今回はシリーズの中で先駆けて導入される「XT8」を、恵比寿のマランツ・ショールームで試聴した。使用システムは、SACD/CDプレーヤーに「SA-7S1」、プリアンプに「SC-7S2」、モノラルパワーアンプに「MA-9S2」×2という構成である。

恵比寿のマランツショールームでXT8をじっくり聴き込んだ

音が出て“音楽”になった瞬間、2台のXT8を中心に深々とした音場が広がり、紛れもなく「ああ、B&Wを聴いているのだ」と実感する。眼前にあるシルバーのスリムなスピーカーシステムから、これだけ雄大で奥行きのある音楽が再生されるのは感動的ですらある。

ピリスのショパン後期作品集は、一音一音の粒立ちと立体感が美しい。XT8の回析効果を排したエンクロージャー形状とトゥイーターの威力によるものだろう。彼女の人生を滲ませたような指先のコントロールによる音の彫琢は、まさに手で触れられるようだ。

 

同じピアノ曲でも、エレーヌ・グリモーのバッハは、量感主体の録音で重ったるい再生になりがちだが、XT8はその中から透明な響きを浮かび上がらせる。位相管理が行き届いて定位が鮮明なためか、演奏者の姿が視覚的に浮かんでくるのもXT8の特徴で、スタインウェイの鍵盤上を滑走していくグリモーの長く白い指先が眼前に迫ってくるようだ。

ヴォーカルはどうだろうか。アンナ・ネトレプコのソプラノ歌唱は、まさに「リアルB&W」。スピーカーシステム間の奥まった高みに、清らかな女神のようにすっきりとした輪郭でネトレプコの歌が現れる。このやや寒色系の清冽で気品に満ちた成熟感のある美学は、B&W以外のスピーカーシステムでは味わえない。

本機はサランネット使用を前提にしてチューニングしているが、あえてネットを外した状態でも聴いてみた

ジャズを聴いてみよう。筆者の愛聴盤のクレア・マーティン「ヒー・ネヴァー・メンションド・ラブ」(SACD)は、生々しい肉声の解像より、深い奥行きの中にコンボ演奏、そしてヴォーカルをクローズアップし、リラックスした大人のジャズを聴かせる。ただしベースの音はややブーミーである。そこで、それまでフル開放状態だった前面バッフルの2つのポートに発泡ウレタンのチューナーを入れると、バランスが改善された。

 

新XTシリーズの中心にして先兵を務めるXT8は、期待に違わぬ出来栄えだった。デザイン性の高さと高い音質が単に両立しているだけでなく、スリムで剛性のある筐体設計だからこそ、この曇りのない爽やかで広がりのある音場が実現できるのだ。これはスピーカーシステムの逆説とも言うべきものだが、B&Wは見事にこの解を導き出した。この辺りに同ブランドの真骨頂を見る。

これからXT2、XTCが順次導入されるが、同じシリーズでサラウンド音場を描き出した時、どんな音の風景がそこに現れるのか、期待は高まるばかりである。