PR2024年内での生産終了を前に振り返る
4年経っても色褪せない価値がある。改めて識りたい、デノン周年機「A110シリーズ」の魅力
■応答性の良さと立体的な空間描写。4年経っても色褪せない価値がある
DCD-A110とPMA-A110のペアにB&Wの「802 D4」を組み合わせ、A110シリーズの再生音をあらためて確認する。ディスク再生時はDCD-A110のピュアダイレクトモードをオンにし、PMA-A110はアナログモード2を選んでいる。
じっくり聴くのは久しぶりだが、最初に聴いたときの印象はいまもはっきり憶えている。特に、一音一音の鮮明なアタックと切れの良いリズムなど時間的な応答性の良さと、奥行きを感じさせる立体的な空間描写に強い印象を受けた記憶がある。
サヴァールのベートーヴェン《英雄》を聴くと、切れの良いリズムで演奏が展開し、4年前の記憶が間違っていなかったことを確認した。どの楽器も音が立ち上がる瞬間のエネルギーが大きく、前に進む推進力を際立たせるので、第1楽章のアグレッシブな運動性が見事に浮かび上がってくるのだ。
発音の勢いを強調したりエッジを利かせることはないので、フォルテやフォルティッシモで弾くヴァイオリンが刺激的な硬い音になることは一切ないのだが、細かい音符の粒立ちはクリアで一音一音の分離が良い。
動的な解像度が高いという表現が適切だと思うのだが、それはアタックだけでなく音が消える瞬間にも当てはまる。残響が長めの録音なのにティンパニも含めて余分な音が残らず、低弦も含めて動きの速さを忠実に引き出してくるのだ。
特にSACD層で聴くティンパニの低音の質感の高さと切れの良さは格別で、この演奏の最大の聴きどころを強く実感した。ステージに並ぶ楽器群の位置関係を正確に再現する空間描写の精度も非常に高い。
アークブラスのCDを聴くと、それぞれ音色の異なる金管楽器同士が生み出すハーモニーの柔らかさと厚みを堪能することができた。倍音の音域まで微細な情報を忠実に伝え、各楽器の音色を正確に再現しないと、ここまで柔らかい和音にはならない。最低音域を受け持つテューバもそうだが、基音から倍音まで偏りなく再現することで、柔らかく深みのある低音が生まれるのだ。
直接音と残響が空中で柔らかく溶け合う描写にも同じことが言える。余韻が消える瞬間まで質感をキープしないと、ホール空間の大きさまで感じさせる豊かな広がりを聴き取るのが難しくなってしまうのだが、A110のペアと802 D4が再現する音場は前後左右すべての方向に伸びやかな距離感を感じさせ、特にスピーカーのはるか後方に広がるテューバの深々とした低音の響きには感心させられた。
リッキー・リー・ジョーンの「ネイキッド・ソングス」でも聴衆の反応から演奏会場の広さや遠近感がリアルに伝わってきて、その場に居合わせたような臨場感を味わうことができた。このアルバムでは、ヴォーカルの立体的な音像表現とギターの澄んだ音色を見事に引き出し、くもりのない澄み切った音色と音場の見通しの良さを強く印象付ける。
ギターは低音弦から高音弦まで発音のタイミングが正確に揃い、空気を一瞬で動かす勢いが半端ではない。動と静の対比も実に鮮やかで、弾き切った後に訪れる一瞬の静寂の描写は第一級。音が消えた後もテンションの高さが持続し、演奏の流れが停滞しないのだ。
トリオ・ツィンマーマンが弦楽三重奏で演奏したバッハのゴルトベルク変奏曲では、それぞれの楽器イメージにフォーカスがぴたりと合って、弓の速さや奏者の身体の動きが目の前に浮かんでくる。このリアルな描写は802 D4の長所の一つなのだが、プレーヤーとアンプが付帯音を乗せず、演奏と録音の特徴を正確に伝えるからこそ、ここまでの立体感を実感することができるのだ。
802 D4にミドルクラスのコンポーネントでは役不足かと最初は心配したが、スピーカーの長所を確実に引き出すだけでなく、チェロの重厚な低音も十分にコントロールが効いている。オーケストラもそうだが、鳴りっぷりの良さは意外なほどで、さらに余裕がある印象を受けた。
A110シリーズは、基本性能だけでなく音楽的な表現力でも最新鋭の製品と変わらぬ実力がそなわる。ミドルクラスとハイエンドの間に位置する重要なコンポーネントという印象は4年前と同じで、いまもその価値は色褪せていないと感じた。
PMA-A110のトランジェントの良い再生音は次世代につながる新しさがあり、DCD-A110はSACDの真価を活かせる環境を末長く確保しておきたい音楽ファンにお薦めできる。デノンの伝統を次につなぐ未来志向の設計思想をあらためて実感することができた。
(協力:ディーアンドエムホールディングス)