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PR50周年記念モデル第2弾は、約30年ぶりのMCカートリッジ

“アナログブランド” としての矜持が光る。サエクのMCカートリッジ「XC-11」の卓越した表現を聴く

公開日 2024/10/01 06:30 小原由夫
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ブランド創業50周年を迎えたSAEC(サエク)が送り出す記念モデル第2弾は、約30年ぶりとなるMCカートリッジ「XC-11」。型番名は当時の名を引き継ぎつつも、構造やパーツは完全に新規設計、21世紀のアナログ再生にふさわしい高度な技術が盛り込まれている。“アナログブランド”として捲土重来を図る最新カートリッジの実力を、小原由夫氏が解説する。

SAEC MCカートリッジ「XC-11」(価格:528,000円/税込)

発電コイルにPC-Triple Cを採用、発電効率も向上させた最新鋭機



近年のサエクコマースは、その起点といえるアナログ関連機器の充実を図っており、いわば原点回帰によってブランドのアイデンティティをより強固にする方針が垣間見える。それにはダブルナイフエッジの軸受け構造を復活させたトーンアームの復刻モデル「WE-4700」の成功が大きかった。

その成果が今般のMCカートリッジ「XC-11」開発のフックになったのは明白である。

さて、創業50周年の第2弾モデルとなるXC-11の画期的な点その1は、発電コイルに世界で初めてPC-Triple C導体を採用したこと。 画期的なのはそれだけでなく、一般的なMC型に見られる発電コイル前後をヨークとマグネットで挟んだ磁気回路構成でなく、ネオジウムマグネットが形成する磁界中にコイルを組み込んだリングマグネット方式を採り入れたことも見逃せない特徴だ。

この構造によって発電効率を高くすることができ、コイルの巻き数を極限まで減らすことで、ローインピーダンスを実現しながら必要な出力電圧が担保できた。ローインピーダンスはエネルギー伝送の点で理に適っているし、巻き線の低減は振動系の軽量化に直結する。しかもXC-11はPC Triple Cという音響用に開発された高純度銅線を採用しているのだから、そのパフォーマンスは推して知るべしというわけだ。

カンチレバーは無垢ボロン、スタイラスは無垢ダイヤモンドのラインコンタクト形状。ボディは超々ジュラルミン製で、金メッキ仕上げのリン青銅ターミナルピンを採用する。型番やデザインから察するに、同社の初代カートリッジ「XC-10」のリバイバル的意味合いもあるが、どの角度から見ても最新のカートリッジ仕様、最新のアナログのニーズにフィットしたアップデートが図られているのがわかる。

XC-11の端子部

今回の試聴に当たり、同時発表の切削加工のアルミ合金製/アルマイト仕上げのヘッドシェル「SHS-5」(同社のロングセラー品でもあ るPC-Triple C採用のシェルリード線SR-500が付属)を用意した。プレーヤーはラックスマンの「PD-171A」、フォノイコライザーアンプはアキュフェーズ「C-47」である。

SAECのヘッドシェル「SHS-5」(30,800円/税込)に装着して試聴する

リード線にはPC-Triple Cが採用されている

情報量が多く、深い奥行きと広大な見晴らしを実現する



本機を試聴するのは今回で通算3回目となるが、いつも感心させられるのは、情報量の多さと音場感再現の卓抜さだ。一般的に解像度が高い場合、印象として硬質な質感再現が先行することが多いのだが、XC-11はそんな 素振りは一切ない。

ラックスマンのアナログプレーヤー「PD-171A」と組み合わせて試聴する

さらに高解像度な音は、にじり寄ったオンマイク的表現に陥りやすいものだが、XC-11が再現するステレオイメージは、奥行きが実に深く、立体感と見晴らしが広大なのだ。つまり本機は、音像・音場の描写性のバランスが実にいい塩梅なのである。

メル・トゥーメとジョージ・シアリングのライヴ盤では、しっとりとして瑞々しい声の質感がいい。音像フォルムには厚みがあり、定位も克明。ピアノの響き・音色はナチュラルで、ライブ会場の立体感、特に奥行きがワイドに広がって聴こえる。

ショーティー・ロジャースのスモールコンボの演奏では、ソロ楽器の迫り出し具合と、そのやや後ろに陣取るアンサンブルの距離感が明確に感じ取れた。軽快にビートを刻むリズムセクションの中で、シンバル・レガートのクリアネスと鮮明さが印象に残る。

ジュラルミンボディによるシックなシルバー仕上げも美しい

「レスピーギ/ローマの松」は、大植英次の指揮、ミネソタ管によるReference Records盤を再生。第一楽章「ボルゲーゼ荘の松」の華やかで鮮やかなオーケストレーションに感激。煌びやかで抑揚があり、とても躍動的な演奏に感じられた。他方、第二楽章の「カタコンブの松」では、一転して厳粛で宗教的なムードが横溢する。ローエンドの振る舞いは超安定し、ピラミッドバランスの重心が揺るぎない。パイプオルガンの朗々とした響きでもまったく崩れず、ビリつかない点は、カートリッジの巧みな基本設計の現われだろう。

世界的なアナログ復権を受けて、グローバルなカートリッジ市場がたいへん賑わっている昨今だ。その一方では、価格の高騰も著しく、100万円を超えるMCカートリッジはざらである。そうした中で勝負していく本機XC-11も決して安価なモデルではないが、高過ぎるという印象もない。私は、本機の音質・音色のバランスのよさに多くのアナログ・フリークが気付いてくれることを願っている。

(提供:サエクコマース)

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