同じピアノ曲でも、エレーヌ・グリモーのバッハは、量感主体の録音で重ったるい再生になりがちだが、XT8はその中から透明な響きを浮かび上がらせる。位相管理が行き届いて定位が鮮明なためか、演奏者の姿が視覚的に浮かんでくるのもXT8の特徴で、スタインウェイの鍵盤上を滑走していくグリモーの長く白い指先が眼前に迫ってくるようだ。
ヴォーカルはどうだろうか。アンナ・ネトレプコのソプラノ歌唱は、まさに「リアルB&W」。スピーカーシステム間の奥まった高みに、清らかな女神のようにすっきりとした輪郭でネトレプコの歌が現れる。このやや寒色系の清冽で気品に満ちた成熟感のある美学は、B&W以外のスピーカーシステムでは味わえない。
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本機はサランネット使用を前提にしてチューニングしているが、あえてネットを外した状態でも聴いてみた |
ジャズを聴いてみよう。筆者の愛聴盤のクレア・マーティン「ヒー・ネヴァー・メンションド・ラブ」(SACD)は、生々しい肉声の解像より、深い奥行きの中にコンボ演奏、そしてヴォーカルをクローズアップし、リラックスした大人のジャズを聴かせる。ただしベースの音はややブーミーである。そこで、それまでフル開放状態だった前面バッフルの2つのポートに発泡ウレタンのチューナーを入れると、バランスが改善された。
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