JVCケンウッドが開発を担当
家族が笑顔になるカーオーディオ。「歌声を届ける」Honda純正スピーカー・Gathersのこだわり
車内でパートナーや家族と過ごす大切な時間。そこに高品位な音楽が彩れば、より濃密な時へと変わる。というものの、初めてカーオーディオに手を出そうにも何を買えばいいかわからないものだ。
そこで心強い味方になるのが、普段お世話になっているディーラーで販売・施工するメーカー純正カーオーディオだ。昨年秋、Honda純正カーナビゲーション&オーディオ「Gathers(ギャザズ)」から、新型のハイグレードスピーカーシステムが登場した。そこでエンジニア達のこだわりと、気になる音質についてお伝えしたい。
Gathersが誕生したのは、今から38年前の1987年。前年にソニーが世界初の車載用CDチェンジャーを発売するなど、各社から続々とカーオーディオの実力機を世に送り出し始めた時期である。
Hondaの純正アクセサリーを企画・販売するホンダアクセスは、取引先であったアルパイン、クラリオン、パイオニアの3社にCIVIC、CR-X、ACCORD用のOEMカーオーディオを依頼、販売を開始した。それゆえGathersというブランド名には「一緒にやってくれる(Gather)を集めた」という意味が込められている。わかりやすく言えばカーオーディオのセレクトショップだ。
現在、ホンダアクセスとGathersしているのは、三菱電機、ファルシアクラリオン、松下電器、ハンセン(ディスプレイオーディオ)、JVCケンウッド(CDチューナー)の5社。その中でスピーカーを供給しているのはJVCケンウッドのみである。今回のハイグレードスピーカーもJVCケンウッド製で、約4年ぶりのモデルチェンジとなる。
これらのOEM製品は、単なる名前を変えただけではない。後加工なくビルトインできるのはもちろんのこと、Hondaの厳しい社内規格に適合させる必要がある。自動車の車内は夏の炎天下に代表されるように過酷であるばかりか、万が一発火した際には大惨事が予想される。いかなる条件下でも確実に動作し、安全でなければならない。
もちろん製品供給元各社はそれぞれ独自の試験を行っている。だが企画・販売するホンダアクセス側でも実際に車両に取り付けての試験を実施し、その安全性を確認/担保。ゆえにGathersには3年間6万キロという長期保証が付与される。長期にわたり安心して使えることは、何よりも重要な話だ。
前置きが長くなったが、今回のJVCケンウッド製のハイグレードスピーカーについて話を進めよう。
今回用意されるのは17cm・ミッドウーファーと、2.5cm・ソフトドームトゥイーターの2種類。トゥイーターはビルトインタイプのほか、ダッシュボード等に貼り付けるオンダッシュ形状が用意されるので、都合3種類のユニットがラインアップされる。それを車種によって組み合わせて販売する。
価格はウーファー4基、トゥイーター2基の6スピーカーシステムが6万2700円、ウーファー2基とトゥイーター2基の4スピーカーシステムが4万1800円。あとは別途工賃が加わる。工賃に関しては車種と取付作業を行うディーラーによって異なる。
Gathersが狙う音の方向性とは、どのようなものか。ホンダアクセスの担当者によると、ブランドの主張を前面に押し出すのではなく、カジュアルに誰もが音楽を愉しめるシステムというのを考えているという。そして長時間聴いていて聴き疲れしない音を志しているとも。
その上で重要となるのが「歌声」であり、今回の新製品はその再現性に重きを置いたという。というのも、ユーザーの多くがポップスやロックなどがメインソースであると想定しているからだ。JVCケンウッド側は、その要望に合わせてユニットを開発した。
中でも力作は17cmウーファーだ。振動板は表面にグラスファイバー、裏に不織布を貼ったハイブリッドコーン。これは他のJVCケンウッド製品でも見かけるものだ。
だが大きく異なるのは、中央に設けられた同軸トゥイーターに見えるイコライザー部分(彼らはディフューザーと呼ぶ)が特徴的だ。彼らによると、この形状が最もヴォーカル帯域に効くとのこと。一見金属に見えるが樹脂製で、試作には3Dプリンターを用い、数えきれないほど試作をしたとJVCケンウッドのエンジニアは熱く語る。
磁気回路も、従来は外磁型であったが、今回は内磁型へと変更。これはドアの内側に取り付けるということから、少しでも容積を稼ぎたいということと、併せてウーファー背面から出る音の抜けを良くしたいという考えにより決められたという。
その考えに合わせ、フレームも可能な限り肉抜きがなされている。ちなみ素材は樹脂製。これは軽量化と素材の固有音を嫌ったためだ。
トゥイーターの振動板には従来同様、ポリエステルが用いられているという。また磁気回路も見直され、ボイスコイルの低歪化に注力したとのこと。
試聴に用意したのは、昨年登場した大型ミニバン「オデッセイ」。前席ダッシュボードにトゥイーター、前席ドアと後席スライドドアにウーファーを搭載する6スピーカーシステムだ。これらのユニットは、カーナビゲーション等の本体と直接結線するマルチアンプ方式で動作する。
試聴車のオデッセイが搭載する純正カーナビゲーション(LXM-247VFLi/31万200円)は三菱電機製。Gathersナビ史上最大となる11.4インチの液晶モニターを採用したハイエンドモデルで、フリード/ステップ ワゴン/ZR-Vにも適合する。
注目は三菱電機と共同で調整した車種別音響チューニングを用意していること。設定をオンするとtuned by DIATONE SOUNDのロゴが掲出される。JVCケンウッドのユニットを搭載していながらDIATONEの名が出てくるところに、オーディオファイルとして違和感を覚えなくはないが、いっぽうでDIATONEのお墨付きがあるという安心感もある。なおファルシアクラリオンのナビシステムでは「NEIRO」、松下電器製では「音の匠」という名で車種専用音響チューニングが用意されている。
LXM-247VFLiは192kHz/24bitまでのPCM音源に対応するハイレゾ音源に対応しているので、USBメモリにmoraで購入した96kHz/24bit、44.1kHz/24bitのFLAC音源をインストールして試聴を行った。選曲画面はテキスト表示のみで、正直やりづらさを覚えた。折角の大画面なのでアートワークを出してほしいところだ。
もっとも一般的に利用されるであろう設定として、アコースティックセンターを車両中央にセット。続いて比較のためtuned by DIATONE SOUNDをオフにした状態から試聴を始めた。
一聴して作為的なところが少ない、とても素直な音と聴いた。低域はやや控えめなのは、室内のエアボリュームが大きいことと、サブウーファーなどを搭載していないから。中高域の明瞭度が印象的で、高域が伸びているのに耳障りに感じないのはソフトドームトゥイーターの恩恵だろう。クリアで陽性のハイスピードサウンドは、聴いていてハッピーな気持ちにさせてくれる。
ポジション設定をフロントにすると、本システムの魅力がいっそう増す。切れ味の良さは特筆すべきところで、2024年に話題を集めた「こっちのけんと」の『はいよろこんで - From THE FIRST TAKE』は、伸びのよい歌声と、ボイスパーカッションという異なる声を見事に描き分ける。リズムの良さも相まって「ギリギリダンス」と体が動いてしまう。
そのままtuned by DIATONE SOUNDをオン。するとトゥイーターとウーファーの発音タイミングが合うと共に、周波数特性もフラットなワイドレンジに。歌声にはより説得力が増し、聴き心地がよい。フェーダー(前後バランス)を前席側にセットすると、よりフォーカスの合ったサウンドステージが提示された。
カルロス・クライバーがタクトを振った名盤『ヴェルディ:椿姫』は、サウンドステージは狭いものの、旋律美に溢れた甘美な名作の聴きどころを丁寧に伝えてくれる。クライバーらしい引き締まった躍動感に、イレアナ・コトルバスの伸びやかな歌声は実に甘美。心が躍る。
サラウンドモードはオフも含めて3種類。こちらはフェーダーを中央にした時に効果を発揮する。曲によっては派手にエフェクトがかかり違和感を覚えるが、楽曲と好みで選べばよいだろう。
そのまま後席へと移動してみた。トゥイーターがドア側にないためか、ちょっと音数は寂しく感じるのは仕方のないところ。だがファンダメンタルの音域はしっかりと届く。ステージも運転席・助手席の間にアコースティックセンターがあり、音像の遠さや不自然さは感じなかった。
長時間聴いていても疲れ難いサウンドチューニングのセンスに脱帽だ。セレクトショップならではの高いマーケティング力が、聴き心地のよい音を作り出したといえるだろう。「普段、ヘッドホンで音楽を聴いている人に聴いて欲しい」とホンダアクセスの担当者は笑顔をみせた。個々が尊重され、パーソナルに音楽を愉しむ時代だからこそ、家族が笑顔になれる本システムの価値は高い。
そこで心強い味方になるのが、普段お世話になっているディーラーで販売・施工するメーカー純正カーオーディオだ。昨年秋、Honda純正カーナビゲーション&オーディオ「Gathers(ギャザズ)」から、新型のハイグレードスピーカーシステムが登場した。そこでエンジニア達のこだわりと、気になる音質についてお伝えしたい。
■セレクトショップの別注モデルのようなGathersシステム
Gathersが誕生したのは、今から38年前の1987年。前年にソニーが世界初の車載用CDチェンジャーを発売するなど、各社から続々とカーオーディオの実力機を世に送り出し始めた時期である。
Hondaの純正アクセサリーを企画・販売するホンダアクセスは、取引先であったアルパイン、クラリオン、パイオニアの3社にCIVIC、CR-X、ACCORD用のOEMカーオーディオを依頼、販売を開始した。それゆえGathersというブランド名には「一緒にやってくれる(Gather)を集めた」という意味が込められている。わかりやすく言えばカーオーディオのセレクトショップだ。
現在、ホンダアクセスとGathersしているのは、三菱電機、ファルシアクラリオン、松下電器、ハンセン(ディスプレイオーディオ)、JVCケンウッド(CDチューナー)の5社。その中でスピーカーを供給しているのはJVCケンウッドのみである。今回のハイグレードスピーカーもJVCケンウッド製で、約4年ぶりのモデルチェンジとなる。
これらのOEM製品は、単なる名前を変えただけではない。後加工なくビルトインできるのはもちろんのこと、Hondaの厳しい社内規格に適合させる必要がある。自動車の車内は夏の炎天下に代表されるように過酷であるばかりか、万が一発火した際には大惨事が予想される。いかなる条件下でも確実に動作し、安全でなければならない。
もちろん製品供給元各社はそれぞれ独自の試験を行っている。だが企画・販売するホンダアクセス側でも実際に車両に取り付けての試験を実施し、その安全性を確認/担保。ゆえにGathersには3年間6万キロという長期保証が付与される。長期にわたり安心して使えることは、何よりも重要な話だ。
前置きが長くなったが、今回のJVCケンウッド製のハイグレードスピーカーについて話を進めよう。
■声の帯域を重視し独自形状のディフューザーを開発
今回用意されるのは17cm・ミッドウーファーと、2.5cm・ソフトドームトゥイーターの2種類。トゥイーターはビルトインタイプのほか、ダッシュボード等に貼り付けるオンダッシュ形状が用意されるので、都合3種類のユニットがラインアップされる。それを車種によって組み合わせて販売する。
価格はウーファー4基、トゥイーター2基の6スピーカーシステムが6万2700円、ウーファー2基とトゥイーター2基の4スピーカーシステムが4万1800円。あとは別途工賃が加わる。工賃に関しては車種と取付作業を行うディーラーによって異なる。
Gathersが狙う音の方向性とは、どのようなものか。ホンダアクセスの担当者によると、ブランドの主張を前面に押し出すのではなく、カジュアルに誰もが音楽を愉しめるシステムというのを考えているという。そして長時間聴いていて聴き疲れしない音を志しているとも。
その上で重要となるのが「歌声」であり、今回の新製品はその再現性に重きを置いたという。というのも、ユーザーの多くがポップスやロックなどがメインソースであると想定しているからだ。JVCケンウッド側は、その要望に合わせてユニットを開発した。
中でも力作は17cmウーファーだ。振動板は表面にグラスファイバー、裏に不織布を貼ったハイブリッドコーン。これは他のJVCケンウッド製品でも見かけるものだ。
だが大きく異なるのは、中央に設けられた同軸トゥイーターに見えるイコライザー部分(彼らはディフューザーと呼ぶ)が特徴的だ。彼らによると、この形状が最もヴォーカル帯域に効くとのこと。一見金属に見えるが樹脂製で、試作には3Dプリンターを用い、数えきれないほど試作をしたとJVCケンウッドのエンジニアは熱く語る。
磁気回路も、従来は外磁型であったが、今回は内磁型へと変更。これはドアの内側に取り付けるということから、少しでも容積を稼ぎたいということと、併せてウーファー背面から出る音の抜けを良くしたいという考えにより決められたという。
その考えに合わせ、フレームも可能な限り肉抜きがなされている。ちなみ素材は樹脂製。これは軽量化と素材の固有音を嫌ったためだ。
トゥイーターの振動板には従来同様、ポリエステルが用いられているという。また磁気回路も見直され、ボイスコイルの低歪化に注力したとのこと。
■聴いていてハッピーになる、陽性のハイスピードサウンド
試聴に用意したのは、昨年登場した大型ミニバン「オデッセイ」。前席ダッシュボードにトゥイーター、前席ドアと後席スライドドアにウーファーを搭載する6スピーカーシステムだ。これらのユニットは、カーナビゲーション等の本体と直接結線するマルチアンプ方式で動作する。
試聴車のオデッセイが搭載する純正カーナビゲーション(LXM-247VFLi/31万200円)は三菱電機製。Gathersナビ史上最大となる11.4インチの液晶モニターを採用したハイエンドモデルで、フリード/ステップ ワゴン/ZR-Vにも適合する。
注目は三菱電機と共同で調整した車種別音響チューニングを用意していること。設定をオンするとtuned by DIATONE SOUNDのロゴが掲出される。JVCケンウッドのユニットを搭載していながらDIATONEの名が出てくるところに、オーディオファイルとして違和感を覚えなくはないが、いっぽうでDIATONEのお墨付きがあるという安心感もある。なおファルシアクラリオンのナビシステムでは「NEIRO」、松下電器製では「音の匠」という名で車種専用音響チューニングが用意されている。
LXM-247VFLiは192kHz/24bitまでのPCM音源に対応するハイレゾ音源に対応しているので、USBメモリにmoraで購入した96kHz/24bit、44.1kHz/24bitのFLAC音源をインストールして試聴を行った。選曲画面はテキスト表示のみで、正直やりづらさを覚えた。折角の大画面なのでアートワークを出してほしいところだ。
もっとも一般的に利用されるであろう設定として、アコースティックセンターを車両中央にセット。続いて比較のためtuned by DIATONE SOUNDをオフにした状態から試聴を始めた。
一聴して作為的なところが少ない、とても素直な音と聴いた。低域はやや控えめなのは、室内のエアボリュームが大きいことと、サブウーファーなどを搭載していないから。中高域の明瞭度が印象的で、高域が伸びているのに耳障りに感じないのはソフトドームトゥイーターの恩恵だろう。クリアで陽性のハイスピードサウンドは、聴いていてハッピーな気持ちにさせてくれる。
ポジション設定をフロントにすると、本システムの魅力がいっそう増す。切れ味の良さは特筆すべきところで、2024年に話題を集めた「こっちのけんと」の『はいよろこんで - From THE FIRST TAKE』は、伸びのよい歌声と、ボイスパーカッションという異なる声を見事に描き分ける。リズムの良さも相まって「ギリギリダンス」と体が動いてしまう。
そのままtuned by DIATONE SOUNDをオン。するとトゥイーターとウーファーの発音タイミングが合うと共に、周波数特性もフラットなワイドレンジに。歌声にはより説得力が増し、聴き心地がよい。フェーダー(前後バランス)を前席側にセットすると、よりフォーカスの合ったサウンドステージが提示された。
カルロス・クライバーがタクトを振った名盤『ヴェルディ:椿姫』は、サウンドステージは狭いものの、旋律美に溢れた甘美な名作の聴きどころを丁寧に伝えてくれる。クライバーらしい引き締まった躍動感に、イレアナ・コトルバスの伸びやかな歌声は実に甘美。心が躍る。
サラウンドモードはオフも含めて3種類。こちらはフェーダーを中央にした時に効果を発揮する。曲によっては派手にエフェクトがかかり違和感を覚えるが、楽曲と好みで選べばよいだろう。
そのまま後席へと移動してみた。トゥイーターがドア側にないためか、ちょっと音数は寂しく感じるのは仕方のないところ。だがファンダメンタルの音域はしっかりと届く。ステージも運転席・助手席の間にアコースティックセンターがあり、音像の遠さや不自然さは感じなかった。
長時間聴いていても疲れ難いサウンドチューニングのセンスに脱帽だ。セレクトショップならではの高いマーケティング力が、聴き心地のよい音を作り出したといえるだろう。「普段、ヘッドホンで音楽を聴いている人に聴いて欲しい」とホンダアクセスの担当者は笑顔をみせた。個々が尊重され、パーソナルに音楽を愉しむ時代だからこそ、家族が笑顔になれる本システムの価値は高い。