電気自動車の静粛性も魅力
走りと音の質感が見事に一致。ラグジュアリーの本質を知るアウディとバング&オルフセン、幸せのマリアージュ
しなやかで上品な乗り心地。静粛な車内に流れる柔らかな歌声が心地よく耳をくすぐる。アウディの電気自動車「Q8 e-tron」とBang & Olufsen(バング・アンド・オルフセン)のエンターテインメントシステムは、走りの質感と音の質感が一致した幸せの組み合わせだ。
本稿で紹介するQ8 e-tronは、7モデルあるアウディSUVラインアップの最上位モデル。114kWhのリチウムイオン電池と2基のモーターによって、全長4,915mm、全幅1,935mm、全高1,635mmという立派な躯体を静かで滑らかに動かすラグジュアリーなSUVだ。
ラグジュアリーといっても、華美な装飾がなくシンプルなのがアウディらしいところ。嫌味さがないゆえか、2000年のCI(カンパニー・アイデンティティ)変更後、我が国でも人気を集めつつある。その車内を美しい音色で満たすのは、北欧のラグジュアリーライフスタイルブランドBang & Olufsenのシステムである。
アウディがBang & Olufsenと手を組みはじめたのは2005年から。だが未確認ながら、2000年に発表したスポーツクーペ「TT」初代モデルにおいて、インテリアパーツに使うアルミの加工について意見を募ったのがコラボレーションのきっかけだったという説もある。いずれにせよ両社はラグジュアリーという共通ワードによって結ばれている。
Q8 e-tronに搭載するBang & Olufsenシステムは、メーカーオプション「サイレンスパッケージ」(30万円)に内包されているもの。このサイレンスパッケージには、Bang & Olufsen 3Dサウンドシステムのほか、プライバシーガラス、アコースティックガラス、パワークロージングドアが含まれている。
ちなみにパワークロージングドアとは半ドア防止機構のこと。半ドア時に自動的に引き込むように閉じるので、勢いよくドアを閉める必要がなく、腕の力が弱い方に嬉しい装備といえるだろう。アコースティックガラスとはガラスとガラスの間に遮音性の高い樹脂を張り合わせたもので、外部からの遮音効果が期待できる。静かにドアを閉めて、静かな車内で、素敵な音楽を愉しむ。なるほどサイレンスパッケージとはうまく表現したものだ。
それでは、アウディQ8 55 e-tronが採用するBang & Olufsenのシステムを紹介しよう。搭載するスピーカーは16基、パワーアンプの総出力は705Wと謳う。
トゥイーターは、ダッシュボードとリアドアに計4基配置。振動板口径が25mmということ以外、詳細は不明。注目はダッシュボードに搭載するトゥイーターが上向きに取り付けられていること。Bang & Olufsenは長年、Beam Width Controlと呼ぶ、上向きに取り付けたトゥイーターの音をディフューザーで拡散する技術を採用してきた。Q8ではディフューザーの代わりにガラスを用いているというわけだ。
ちなみにアウディのフラグシップセダン「A8」では、このディフューザーそのものも取り付けられている。小さいながらも所有欲を充たす演出だ。
トゥイーターに挟まれる形で、ダッシュボード中央には100mm径のセンタースピーカーをマウント。
Aピラーに目を移すと、ミッドレンジ用として40mm径のフルレンジスピーカーの姿をみることができる。トゥイーターではないのか?と疑い耳を近づけたところ、はっきりと歌声を聴き取ることができた。
フロントドアに目を向けると、100mm径ミッドレンジと168mm径ウーファーと2基のユニットが確認できる。よって前席はユニット配置こそ前後バラバラだが、仮想同軸4ウェイ構成といって差し支えないだろう。
リアドアには前述の25mmトゥイーターと168mm径ウーファーを搭載。つまりリアは2ウェイ構成だ。
後席のヘッドレスト後方に目を向けると、Dピラーに100mmユニットの姿を見ることができる。これはサラウンド用として稼働しているとのことだが、バランス・フェーダーで思いっきり後席側に音をふると、ここからメインの音が聴こえてくる。
ラゲッジの床面を取り除くと、サブウーファーボックスとパワーアンプが姿を現わす。サブウーファーの振動板口径は200mmとのこと。
本システムはフラウンホーファー研究機構のSymphoria 3Dアルゴリズムを用いたDSPによってコントロールされている。続いて設定画面を見てみよう。
イコライジングやフェーダー・バランスといった基本設定項目は他社と同様。イコライジングのプリセットは用意されていないので、設定画面はとてもシンプルだ。
いっぽうサラウンド関係はフォーカス、サラウンドレベル、3Dエフェクトと多彩。いずれも詳細は不明なのだが、聴いた感じでは、フォーカスは前後のトゥイーターレベルを変更させて定位感を変えている模様。サラウンドレベルは、その名の通りリアに搭載したサラウンドスピーカーの音量をコントロールしている模様。3Dエフェクトは、音源から空間情報成分を抽出したような音のレベル(効果)を変えているようだ。
車両をお借りし、ソニーのハイレゾウォークマン「NW-A300」シリーズをBluetooth接続した状態からスタートした。本来とは違うアートワークが表示されたのは、恐らくGracenoteなどデータベースから拾ってきたものだろう。
設定画面でイコライザーはすべてフラット、サラウンド関連は全てオフの状態にし、フェーダーを前方中央にセットして試聴を行った。
求道的、神経質といった言葉とは無縁の、楽曲の流れを重視しリスナーに届けるシステムと聴いた。しっかりと下支えする低域とやや暖色系の音色が心地よい。静粛で心地よいQ8 e-tronと相まって、モダンなリビングでリラックスして音楽を聴いているような錯覚に陥る。
Bluetooth接続の音は、運転中に聴くなら大きな不満は抱かない。だが、もう少し情報量を求めたいという欲も抱く。そこでNW-A300と車両をUSBで接続してみた。大抵のカーオーディオシステムではエラーメッセージが出て接続できないが、「ファイル転送」を選択すると、アウディ側から選曲ができた。USB-DACモードは利用できないようだ。この時、僅かにノイズフロアが一段下がり、クリアな音場が出現する。ちなみにUSBメモリーにすれば、その傾向はより高まる。
気をよくしてサラウンドも試した。フェーダーでサウンドセンターを中央にし、サラウンドをかけると、どの席でも包み込まれるようなサウンドが楽しめる。フロントだけの音もよいが、Q8 e-tronとBang & Olufsenが実現したいであろう世界は、明らかにこちらだ。だがデフォルトのレベルでは、不自然な印象も抱く。試行錯誤の末、サラウンドレベルは中央から3目盛りほど下げ、3Dレベルも「低」にした状態が、本システムのベストサウンドであると感じた。
様々な音楽を聴いたが、手持ちの楽曲で最も好ましいプレイバックが、ポルノグラフィティがYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で披露した「サウダージ」だ。カホン、アコーディオン、ピアノ、そして新藤のギターが紡ぐ明るくも悲しいラテンサウンドに、AKG C12で採られた岡野の伸びやかな歌声が重なる。失恋した男性の強がる気持ちを女性の言葉で表現した歌詞がダイレクトに心に染み入り、思わず目頭が熱くなった。これは音楽を表層ではなく本質を伝えている証左だ。
電気自動車ゆえ音楽を聴く時にアイドリング状態にしなくてもよいのも美質。これなら夜の駐車場で、周囲を気にせずに楽しめる。走りも静かで、室内はロードノイズしか聴こえない。BEV(バッテリーEV)またはPHEV(プラグインハイブリッドEV)は、これからのカーオーディオにとって福音になるハズだ。
ゆったりと優雅な世界が楽しめるアウディとBang & Olufsenのマリアージュ。Q8 55 e-tronほど、走りの世界と音の世界を一致させたシステムはないだろう。ラグジュアリーの本質を知るブランドだからこそ到達した世界といえそうだ。
■ラグジュアリーという共通ワードによって結ばれる
本稿で紹介するQ8 e-tronは、7モデルあるアウディSUVラインアップの最上位モデル。114kWhのリチウムイオン電池と2基のモーターによって、全長4,915mm、全幅1,935mm、全高1,635mmという立派な躯体を静かで滑らかに動かすラグジュアリーなSUVだ。
ラグジュアリーといっても、華美な装飾がなくシンプルなのがアウディらしいところ。嫌味さがないゆえか、2000年のCI(カンパニー・アイデンティティ)変更後、我が国でも人気を集めつつある。その車内を美しい音色で満たすのは、北欧のラグジュアリーライフスタイルブランドBang & Olufsenのシステムである。
アウディがBang & Olufsenと手を組みはじめたのは2005年から。だが未確認ながら、2000年に発表したスポーツクーペ「TT」初代モデルにおいて、インテリアパーツに使うアルミの加工について意見を募ったのがコラボレーションのきっかけだったという説もある。いずれにせよ両社はラグジュアリーという共通ワードによって結ばれている。
Q8 e-tronに搭載するBang & Olufsenシステムは、メーカーオプション「サイレンスパッケージ」(30万円)に内包されているもの。このサイレンスパッケージには、Bang & Olufsen 3Dサウンドシステムのほか、プライバシーガラス、アコースティックガラス、パワークロージングドアが含まれている。
ちなみにパワークロージングドアとは半ドア防止機構のこと。半ドア時に自動的に引き込むように閉じるので、勢いよくドアを閉める必要がなく、腕の力が弱い方に嬉しい装備といえるだろう。アコースティックガラスとはガラスとガラスの間に遮音性の高い樹脂を張り合わせたもので、外部からの遮音効果が期待できる。静かにドアを閉めて、静かな車内で、素敵な音楽を愉しむ。なるほどサイレンスパッケージとはうまく表現したものだ。
■16基のスピーカーと総出力705Wのパワーアンプが織りなす音世界
それでは、アウディQ8 55 e-tronが採用するBang & Olufsenのシステムを紹介しよう。搭載するスピーカーは16基、パワーアンプの総出力は705Wと謳う。
トゥイーターは、ダッシュボードとリアドアに計4基配置。振動板口径が25mmということ以外、詳細は不明。注目はダッシュボードに搭載するトゥイーターが上向きに取り付けられていること。Bang & Olufsenは長年、Beam Width Controlと呼ぶ、上向きに取り付けたトゥイーターの音をディフューザーで拡散する技術を採用してきた。Q8ではディフューザーの代わりにガラスを用いているというわけだ。
ちなみにアウディのフラグシップセダン「A8」では、このディフューザーそのものも取り付けられている。小さいながらも所有欲を充たす演出だ。
トゥイーターに挟まれる形で、ダッシュボード中央には100mm径のセンタースピーカーをマウント。
Aピラーに目を移すと、ミッドレンジ用として40mm径のフルレンジスピーカーの姿をみることができる。トゥイーターではないのか?と疑い耳を近づけたところ、はっきりと歌声を聴き取ることができた。
フロントドアに目を向けると、100mm径ミッドレンジと168mm径ウーファーと2基のユニットが確認できる。よって前席はユニット配置こそ前後バラバラだが、仮想同軸4ウェイ構成といって差し支えないだろう。
リアドアには前述の25mmトゥイーターと168mm径ウーファーを搭載。つまりリアは2ウェイ構成だ。
後席のヘッドレスト後方に目を向けると、Dピラーに100mmユニットの姿を見ることができる。これはサラウンド用として稼働しているとのことだが、バランス・フェーダーで思いっきり後席側に音をふると、ここからメインの音が聴こえてくる。
ラゲッジの床面を取り除くと、サブウーファーボックスとパワーアンプが姿を現わす。サブウーファーの振動板口径は200mmとのこと。
■シンプルな設定項目で迷いも少ない
本システムはフラウンホーファー研究機構のSymphoria 3Dアルゴリズムを用いたDSPによってコントロールされている。続いて設定画面を見てみよう。
イコライジングやフェーダー・バランスといった基本設定項目は他社と同様。イコライジングのプリセットは用意されていないので、設定画面はとてもシンプルだ。
いっぽうサラウンド関係はフォーカス、サラウンドレベル、3Dエフェクトと多彩。いずれも詳細は不明なのだが、聴いた感じでは、フォーカスは前後のトゥイーターレベルを変更させて定位感を変えている模様。サラウンドレベルは、その名の通りリアに搭載したサラウンドスピーカーの音量をコントロールしている模様。3Dエフェクトは、音源から空間情報成分を抽出したような音のレベル(効果)を変えているようだ。
■リラックスして愉しむラグジーサウンド
車両をお借りし、ソニーのハイレゾウォークマン「NW-A300」シリーズをBluetooth接続した状態からスタートした。本来とは違うアートワークが表示されたのは、恐らくGracenoteなどデータベースから拾ってきたものだろう。
設定画面でイコライザーはすべてフラット、サラウンド関連は全てオフの状態にし、フェーダーを前方中央にセットして試聴を行った。
求道的、神経質といった言葉とは無縁の、楽曲の流れを重視しリスナーに届けるシステムと聴いた。しっかりと下支えする低域とやや暖色系の音色が心地よい。静粛で心地よいQ8 e-tronと相まって、モダンなリビングでリラックスして音楽を聴いているような錯覚に陥る。
Bluetooth接続の音は、運転中に聴くなら大きな不満は抱かない。だが、もう少し情報量を求めたいという欲も抱く。そこでNW-A300と車両をUSBで接続してみた。大抵のカーオーディオシステムではエラーメッセージが出て接続できないが、「ファイル転送」を選択すると、アウディ側から選曲ができた。USB-DACモードは利用できないようだ。この時、僅かにノイズフロアが一段下がり、クリアな音場が出現する。ちなみにUSBメモリーにすれば、その傾向はより高まる。
気をよくしてサラウンドも試した。フェーダーでサウンドセンターを中央にし、サラウンドをかけると、どの席でも包み込まれるようなサウンドが楽しめる。フロントだけの音もよいが、Q8 e-tronとBang & Olufsenが実現したいであろう世界は、明らかにこちらだ。だがデフォルトのレベルでは、不自然な印象も抱く。試行錯誤の末、サラウンドレベルは中央から3目盛りほど下げ、3Dレベルも「低」にした状態が、本システムのベストサウンドであると感じた。
様々な音楽を聴いたが、手持ちの楽曲で最も好ましいプレイバックが、ポルノグラフィティがYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で披露した「サウダージ」だ。カホン、アコーディオン、ピアノ、そして新藤のギターが紡ぐ明るくも悲しいラテンサウンドに、AKG C12で採られた岡野の伸びやかな歌声が重なる。失恋した男性の強がる気持ちを女性の言葉で表現した歌詞がダイレクトに心に染み入り、思わず目頭が熱くなった。これは音楽を表層ではなく本質を伝えている証左だ。
電気自動車ゆえ音楽を聴く時にアイドリング状態にしなくてもよいのも美質。これなら夜の駐車場で、周囲を気にせずに楽しめる。走りも静かで、室内はロードノイズしか聴こえない。BEV(バッテリーEV)またはPHEV(プラグインハイブリッドEV)は、これからのカーオーディオにとって福音になるハズだ。
ゆったりと優雅な世界が楽しめるアウディとBang & Olufsenのマリアージュ。Q8 55 e-tronほど、走りの世界と音の世界を一致させたシステムはないだろう。ラグジュアリーの本質を知るブランドだからこそ到達した世界といえそうだ。