「テレビ接続もできる!」マランツの”ミドルクラス” ネットワーク対応プリメインアンプ「MODEL 60n」レビュー
ラインナップが拡充する中で登場した注目のHDMI搭載モデル
拡張する一途のオーディオソースの現状を映して、アンプのリーディングメーカー、マランツのステレオアンプのラインナップが広がりをみせている。昨年は、最上位のMODEL 10、横幅22 cmの高音質機MODEL M1のデジタルアンプに加えて、新たにミドル価格帯にアナログAB級のMODEL 60nを投入した。ユーザーにとって選択肢は多いに越したことはないが、多品種化したため、改めてマランツのステレオアンプ群を整理してみよう。
(1)増幅部をクラスD素子で構成したグループが、MODEL 10、PM-10、MODEL 30、MODEL M1。
(2)アナログ構成でデジタル入力を持たないグループが、MODEL 50、PM6007。なお、クラスD素子採用のMODEL 10、PM-10、MODEL 30もデジタル入力は非搭載。
(3)アナログ構成でHDMI等デジタル入力を装備するグループが、MODEL 40n、STEREO 70s、ステレオ構成のAVアンプNR1200。
内外を見渡してこれだけのラインナップを擁するアンプメーカーはない。今回加わったMODEL 60nは現在もっともニーズの多いと思われる(3)のアナログ構成で、デジタルインターフェース付の最新機種である。MODEL 40nが好調な販売を続ける中で、よりフレンドリーな価格帯のモデルを新たに投入したのである。
MODEL 60nのプロフィールをみていこう。プリアンプ部では、HDAMとHDAM-SA2を組み合わせたリニアコントロールボリューム回路が注目される。通常の範囲ではプリアンプによる増幅は行わず、パワーアンプでのみ音量を増幅する可変ゲイン型で、ゼロクロス検出を採用し、操作時のノイズレベルを抑えて、加速度検出機能によりきめ細かい音量調節ができる。
パワーアンプ部はHDAM-SA3によるフルディスクリートの電流帰還型。MODEL 50で採用済みの回路技術を組み合わせ、歪み率を改善している。電源部に大容量トロイダルトランスを搭載、さらに平滑回路に本機専用に開発したカスタムメイドのブロックコンデンサー(15000μF/63V)を採用、電源供給能力を確保している。こうしてみていくとMODEL 40nより先行発売のMODEL 50と共通点が多いことが分かる。出力段はシングルプッシュプルで定格出力は60W+60W。スピーカーターミナルは1系統として、デジタルインターフェースを内蔵するための合理化も各所にみられる。
機構面では、ダブルレイヤードシャーシを採用し、アルミニウム押し出し材のヒートシンクに取り付けられ、電源回路まで一体となったシンメトリカルレイアウトのパワーアンプがユニークだ。MODEL 30nに始まる新世代マランツデザインを纏い、リブ入り高密度インシュレーターが筐体を支える。DACにESS ES9018K2Mを搭載、入力ソースにより異なるが、最大PCM384kHz/24ビット、DSD11.2MHzまで対応する。HDMI ARC入力一系統を装備のほか、HEOSに対応。Amazon Music HDをはじめとするストリーミングサービスが再生可能だ。
マランツのラインアップで強力なワンピースとなる
試聴は編集部の試聴室で行った。スピーカーには、B&Wの805D4 Signatureを組み合わせた。最初にMODEL 60nの音質キャラクターを要約すると、ベーシック機ながら近年のマランツらしい透徹した清澄さの中に明るさ、華を感じさせる。
USBファイル再生から聴いてみよう。伊藤栄麻(pf)の『ゴルトベルグ変奏曲』(DSD5.6MHz)は、音が貼り付かずほぐれて前に出る立体的な音場。共鳴弦の倍音を華やかにふりまくのでなく、倍音をじんわりとにじませ一音一音に量感のある骨格のしっかりした厚みのある再現。低音域の強い入力に豊かな音圧感がある。
森山良子の『さとうきび畑』(192kHz/24ビット)は、帯域の広さを感じさせ、歌声が歪みなくのびやかに再現される。アコーディオンやギターの伴奏との距離、立体感、対話も美しい。伴奏楽器の音色にくもり、歪みがなく、ヴォーカルを支える。型番の末尾にnの付く製品はネットワーク対応を意味する。登場時期からして本機のソースの本命はストリーミングだろう。HEOSアプリからAmazon Musicでストリーミングをチェックした。
ホリー・コール『ダーク・ムーン』(96kHz/24ビット)は、引き算の美学のコンボ演奏をバックに歌声が聴き手に迫ってくるオンマイク録音のソース。ジャズクラブの至近距離で演奏を目の当たりにする臨場感がポイントだが、歌手のマイクを舐めるようなハスキーボイスが本機持ち前の解像力でリアルに空間に現れる。アルコ奏法のアコースティックベースの太く厚い響きも生々しい。
セガン指揮、ヨーロッパ室内管弦楽団のブラームス(192kHz/24ビット)は、過剰な情感を排した清澄で見通しのよい演奏だが、本機は低弦の厚み、セクションの分離が適切でバランスが美しい。木管楽器はじめ多彩な音色の表現も申し分なく、本機の音質キャラクターとぴたり一致して好結果。本機が描き出すのは、澄んだきれいな音ばかりではない。ディストーションの効いた演奏の生々しい再現もやってのける。
ザ・ビートルズ『Get Back (Rooftop Performance)』(96kHz/24ビット)では、この時期のビートルズ特有の、レイドバックして重心の下がったサウンドを再現。聴き手を1969年のアップルコープス屋上に連れていく。
本機はMM対応のフォノイコライザーを内蔵する。一方でHDMI ARC入力一系統を装備、リビングでテレビと接続すれば、映像配信や放送コンテンツの音声を高音質で楽しむことができる。多機能かつ対価格比を超えていく高音質。MODEL 60nはマランツのステレオアンプ群を隙間なく埋める強力なワンピースと言える。
MODEL 60n SPEC
●定格出力:80W+80W(4Ω、20Hz〜20kHz)、60W+60W(8Ω、20Hz〜20kHz)●全高調波歪み率:0.02%(20Hz〜20kHz、両チャンネル同時駆動、8Ω)●周波数特性:5Hz〜100kHz(±3dB)●ダンピングファクター:100以上(8Ω、20Hz〜20kHz)●入力感度/入力インピーダンス:1.9mV/47kΩ(PHONO MM)、200mV/16kΩ(CD/LINE)●出力電圧:220mV(SUB WOOFER OUT)●PHONO最大許容入力(MM):80mV(1kHz)●RIAA偏差:±0.5dB(20Hz〜20kHz)●S/N比(IHF Aネットワーク、8Ω):87dB(5mV入力、PHONO MM)、113dB(定格出力、CD/LINE)●入出力端子:RCA入力×3、PHONO(MM)×1、HDMI ARC×1、同軸デジタル×1、光デジタル×1、USB-A×1、2.1ch プリアウト×1、ヘッドホン×1、ネットワーク×1、Bluetooth/Wi-Fiアンテナ入力×2、マランツリモートバス(RC-5)入出力×1●消費電力:220W(待機時0.3W/通常スタンバイ、2W/ネットワーク・コントロール ON)●サイズ:442W×129H×431Dmm(ロッドアンテナを寝かせた場合)●質量:13.0kg●取り扱い(: 株)ディーアンドエムホールディングス
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
本記事はオーディオアクセサリー196号からの転載です