもいい。だが、今回はあえて「スピーカーの存在が消える」境地にどこまで近付いたのかという視点から聴いてみたいと思う。色付けがなく、ハードウェアの介在を感じさせないという意味で、スピーカーの存在が消えることを期待して試聴に臨んだ。
■ブックシェルフ型「805 D3」
新開発のコンティニウムコーン・ユニットとダイアモンドトゥイーターを組み合わせた805 D3は、シリーズ唯一のブックシェルフ型モデルで、フロア型でミッドレンジとして使っているユニットがウーファー帯域も受け持つ点は従来と同様だ。コンティニウムコーンの素性が浮き彫りになる2ウェイ構成という点に加え、内部パネルの厚さを2倍に増やしたマトリックス構造やソリッドなトゥイーターハウジングなど、新たに投入された基幹技術の効果にも期待が募る。
805 D3の再生音は伸びやかに広がる音場を前作から受け継ぎながら、特に低音から中低音にかけてモヤモヤとした部分が一掃され、さらに見通しが良くなっている。以前は小型スピーカーとしては余裕のある量感と引き換えに低音の解像度と質感が若干犠牲になる傾向があったが、805 D3は反応の良さで実体感のある低音を引き出しつつ、質感は1ランク上の水準に上がった。パーカッションはバスドラムも含めて打点が明瞭になり、余分な音を引きずらずに素直に音が消える。オーケストラはコントラバスとティンパニの音が回り込むことがなく、旋律楽器が自然に前に出てくるようになった。
フロントバッフルを曲面仕上げに変更して回折を抑えた効果だと思うが、独奏楽器やヴォーカルの音像からにじみが消えていることも大きな改善ポイント。さらに、ピアノを前作と聴き比べると、レガートがもたつかず、低音部の立ち上がりが速くなっていることに気付くはずだ。
コンティニウムコーンの俊敏なレスポンスは、ピアノだけでなく、ほとんどすべての楽器で威力を発揮する。楽器ごとの発音の違いを正確に再現することで、音像定位の精度が上がり、前後左右に立体的なサウンドステージが展開することも見逃せない。まさにスピーカーに音が張り付かない鳴り方に近く、目を閉じて聴くとスピーカーのサイズを忘れてしまうほど広々とした空間が広がる。