【特別企画】既存アームも生かせるアームレスモデル
ラックスマンの最上位アナログプレーヤーを評論家・山之内 正が自宅に導入。最新鋭機の魅力とは?
アナログプレーヤーを新調し、レコード三昧の正月を過ごす
年末に購入したラックスマンのアナログプレーヤー「PD-191AL」が絶好調だ。とても良い音を奏でてくれるので、今年の正月はLPレコードをたくさん聴き、ゆったり過ごすことができた。
PD-191ALは1年ほど前に発売されたPD-191Aのアームレス仕様で、トーンアームとアームベースが付属しないことを除けば、中身はオリジナルと変わらない。あえてアームレス仕様を選んだのはなぜか。参考になる読者がいるかもしれないので、その理由を紹介しよう。
筆者の試聴環境から説明する。ネットワークオーディオとCDは自宅試聴室と仕事場どちらにもプレーヤーがあるが、レコードプレーヤーはスペースの関係で仕事場だけ、という状態が何年も続いていた。以前はそれで困らなかったのだが、試聴でLPを聴く機会が増え、新譜やリマスター盤をLPで買うことも多くなったので、やはり自宅にもレコードプレーヤーが欲しいと考えるようになった。そこで、いままで使っていたプレーヤーを自宅に持ち帰り、仕事場に新しいプレーヤーを導入するという方針を決めたのだ。
製品選びにはほぼ一年かけた。手持ちの機器やパーツをやり繰りすれば追加購入なしでもう一台組めそうだったのだが、ターンテーブルだけは最新の良品を手に入れたいと考えて、じっくり選ぶことにしたのだ。
条件は2つ。まずはターンテーブルとしての基本性能が優れていること。回転機構の基本性能は当然だが、シャーシとキャビネットもできるだけ堅固なものがいい。長年使い続けてきたプレーヤーはデノン(当時のデンオン)のDP-80に専用キャビネットのDK-300を組み合わせたシステムで、ずっしり重く、剛性も高い。それに近い重量級のモデルをいくつか候補に上げた。
もう一つの条件はトーンアームの交換、追加が容易なこと。アームベースを交換でき、ツインアームにも拡張できる製品を選び、手持ちのトーンアームや新しいモデルを試す余地を確保しておきたい。特に、手元にある年代物のトーンアームを最新のプレーヤーでもうしばらく使ってみたいという気持ちが日に日に強まっていった。たとえ40年前に作られたものでも、加工精度の高い当時のトーンアームは現代の製品と比べ得る高い性能を維持していることが多い。
今回私がPD-191ALに載せたサエク「WE-407/23」もその代表格で、低音から高音まで反応が良く解像度の高い音は当時の印象と変わっていない。
この2つの条件とは別に、できれば今回はベルトドライブ方式のプレーヤーを選びたいとも考えていた。これまで使ってきたターンテーブルはダイレクトドライブが多かったので、久々にベルトドライブの製品を使ってみたくなったのだ。もちろん駆動方式だけで音が決まるわけではないので、必須条件というわけではない。
求める条件をすべて満たしたラックスマンの「PD-191AL」
これらの条件をすべて満たしたのがラックスマンのPD-191ALであった。新開発のトーンアームが付属するPD-191Aもトーンアームを交換できるが、WE-407/23を載せるとそのアームが無駄になってしまうので、アームレス仕様の登場を待ち、そちらを購入することにしたのだ。ヘアライン仕上げのトップパネルや正面のローズウッドカラーのウッドパネルがたたえる上質な感触に惹かれたこともPD-191ALを選んだ重要な理由の一つだ。
現時点で9種類用意されたアームベースのなかからWE-407/23用の「OPPD-AB4」を選び、ダストカバーとともに本体に追加。あとはマニュアルに従ってトーンアームを取り付ければ完成する。WE-407/23はアームの高さ、インサイドフォースキャンセラー、そしてラテラルバランスの調整が必要だが、いずれも動作に問題はなく、アームリフターの動きもなめらかだ。30年以上使い続けてきたが、肝心のダブルナイフエッジ機構も含めてすべての機能と性能を維持しているうえに、外観の劣化もほとんど気にならない。あらためて当時の加工技術の高さを思い知らされる。
使い始めてすぐ気付いたのが、起動と停止に要する時間が意外に短いことだ。DP-80のようにすぐ立ち上がり、一瞬で止まるわけではないが、回転が安定するまで待たされることはなく、操作にストレスを感じない。
ストロボスコープのストライプ表示はコントラストが高く、とても見やすいし、回転数調整も微調整しやすく、不用意に動きにくいなど、細かいところまでていねいに追い込んでいる。除電ブラシで盤面をクリーニングするときも回転数の低下がほとんどなく、プラッターの慣性モーメントの大きさは仕様の数値から期待した通りだ。
PD-191AL 音質レビュー:「往年の名録音からも力強い再生音を引き出してくれる」
PD-191AL+WE-407/23にフェーズメーション「PP-2000」を組み合わせ、フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団によるドビュッシー《イベリア》を再生した。骨格が安定したダイナミックレンジの大きい音が飛び出し、思わず声を上げてしまうほど驚いた。アームとカートリッジは流用し、回転系とシャーシが変わっただけ。それなのに、音の変化は予想していたよりずっと大きかった。
モーターの取り付け方法を見直した成果なのか、ノイズフロアが低く、無音部の静寂感はラックスマンの歴代モデルと比べても一歩抜きん出ているように感じる。現代の録音からは息遣いや余韻の消え際までさまざまな微小信号を聴き取れるし、往年の名録音も無音から立ち上がるアタックの瞬発力が凄まじく、LPを聴いていることを忘れさせるほど力強い。WE-407/23の長所である解像度の高さと切れの良いレスポンスを素直に引き出していると感じるし、録音の特長やレーベルごとの音調の違いも聴き取りやすい。
名録音のリマスター盤をLPで聴くことも現代の聴き手に与えられた贅沢な楽しみの一つだ。ブリテン《戦争レクイエム》の自作自演盤を聴くと、各パートの間の距離感やソプラノ独唱の長めの余韻など、意図して作られた3次元の空間表現を精密に再現していることに気付く。
このリマスターはSACDでも聴いているが、「怒りの日」の金管楽器の音圧感はLPの方が強く、実在感と説得力にあふれている。セパレーションやダイナミックレンジはSACDの方が有利かもしれないが、初演直後のセッション録音において、この作品の世界観を音で表現するために最良の手法を追求した録音チームのパッションがLPから確実に伝わってくる。
フォノケーブルの交換でさらなる音質の追い込みも
PD-191ALを導入してからの最初のグレードアップとして、フォノケーブルをサエクの「SCX-5000」に交換してみた。導体はPC-Triple C、プラグ部分の剛性も高いので音が変わることは予測していたのだが、変化の大きさは半端ではなかった。
低音の支えが厚くなり、ベースやバスドラムが押し出す音圧感が一段階上がる。ベースやティンパニは芯が強く、ピアノの低音パートもグランドピアノらしい重量感が出てきた。エネルギーバランスの重心が下がるというよりは、ソリッドかつ重量級の低音を獲得したという印象で、特に近代の管弦楽作品や鳴りの良い現代のピアノの録音と相性がいい。WE-407/23の出力はDIN端子なのでフォノケーブルを頻繁に変える使い方には向かない。良い結果が得られたので、今後もSCX-5000を使い続けることにしよう。
ちなみにDP-80を中心にした旧プレーヤーには、手持ちのアームのなかからサエクのWE-308Nを専用ベースとともに装着。抜けの良いクリアな音で鳴っている。こちらもまだしばらくは現役で活躍してくれそうだ。
(提供:ラックスマン)